ギルドでのごたごたはきっと通過儀礼的な
大変お世話になった教官にそのまま別れを告げ、ギルドの受付のあるホールにギャレスと戻る。結局一時間も待たせてしまった。ギャレスは何もせずに端っこでただ腕組みしてこちらを見ていただけだったから、連れ立って歩きながら謝る。
「すみません、長いこと立ったままお待たせしてしまって。退屈だったんじゃないですか?」
「いや、魔法を習得って場面には初めて立ち会ったんだけどよ、あんなに大変なんだな。感心してたところだ。やっぱり強くなるには苦労しねえと駄目だな」
ごめん、たぶん他の人はもっと簡単に習得してるっぽいんだよ。教官も言ってたやん、前の子はどんどん覚えてたって。でも努力を大切だと思うその気持ちは持っていてほしいので、何も言わずそのまま歩く。そして、ホールが近づくと、なんだか向こうが騒がしい。……なになに?
「……あの、何度も申し上げてる通り、パーティーに勧誘していただけるのは嬉しいんですが。なにぶん初対面なので、もう少し考える時間をください」
ホールへの廊下を抜けると、魔法使いっぽいローブを羽織った女の子が、三人組の男のパーティーに勧誘されているところだった。……なんていうかさ、もうどういう状況かすぐわかるんだけど。どうなってるのこの街。
「だって、まだ誰とも組んでないんでしょ!だったらいいじゃん、俺たちと組めばさ!任せてよ!」
この街って、人がテンプレ通りに行動するようになる毒ガスでも自然発生してるのかな。VRの良くない部分が脳に影響とか、してるんじゃないだろうか。せめて自分達だけでもまともでありたいよね。ギャレスを振り返って尋ねる。
「ああいうのって、どう思います?もちろんよくないですよね」
「弱そうなのにうるせえ奴らだよな。あの三人ぐらいなら、まとめて10秒で四つ折りにできるぜ」
人を四つ折りというのがどういう状態を指しているのかはちょっとわかりかねたが、どうもこの人も回答がおかしい。ここは僕がしっかりせねば。とりあえず女の子と彼らの間に入り、話しかけてみる。僕もさっきギャレスに助けて(?)もらったしね。お互いさま。
「あのー、すぐ決められないって言ってるんだからこの場で無理やり返事させなくていいじゃないですか。仲間決めるってすごい大きな決心がいるんですよ。わかってあげてください」
まあこんなこと言っても無駄だけど。だって、それが分かってない訳がない。分かってて、そんなこと別にいいやと思ってやってるんだし。でも、彼らの、女の子の前でいいとこ見せたい、という部分が発揮されることを薄く期待して。駄目?
「あ、君もかわいいね!せっかくだから一緒にパーティー組まない?……あれ、君って、ひょっとしてウサギの子?俺、ウサギ倒すの大得意なんだよ!どう?」
やっぱりそうか。よし、殺そう!どうしよう。仲間の片方をニンジンに、もう片方をウサギに変えた幻覚を見せて、そのままニンジンをぼりぼり食べるウサギ、というのはどうかな。……ちょっと悪趣味過ぎるか。
「だいたいその子まだレベル1なんだぞ?今からだと全員に置いて行かれるだろうし、誰も組まないならその方が可哀想だろう。だから俺たちが一緒に行動しようって、誘ってるんだよ」
うーん。その見えてる下心がなければいい話なんだけど。あと、ギャレスがさっきから、こいつらを何発殴っていいか、ひそひそ後ろから聞いてきている。いちおうこっそり聞いてきてるのが進歩の表れか。もう殴る回数の問題になってるけど、まだ実力行使に移ってない相手にそれをするとまずいかも。大事になる前に早くこの場を収めたい。……ん、組む人がいない?
「……私、組みたいです!だってこの子すごく戦力になってくれそうなんですもん。私が1時間かけて1個の魔法を覚えたのに、この子は短時間でどんどん魔法を覚えたって教官が褒めてましたし」
教官が言ってたのは多分この子のことだよね。何でもすぐ覚える子だったって。それに、熊との戦いで、魔術師のお姉さんは大活躍だったし、文句なしにかっこよかった。僕の魔法剣士への未練をちょっと思い出すくらいに。正直、魔法使える人が仲間に欲しい。後ろの女の子が「1個1時間……」と呟いているのは全然聞こえない。
「だから俺たちが先約なんだってば!」
まあそう言うよね。この子かわいいし。肩くらいまで伸びた栗色の髪に、ちっちゃくおとなしそうな感じで、小動物系?うーん、この三人が仲間に入れたいのは、この子が女の子だから。たぶん。それがなくなれば、入れる理由はなくなる。理由がなくなれば、引くだろう。……認識阻害、ステータス改ざん、発動。同時に女の子に幻聴を聞かせる。話を合わせてほしい、と。そしてこっそり三人組に耳打ちする。
「あの、よく鑑定してみればわかると思うんですが、この子男の子ですよ?勘違いしてると思うんですけど」
「……えっ」
それから先は早かった。女の子を鑑定した後、三人組は早々に彼女への興味をなくし、去っていった。すがすがしいほどの見切りの速さ。その後に僕が引き続き勧誘された際、イライラしたギャレスが結局彼らの一人を片手で振り回すという些細なアクシデントはあったものの、ギリギリ平穏に終わった、気がする。そして、その後は本物のステータスに性別が入っていないことを彼らが気付く前に、ここから三人で退散するだけだった。……ステータス表示いじれるって、そこはまず疑わないからほんと卑怯。
「あの、ありがとうございました。……でも、私、男の子じゃありません!!」
「ほんとすみません。でも、ああするしかなかったんです」
……自分で言っててもそうか?と思う説明をしながらひたすら女の子には謝った。よく考えたらウサギとニンジン作戦でもよかった気もするよね、誰にも迷惑かからないし。次会ったらそうしよう。
ブックマーク100記念で毎日更新分とは別に。ありがとうございましたm(__)m
三人組がひどい目に合うルートは、深夜のテンションで書いたらとてもスプラッタな感じになってしまったので、お蔵入りとなりました。




