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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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スパイ、当たり屋と遭遇する

 街へ散歩に行く前に僕は一度ログアウトし、そのまま施設の食堂で紅茶を頂いてくる。ゲームの中でも飲み物は飲めるんだけど、なんか紅茶だけ納得いかないんだよね。他はおいしいから満足。標準的なおいしさって感じだからまだ進化の余地はありそうだけど。さすがに現実の食堂の方が味は上だし。……VRなら頑張ったらすごくおいしいものの味だけ再現とかできたりしないのかな。でも、そうなったら現実の食べ物屋が潰れちゃいそう。難しいね。





 そのままログインし、部屋の中を見渡す。窓の外は既に夕方になりかけているらしく、差し込んでくる夕陽に照らされて、部屋の中の物はすべてが赤く染まりつつあった。この部屋も慣れてきたけど、ちょっと物が少ないかな?衣装棚と鏡しかないし。ベッドはふかふかで文句ないんだけど。その辺も買い物しながら見てみようかなあ。なんと、森に遠征に行った結果、5000ゴールドも分け前をもらってしまったから!もうなんでも買えてしまう。

 ちなみに額が多いのは、熊の毛皮を譲ってもらった形になって申し訳ないとユウさんがいくらか僕にお金を多めに渡してきたからでもある。僕が毛皮をもらうという選択肢は元からなかったのでちょっと申し訳ないけど、ありがたくいただいておこう。あまり固辞するのもなんだし。






 そのまま部屋を出て階段をととと、と降り、今日もNPCの宿屋のおじいちゃんにおすすめの店を聞く。今回は道具屋とアクセサリー屋を教えてくださいな。一番いい店を頼む。


 そして宿を出て、夕暮れの街中を歩く。そういえば、今まで夕方に外に出たことってなかったっけ。僕が歩いていてすれ違う、道行く人たちはぱっと見ではプレイヤーかNPCかわからない。あらためて、すごい技術だと思う。NPCもちゃんと会話ができるし。№7のアルテアさんとか、僕よりしっかりしてそうだったしね。……このゲームって、どれくらいお金かかったんだろう。あらためて僕は不思議に思う。まあでも現実世界のお金を気にしている暇は僕にはなかった。今は5000ゴールドの使い道をどう配分するかである。まずは、道具屋から。しゅっぱーつ!






 ……NPCとプレイヤーの見分け方。僕に声をかけてくる奴はプレイヤーだ。忘れていた。とりあえず僕の前で「ウサギ」という単語を発する奴は全員敵だと認識すると、目の前の男の誘いを断りながら心に決めた。「いいからとりあえず着いてきてくれ」ってなんやねん。事案発生。それに、ウサギは僕の永遠のライバルだからして、馬鹿にする系の扱いを受けるのは個人的に許せんね。



 ところが、その男は断られたというのに、無理やり僕の手を引っ張って、「いいから来いよ!」と叫んだ。そのまま無表情で道を引きずられながら僕は考える。あ、これめんどくさいパターンだ。だってさー、こういう時ってたいてい邪魔が入るやん。水戸黄門の悪代官と同じで、この手の輩が目的を達成したとこ見たことない。でももし誰も助けに入らなかったら、物陰に入った瞬間、レベルアップした認識阻害の実験台2号にしてやろう。むしろ今後を考えるとそっちの方がいいな。さっき無理やり声をかけてきた実験台1号が教えてくれたことなんだけど、けっこうできることの幅が広がったんだよね。


 そして、身長差のせいか斜めになって転びそうになりながらしばらく引きずられたのち、横から声がかけられる。ほーら始まった。……こういうシーンだと、できれば逆の立場がよかったけど。


「道の真ん中で走るな、邪魔だ、どけ」

 

 振り向くとやたら目つきの悪い、ガタイのいい兄ちゃんがこちらを見ていた。……なんか思ってたのと違う。そのままその兄ちゃんは言葉の続きを口に出す。


「女連れで調子乗ってんじゃねーぞ」


「えっ」


 これで女連れに見えるなら、目か頭の病院に行った方がいいと思う。なんか引きずってる男も困惑している。というかお前、自分のやってることのまずさの自覚あったのな。中途半端に常識持ってるみたいだから人さらい(?)的なことなんてやめといたらいいのに。目の前のこの人の方がよっぽど常識なさそうだよ。


