フラグ通りボスと遭遇する
森の中をしばらく歩いていると、突然視界が広がり水場のほとりに着いたので、少し休憩しようということになった。
水場は足首あたりまでの深さの澄んだ水が20メートルほど向こうまで広がっており、木々に囲まれた薄暗い空間の中、静かな水面だけが淡く光っているようで、なかなか幻想的な風景に見えた。ただ、静かすぎるせいで、逆に何かが出てきそうにも見える。出ないよね?
それを眺めながら水辺の草むらで座ってのんびり。
現実なら水場には動物が集まってきそうだけど、これはゲームなのでそんなことはない。いや、ない、はず。どこで休んだってエンカウント率は同じだと思います! 決して眺めの良さにひかれたわけではないんです、わかってください。誰に弁解しているかは不明だけど。
そういえば、2日目の時点で攻略組が森に入ってるって言ってたっけ。そのあとボスって撃破されたりしてないのだろうか。休憩場所の問題点から目をそらしているような気がするのは置いといて。掲示板は僕がウサギ倒せない情報が全員に共有されているのを見てそっ閉じして以来、開いてないからわかんないな。
「……そういえば、この森のボスってどんな魔物なんですか?何か情報とか更新されてたり、しません?」
「お前掲示板見てないのか?……ごめん、そんな悲しそうな顔するな、わかった、気持ちは大いにわかる、教えるから!攻略組は森のボスと一度戦ったらしいんだけど、どうも撤退したらしい。熊の魔物だったってさ。……何だよ、今度はちょっと嬉しそうだな。……忙しい奴……」
熊! ほら当たった! 知ってる! 序盤に出てきて圧倒的な攻撃力と体力を見せるも主役達のコンビネーションを前になんやかんやあって無事退治され、たいていレアな素材を提供してくれるやつだ!
肝心のどうやって倒したかという部分が僕の中であいまいなのが不安要素だけど、何とかなるだろう。いけるいける。
……しかし、なんか嫌な予感もする。前回こういう流れでホーンラビットに退治されかけた過去を忘れてはいけない(戒め)。最大限の注意を持って臨むべきだろう。
「……なんで撤退した、とかはわかります?」
「なんでも、この森に出現する魔物を呼ぶらしいんだ。その魔物がボスを守ってそれで攻めきれず、ダメージが多くなってきたから撤退したと。逃げられるなら、一応こっちも直接様子を確認しといて損はないだろう、ってことで来たんだよ。少なくともどの辺にいるかぐらいは把握しておきたいしな。まあ、誰が倒すか予約するようなもんでもないし、倒せそうなら倒してもいいけど」
「ふーん……」
なるほど。撤退ができる。つまりはボス戦でも逃げられる、ということ。魔王と戦っているときはなんだかそれは怪しいけど、それは先のことだろうし。勝てそうになかったら逃げるの安定、か。
「そのボスの名前の後ろに数字がついてて、№50だったって話よ。早速だけど。まずは一番下っ端との顔合わせ、ってことよね、たぶん」
緊張した面持ちでユウさんも続けるが、あれ、これ朗報じゃない?№50、一番弱い奴やん。あのレベル1の時の僕に負けるような強さってことだよね。あれ以下ってことは、たぶんジャンプして着地した瞬間に足首脱臼するくらいの虚弱体質に違いない。かわいそう。せめて骨は拾ってやろう。
僕たちはもう少しの間休んだ後、水場を後にして、さらに森の奥へ進んだ。森の奥に脅威がないと分かったせいか、ちょっと足が軽く感じる。結局水場で魔物にも会わなかったし、今日はついてるね!
そうして僕たちが進んでいると、前にプレイヤーが三人、道を進んでいる姿が見えた。男性二人、女性一人。ずいぶん武装してるのが遠くからもわかる。装備の質も、今まで道で見かけたプレイヤーより少し良さそうだった。あれもボス狙いじゃないだろうか。
ボス、虚弱だからこのままだったら狩られちゃうよ。どうしよう?
ユウさんとヴィートを見るが、二人ともどうするか決めかねているらしかった。たぶん僕がいなかったら、共闘一択だったんだろうけど。
結局、そのまましばらく後を追いかけるような形で道をもうしばらく進む。
……すると、先を行く三人が急に足を止めた。あれ、ボスがいたのかな?
その一瞬あと、僕らの全身にびりびりと衝撃が走り、森の外まで届くのではないかと思うほど大きな轟音が木々の間を縫って響く。それが咆哮だと気づいたのはさらにその一瞬あと。
先にいた三人が、まだ逃げていない。いや、逃げられないのかもしれない。ユウさんとヴィートがこちらを見ているのに気づき、思わず僕は前を指さして「行きましょう!」と思いっきり叫ぶ。まだ続く咆哮の中で聞こえているかはわからなかったけど、意味は通じたはず。
そのまま三人で前の組が立ち止まったあたりまで行くと、そこは木のあまり生えていない広場のようになっていて、そこで4メートルくらいある赤毛の熊と対峙している先行者三人がいた。熊は前脚だけで僕の胴体くらいありそうで、爪は短剣よりずっと長い。
……まずい、強そう。少なくとも虚弱ではなさそう。さっきの咆哮を聞いてから嫌な予感はしてたんだけど。最悪先行者三人は置いて逃げよう。まずはボスを鑑定!
〈ステータス〉
名前:アンドレアス(№50)
種族:魔族
(鑑定不能)
攻撃力:55
防御力:48
(鑑定不能)
HP:320
MP:15
(鑑定不能)
(鑑定不能)
……僕の初期HPの100倍以上あるんだけど。上級魔族のステータスに格差がありすぎる。これはあの三人がやられている間に撤退ではないですかね。
そう進言しようとして後ろを振り返ると、ユウさんとヴィートがやる気満々な顔で武器を抜いているのが見えた。
「一番弱い子が真っ先に助けようとして駆けつけたんだから、私たちが逃げるわけにはいかないわ」
「まったくだ、あとは俺たちに任せとけ」
……二人には、勝てないと思ったら撤退しよう、と言うのが精いっぱいだった。
そして、これからは思いついてすぐ行動に移すのをやめようと、そう心に誓った。




