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ゲームの中で魔王から世界を救おうと思ったらジョブが魔王軍のスパイだった  作者: うちうち


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エピローグ(1)

「――上級魔族(№38)サロナがNPCにより討伐されました」


「――上級魔族(№7)アルテアがNPCにより討伐されました」


 二人が消えたそこに、無機質な、通知のメッセージだけが流れる。それにいったん誰もが動きを止めるが、


「あいつの気持ちを無駄にするな!行くぞ!」


 と叫んだヴィートの声に、全員がはっとしたように動き出す。その場で全員に対して声を張り上げながら、ヴィートはいろいろなことを考える。


 


 ……あいつは結局、何だったんだろう。魔族でも別に構わないと思う。あいつはあいつだ。ただ、誰よりも前で、1人だけで、魔族と戦って、消えた。


 プレイヤーに混じって一人だけ隠しごとをしながら過ごすのも、自分の所属している魔王軍を裏切るのも、どれだけ陰で悩んだんだろう。そして、この場の全員を守るために、自分の命を捨てた。誰よりも怖がっていた、彼女が。


 もう会えない、という内容の。部屋のごみ箱から発見された、何度も書き直されたであろう、手紙の束。机の上に置かれたパーティーメンバーに向けた手紙には、一言、ごめんなさい、とだけ記されていた。……きっと、最後にはこうすることを。彼女はその時から、決めていたのだろう。




「……ずっと部屋にこもって、目を赤くしていました」


 予言者が話す。きっと、一人で戦うのも、自分のかつての仲間と戦うのも、辛かったはず。そして、俺たちパーティーを、プレイヤー全員を守るために、自分一人が抜け出して。そして結局、彼女は一人で、黙って、手の届かないところに行ってしまった。彼女のために、これから何ができる……?


「そういえば、街が滅ぼされた、と聞いたときは非常に、何かこう、衝撃を受けられたような顔をされていました。……その後はずっと暗い表情で。きっと、滅ぼされた街の人たちのことを憂いておられたのでは」


 ユーリーがそう話す。それを聞いて、予言者が思い出したように口にした。


「そういえば、私の所に来た時から、彼女は口癖のように言っていました。……世界を、救いたいと」


 世界を救う。この、魔王軍から侵攻されている、世界を。……ひょっとして。彼女はきっと、NPCも含めて、全部を助けたいとそう思っていたのだろうか。それは届かなかった願いだ。そして、彼女は確かにこう言っていた。「クリアできるなら、それが一番です」。全てを救え、プレイヤーが解放される、たった一つの方法。……自分たちにできること。そう考えて、ヴィートは切り出す。


「――ちょっと提案があるんだ。ついてきてくれる奴だけで構わない。俺はこのままで終わる、っていうのは嫌だ。あいつの望みを、叶えてやりたい。死ぬ可能性が少しだけあるのがなんだ。何度死んでも、戻ってきてやり直してやる」











 ……僕は目を開ける。なんだかやけに周りが眩しかったので、何度もまばたきする。目が慣れてきて、見渡すと、そこは白い部屋。……胸が痛んで、げほっ、とせき込んだら口から血があふれ、布団に赤い染みを作る。その時初めて、自分の腕に点滴が刺さっているのに気づいた。ここは……?


 何かの音が鳴っているけど、どこか現実感がないように聞こえて。僕は点滴のパックをとりあえず手に持ったまま、そろそろと床に足を下ろした。ここがどこか、確かめないと。……でも、どうやって?そして、歩き出そうとして、床に転ぶ。全然足が言うことを聞いてくれなかった。誰かが騒ぎながらこちらにやってくる足音を聞きながら、僕は再び視界が暗くなるのを感じた。








「……はあ……」


 僕は明るい窓の外を眺めながら、今日もベッドに横になる。……ここは、テストプレイが行われていた施設に併設されていた病院の、病室。一人部屋を用意してくれたので、他人に気を遣う必要はないんだけど、それでもいろいろと考えちゃう。……あの後、どうなったんだろう。でもきっと、安全地帯が出来たんだから、そこに隠れてくれてるはず。うむ。







 ……結局、僕は生還できた。肺に穴が開いてたらしいから、無事に、とは言わないけど。今も胸の奥に変わらず痛みはあった。あと、ちょっと痩せた。そして、今日も、ゲーム会社の人がやってくる。