「あの、この人連れじゃありません」


 一応誤解を解くべく説明してみる。さすがに友人と思われたくないし。そうすると、その兄ちゃんはめんどくさそうに答える。


「手つないで仲よさそうに走ってたじゃねーか。羨ましいわ、見せつけんな」


「無理やりつながれたまま引っ張られてたんです!初対面なので仲良くありませんし!正直今も繋いでるの気持ち悪いし。ほら、そうですよね!あなたも説明してください」


「いや……その……」


 通りの真ん中で視線を集めながら非常にしにくい説明を求められた男は、しばらく佇んだ後、急に手を離して群衆の中に消えていった。呼び止められたからといって足を止めるその中途半端さがお前の敗因よ。あと、こんな狂人の前に僕を一人にするな。でも助けられたのは確かだし、お礼を言おうと頭を下げる。


「助けていただいて、どうもありがとうございました」


「?……よくわかんないが、まあいいや。でも、助けたっていうなら何か礼してもらわないとな」


「」


 なんだこいつ、当たり屋か。いやまあ、謝辞だけで済まそうとしたのは確かに虫が良かったかもしれん。何がほしいのかな。とりあえず向こうの話を聞いてみよう。相手の求めているものを知るのが、交渉での基本だし。


「……何がご希望でしょうか?」


「あんた、弱そうだからな。強そうな奴なら思いっきり戦うんだが、弱い奴と戦ってもすぐ終わってつまんねえし。あんたがさっきの男とじゃなくて俺と付き合ってくれるっていうのでも、あんたがいいならそれでもいいけどな」


 男と付き合うのはごめんだった。付き合うなら、可愛い女の子を希望します!できれば内気系で、紅茶を入れるのが上手ければなお良し!……話がずれた。……かと言って、この場を抜け出すのは、できるか?難しいかなあ。あと、今の反応を見るといちおうそこまで狂人じゃなさそう。「あんたがいいなら」ってつけてるし。いやまあ誤差の範囲内みたいなもんだけどさ。狂人の部類には入るけど、重度じゃないって意味で。





 ……でもこいつ、間違いなく脳筋だよね(偏見)。きっと認識阻害のいい実験台になるんじゃないかなー。一対一で向き合って死ぬまで戦うっていうなら間違いなく100回中100回負けるけど。今この状態から移動してスタートなら、確実にかけられる。これで、相手に一発当てたら勝ち、ってルールとかだったら勝てるんじゃない?倒すっていうのは無理だね。ダメージ与えられないし。


「実はこう見えても、私、あなたより強いと思いますよ。どうですか?試してみません?どこか人目につかないところに行きましょう。さあさあさあ」


「それなら一番ありがたいわ。まあ、望み薄そうだけどな」







 そうして裏路地に入り、広くなったところで向き合う。周りには誰もいない裏道が通っているだけで、邪魔は入らなさそうだった。……というか今更根本的な問題に気づいた。街の中で戦えるのかな。多分無理じゃないかな。どうしよう。ちなみに認識阻害はここに着くまでに既に念入りにかけているので、負けることはない。はず。……街中でも発動する認識阻害には最初は違和感があったが、よく考えるとステータス偽装を街の中でもしないといけないから、この仕様は完全に運営様の都合だろう。


「ルールはどうします?一発でもまともに攻撃を先にあてた方が勝ち、ということにしましょうか。私避けるのが得意なので、できればその辺は譲っていただけると助かります」


「街中じゃいくらぶん殴ってもダメージは与えられねえ。何度試しても無理だった。けど、強いかどうかならそんなこと関係なく動きでわかるさ。そのルールでいい。すぐに終わる。……あんたが負けたらどうする?」


 試したのか。まあダメージを与えられない、というのならなお良し。僕が死ぬ可能性がないから。


「その場合は差し上げるお礼の範囲が大きくなります。要相談ということで」






 ……そして、僕らは向き合い、その一分後、決着がついた。この兄ちゃんは思ったよりもはるかにヤバい相手だったが、それでも、この超限定的なルール+事前準備ありだと僕はほぼ負けない、ということが分かっただけでも収穫だろうか。あと、負けた後、予想より相手が落ち込んでしまったので、なぜか二人でご飯を食べに行くことになった。……ずるをしてるのでなんかこれ、罪悪感が半端ない。すまんな。

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