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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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22/113

始まりの終わり。

 三人組が追いかけてくるかもしれないので、少し歩いたところにあるカフェにギャレスと女の子の三人で入り、しばらくほとぼりを覚ます。女の子へのお詫びもかねて。……まあ、追いかけては来ないかな? ギャレスが振り回した人とか、もう最後動いてるのが不思議なくらいだったもん。僕、水平に人が飛んでいくのって生まれて初めて見た。でも、街の中だから死なない、素晴らしい。決めた。もし、僕が戦闘についていけなくなったら、ずっと街に引きこもろう。その際は、なんなら街の入り口に立って街の名前を言うぐらいならボランティアでやってもいい。上級魔族が入口で出迎えてくれる街とか、観光名所にならないかな。





 今後の人生設計(?)について僕がそう決意を固めていると、どうやら女の子はようやく男の子扱いされたことに対する怒りを収めてくれたようだった。


「あの、さっきは興奮してしまってすみませんでした……。間に入っていただいたのは本当に助かったので。ありがとうございました」


「こちらこそすみませんでした……あの、さっきはギルドで片っ端から魔法を覚えてたんですか?」


 いや、流れ的に教官が言ってた子がこの子だろうと思うんだけど、違ったら恥ずかしいから、一応確認。


「はい、何をしていいのかよくわからないまま時間だけ過ぎてしまって、やっとギルドで魔法をたくさん覚えたと思ったら、その帰りにさっきの……」


 すごくかわいそう。さらに話を聞くと、この子はあんまりログインせず、現実世界の食堂で楽しくご飯を食べたり昼寝をしたりということを繰り返していたら、いつの間にかゲーム内の時間がどんどん過ぎていて、大幅に出遅れてしまったのだという。……あれ、かわいそうじゃなくなってきた。この会社のテストプレイヤーの管理は一体どうなってるんだ。





「それで、今からだと仲間になってくれる人もいないんだろうなって思うと……」


 ただでさえ小さい体がさらに縮まって、しょんぼりしている。それは自業自得では、という疑問が頭に浮かぶが、それを口にするのはやめておいた。だって勧誘するつもりなのに、いきなり喧嘩を売ったら元も子もないし。それにまだ開始4日でしょ?さすがにいないってことはないだろう。



「いや、とろとろしてたら置いて行かれるのは当たり前だろ。知らない奴を4日も待つ訳ねえじゃねえか」


 ギャレス!ストップ!思ったことすぐ口にするのやめて!普通は4日で参加者全員がパーティー組めるわけなんてないんだから……あっ……ちょっと泣いてる……。そのまましばらくすごく気まずい時間が流れた。泣き止んだ女の子にお店の人にもらったお手拭きを差し出す。何でもあるなこの世界。そして、そのまま声をかけて、手を差し出す。かつて僕がユウさんとヴィートにしてもらったのと同じように。


「あの、よかったら、私たちと一緒に狩りとか、行きません?さっき言ってたのは嘘じゃなくて、本当に魔法使いの人が欲しいって思ってたんです。だから、まず一緒に行動してみて、もし仲間になってもいいって思ってくれたら、その後パーティーに入って欲しいなって。まずはお試しで構いませんから、一緒に行きませんか?まだパーティー組んでない人もたくさんいるし、あなたなら引く手数多だとは思うんですけど、よかったら」


 その子はそれを聞いてちょっとびっくりしたように目を見開いた後、大きくうなずいて、少し笑った。よかった。ただ、一人が厳しく接した後もう一人が優しく寄ってくるって完全にヤクザの手口だと思う。僕たちちょっとこれから人に対する接し方を考えた方がいいかも。


「私たちって、あんたのパーティーに俺も入ってるっていうのでいいんだよな?」


「まだ駄目です。もう少し発言に気をつけられるようになったら、ギャレスも正メンバーですね」


 その後、今更ながらお互い自己紹介する。ギャレスもそういえば、職業も知らないし、ちょうどいい。


「ギャレスだ。LVは16。職業はモンク。ステータスはこれだ」


「ナズナ、と言います。LVは1。職業は魔術師で、ステータスはこれです」


「サロナです。LVは9です。あの……ステータスって、見せないといけませんよね、やっぱり?」


 なんかまずい流れだなあ、って思ったんだよ。その後、僕のステータスを見たギャレスとナズナさんはそれぞれ「なんで俺がこれに負けたのかわからねえ」「私、恵まれてたんだな、って思いました」という一言をくれた。仲間なりたてなのに二人とも歯に衣着せぬスタイル。





「そういえばサロナさんっておいくつですか?誰に対してもずっと敬語ですけど」


「大学1回生ですよー。19歳です」


 ずっと敬語なのは、それをやめると僕ってつい言っちゃいそうになるから。僕は少なくとも現実世界で生きた僕っ子を見たことない。日常生活から違和感を持たれないのがスパイの義務なのである。


「私と同じ!えっ、同い年なら、……お互い敬語やめない?私、サロナちゃんとこれから友達になりたいし」


「ナズナさんはタメ語でいいですけど、私は敬語が癖になってるので、このままで。友達になるのは素敵ですね」


「えー……じゃあ、せめて……ナズナさんはやめてほしいな」


「一足飛びに距離を詰めてきますよねー。……では、ナズナと呼びます」


「……俺に年齢を聞く奴はいねえのかよ」


 ギャレスがなぜか対抗してきた。その後もたわいない話を三人でして、たまに笑って。たぶんこれからも僕たちはうまくやっていけるんじゃないかと思えるような、そんな最初のやり取りだった。









「いやー、これは想定してなかったわー……」


 話がある、と呼び出された先で、ヴィートが言いたいことがたくさんあるような顔をして、こちらを見ている。ユウさんは僕の左右にいるギャレスとナズナを交互にきょろきょろ見ている。ごめんなさい、疑問はよくわかります。


「お前って、今日の昼までソロだったよな?」


「はい」


「その二人は?」


「暫定お試しメンバーです」


「二人とも?」


「そうですね」


「……実はさ、俺たちもサロナをパーティーに誘おうと思ってて、それでさ」


「三人一緒でよければ、ぜひお願いします!」


「……あ、OKなんだ。よかった、もう仲間がいるんでって断られる流れかと思ったぜ。複数で来たのを見た時マジ焦ったわ」


「断るっていう選択肢はなかったですねー、お二人に一緒にって誘ってもらえるなら、当然参加です」




 そして僕らはもう一度お互いに自己紹介をし合う。それはきっと、ここからこのメンバーで一緒に行動することを確認する儀式のようなもので。そしてしばらく話した後、「パーティー結成記念に夜飯でも食いに行こうぜ!」というヴィートの提案に全員が賛成し、すっかり暗くなった道を、食堂に向かってみんなで歩き出す。



 しばらくして、僕は列の一番後ろに来たあとなんとなく立ち止まり、早くも仲良く話しながら前を行く四人の背中を眺めた。きっと、このメンバーなら、どこまでもいけるんじゃないかと、理由はないけど、そう思う。……たとえ最後に、僕がいなくても。そして、僕は今見ているこの場面をきっとこの先ずっと忘れないだろう、という予感がして、同時に訳が分からない寂しさに襲われたところで、ユウさんが振り返り、僕を呼んだ。



「どうしたの?早く行こう?」



 そのまま小走りに追いかけて、みんなと合流する。まだ決まっていないこと、言わなくちゃいけないことがたくさんあるけど、それは、これから、少しずつ考えていけばいいことだと、そう思った。

またすごいギリギリに……m(__)m

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