「体調の方はいかがですか?何か足りないものがあれば、おっしゃってください」


「体調はいいです。そろそろこの階なら出歩いてもいい、と言われました。他の人は、まだ……?」


「まだ、誰も。……我々も、解析に全力を尽くしてはいるのですが……」


 そう答える会社の人は、どこか魔王軍武器庫の白衣のお兄さんに似ていたが、会話の内容自体は普通だった。別に、取り繕っている感じもしない。


 ……この人頑張ってるみたい、という微かな囁きが頭の中で、聞こえた。僕にもなんとなく、嘘かどうかくらいは、ぼやぼやっとなら、分かる。ゲームの中みたいにはっきりとはいかなかったけど。


 幻覚を見せたりできないのかな、と試してみたりしたが、そんなことは当然できなかった。頭の中で思いっきり呼びかけたらたまに内容が伝わるかな?というくらいで、それもできるのは、僕じゃない方だし。それだけでもなんかすごい。どういう理屈なんだ。


「まだ、ログアウトした方も、意識を戻されてはいませんし……」


 死亡組か。結局、死に戻りしてこなかった人は9人。全てがこの病院のベッドでまだ眠り続けているという。……そういえば、寝てる人に呼びかけたら、起きたりしないのかな?こいつ直接脳内に……!みたいな。……どう、いけそう?


 ……やってみる、という感じが心の中でしたので、僕はお兄さんに尋ねてみる。


「……その人たちの病室って、入れませんか?」




 枕元で、心の中で思いっきり呼びかけてみたら、その中の一人は、しばらくして信じがたいことに起きてきた。でも、それ以外はサロナが呼び掛けても、全然反応せず。


 ……サロナは、僕の中に今も確かにいる。でも、なんだかあまりはっきりと出ては来れないみたいで。たまに、こう思ってる、っていうのが感じ取れたりするくらい。でも、確かにまだ一緒に、ここにいた。今もえいえい、と頑張っている雰囲気は伝わってくるけど、相手は全然起きてこない。……こうなったら、持久戦かな。



 僕は、死亡組が寝かされている部屋に泊まり込み、サロナが呼びかけを続ける。僕も一緒にやってみたけど、なんかうるさい、と彼女に怒られてしまった。3日が過ぎたあたりで、もう一人が起き上がってきたけど、それ以外は誰も反応すらしなかった。まだ、生きてはいるんだろうけど。もう聞こえない、っていう可能性もある。





 ……そして、そんな日が一週間ほど過ぎた後、信じがたいニュースが飛び込んできた。……魔王が倒され、ゲームがクリアされた。全員が解放されたと、そう、連絡があった。……三度くらい聞き返した。だって、そういう流れなんてどこにもなかったやん!おかしいでしょ。なんでやねん。


「意味が分からないんですけど!!……いや、なんで戦ってんの!?追加でいっぱい死ぬじゃないですか!そんなの」


「それが……」


 クリアに向けて、何人もゲーム内で死ぬことは死んだけど、全員がきちんと死に戻り、攻略を続けていったという。……そのモチベーションは一体どこから来たんだよ。攻略にはあんまり積極的じゃないように見えたけど。それができるなら、最初からやってくれたら……。



 結局魔王を倒したその場にいたプレイヤーは、43人。ずいぶん多い。あいつ結局大勢でボコられたのか……合掌である。僕はかつての上司の冥福(?)を祈った。そこまで悪い人じゃなかったのに。アレをどうやって退治できるのかは僕にはわからなかったけど。







 そして、今日も僕は意識のない人の部屋で、呼びかけ、疲れて眠る。この人たちの目が覚めないと、どっちみち削除な気がするし。……いや、起きてもヤバいのには変わりないけどさ。そして、眠りに落ちたその中で、僕はどこか聞き覚えのある声を聞いたような気がした。






「……あなたに対するクリア報酬がないのは、フェアではないと思いましてね。私の予想と違う結末を、見せていただきました」








 翌日、なんだか周りが騒がしい中で、僕は目を覚ました。そこから先は、部屋を追い出され、僕は歩いて玄関から外に出る。許可が出たけど全然出られていなかった久しぶりの外はすごく明るくて。……僕は振り返って、病棟を見上げる。


『この世界に魔法はありません、少なくとも私は今は使えませんな』


 という以前聞いた言葉を思い出して、僕は一言だけ呟いて、その場を後にした。






「……大嘘つき」


主人公「(世界を救うっていうのはそういう意味じゃ)ないです」


主人公「NPCを救いたいって、魔王軍はその中に入れてもらえないんですかね……?」



最後の魔法云々のところは一応背景があったりするので、いつか機会があったら書けたらな、と思います。

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