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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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仲良くなるにも段階というものがきっとある

 寝床でふと気づくと、なんだか体がゆさゆさと揺らされているのに気づいた。……もう、なにー?もぞもぞと布団を抜け出して上半身だけ起き上がる。昨日は結局みんなで夜ご飯を食べながら喋ってたらだいぶ遅い時間になったから、そのまま宿に帰って寝てたはずなんだけど。それで今日はみんなで狩りに行く、予定ではあるけど、昼からじゃなかったっけ。眠い目をこすりつつ、窓から差し込んでくる光に目をしばしばさせながら部屋の中を見回すと。なぜかベッドの隣に椅子が移動していて、ナズナがそこに座って、こちらに手を伸ばして、ずっと僕の体を揺らしていた。



「ファッ!?……えっと……え……なに?……なんでここにいるの?」


「宿の名前聞いてたから、ちょっと早めに遊びに来ちゃった。受付のおじいちゃんが部屋教えてくれたよ。あの子にも友達がやっと訪ねてきてくれたんだなって感動されちゃった」


 え、昨日知り合ったばっかりなのに、女の子同士ってそんなにすぐ距離縮めるもんなの?なにそれこわい。あと、ぼっちなの、宿のおじいちゃんにまで心配されてたんだ。じいさん、感動するのはいいけど他人を部屋に無断で通すより前に直接言え。……というか、まだ揺らしてる。もう起きた。やめて。HP1減っちゃう。


「もう起きました。揺らされてると目が回るんでそろそろやめてください」


「あ、ほんとだ、敬語に戻っちゃった。来た理由はね、ユウさんが昨日、『ああいう子はすぐふらっとどっか行っちゃうから、友達になるなら早めに仲良くなっとかないと駄目よ』って言ってくれたから、思い切って」


 思い切り過ぎだと思う。あと、ユウさんが地味に共犯にされている。……うーん、別にすぐどこか行く予定はないんだけど。でも、よく考えたら、上級魔族が一人倒されたわけで、魔王軍的に召集とかかかったりするのかな?そうすると行かないといけないんだろうけど、みんなに対するいなくなる言い訳が難しいなー。その間ちょうちょを追いかけて森の中をさまよっていた、とか適当なのでもいいんだけど。消えたセカンド的な。……でも、それで納得されたら逆に嫌かも。さすがにそんなアホの子だと思われてはないはず。え、はずだよね?ちょっと自信なくなってきたけど、大丈夫だと思う。






「……あの、例えばですよ。私がいなくなって、しばらくして、ちょうちょを追いかけて森をさまよってたと言って帰ってきたら、どうします?」


「あ、なんかありえそう。サロナちゃんならしょうがないなって思うかも。でも心配だから見張っとかないと、って思っちゃうなあ。え、そんな予定あるの?」


 それって予定か?あと、見張るってなに?この子ちょっとたまに言動が恐ろしい。え、でも僕そんなイメージなの……?まあいいか、僕のパーティー内の知的イメージはこれからどんどん作られていくだろうし。最初は周りに侮られているほうが、それを覆した時のプラス評価は高いし。なかなか本物の賢さというものは他人には伝わりにくいものだ。


「ナズナが私にどんなイメージを抱いてるかはわかりました。……あの、ずっとこの状態で話すのもあれなので、どこか行きます?着替えるので、ちょっと待ってもらえたら」


「そのパジャマ、かわいいよね。どこで買ったの?」


 このパジャマは部屋にある衣装箪笥の中にずらっとたたまれてしまわれてたやつだ。色違いだけど、デザインはどれも同じで、ふわふわもこもこであったかいやつ。……というか、この部屋にあったのって、大量のパジャマと洋服だけだったんだけど。もともとのサロナってどういうスパイだったの?双眼鏡とか、何もないじゃん。まあ本物のスパイが双眼鏡を使うかどうかは知らないけど。


「でもそれ、サロナちゃんらしくっていいと思うよ。すごい似合ってるし」


 ……なんだか、僕の知的イメージ構築の実現は、まだまだ難しそうだった。







「お待たせしました。……どこに行きましょうか?」


「うーん、ギルド以外ならどこでもいいけど。おすすめの場所とか行きたいところ、ある?」


 残念ながら僕も部屋で引きこもったり、外でひたすら戦ったりと、ほとんど街の中を知らないからなあ。うーん。そういえば、アクセサリー屋に行こうって、昨日思ってなかったっけ?せっかくだから行ってみようかな。


 そして、二人でアクセサリー屋に歩いて向かう。店はお決まりの宿屋のおじいちゃんに聞いたおすすめのお店だったけど、今日はやけに説明に力が入っていた気がする。まるで友達とうまくいくように応援されてるような。え、そんなに友達いなさそうだった……?おじいちゃんにも僕のイメージを直接聞いてみたい気はしたけど、なんだか自分が傷つく未来しかなぜか見えなかったので、またにする。





 そうして15分ほど歩いて、たどり着いた裏路地のお店は、なんだかおしゃれっぽい雰囲気の場所で。棚にネックレスやイヤリング、ケースの中には指輪がずらりと並んで、なんだか全体的に色とりどりだった。……ただ、ここには回復のアイテムを探しに来たんだよね。棚の間を通り、回復系の効果のあるアクセサリーを探す。んー。ないなー。やはりここはプロの意見を仰ぐべきか。そして店員さんを捕まえて、案内された先には、ナズナがいた。すげえ。僕の欲しいものが言わずともわかるとは。眺めていると、こちらに気づいていないのか、なんだか迷った表情でずっと棚を見ている。と思ったら何かを手に取って、また戻した。なんだろう。


 近づいてみると、それはリングネックレスみたいだった。効果は1分ごとに最大HPの5%回復。僕のHPって5だから、その5%だと0.25かー。小数点以下ってどうなるのかな。


「それ欲しいんですか?」


 と後ろから声をかけると、ナズナは「ひゃっ!」と声を上げてちょっと背筋を伸ばし、こちらを見た。


「びっくりしたー。いつから後ろにいたの?」


「ついさっきから。だいぶ迷ってるなーと思って見てました」


「……見てたんだー。うーん、気になるっていうか……」


 なんだか複雑な表情をしている。僕も棚をよく見ると、それはペアのネックレスみたいだった。あー。お揃い的な?でも、迷ってたのはなんでだろう。押してきそうだけど。そう思ってナズナの顔を見たら、なんだか不安そうだった。……そういえば、ナズナの最初の印象って、おとなしそうっていうのじゃなかったっけ。……今日は結構ぐいぐい来るのは、距離を詰めようとして、ひょっとして無理してたのかも。僕も仲良くなるのは望むところなので、こっちも頑張って、一歩進んでみよう。



 そうして、僕はそれを手に取り、


「せっかくだから、よかったらお揃いにしませんか?」


 と声をかけて、そのまま購入する。店を出て、そのうち一つを渡すと、ナズナは受け取ったそれをじっと眺めて、しばらくして、少し笑った。どういう意味の笑いかはわからなかったけど、きっと間違ってなかったんだと思う。



 ……そして二人でお揃いのネックレスをして狩りの集合場所に行ったら、残りの三人にすごくにやにやされた。中でも一番ユウさんがいい笑顔をしていた。……この人共犯じゃなく、主犯だこれ。

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 なんだか複雑な表情をしている。僕も棚をよく見ると、それはペアのネックレスみたいだった。あー。お揃い的な?でも、迷ってたのはなんでだろう。押してきそうだけど。そう思ってナズナの顔を見たら、なんだか不安…
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