一時の気の迷いでも、後で取り返しのつかないことがある
――私は、きっとずっと駄目だった。何もできなかったし、何も持ってない。毎日、何も聞こえない、ただ真っ暗な中を落ちていくだけのような、そんな感じ。その中で、手を伸ばしてくれたアルテア様は、私の全てだったけど。結局失敗ばかりで、何も返せないまま、知らない街に一人で行くことになって。やる気もなく、毎日寝てばっかりで。
そうしたら、なんだか、ある日から。よくわからないけど不思議なものが私の中にいるのに気づいた。そして色々あって、人間も悪くないかも、と思ったり、アルテア様に偉いね、って褒めてもらったり。
それから、段々と分かったことがあった。……私が自分で目と耳を塞いでいただけで、世界はこんなに広いんだって。そしてそれを知るたびに、あらためて自分自身がちっちゃいと、そう感じたけど。でもそれは決して嫌じゃなかった。今の自分の小ささを知って、周りの大きさを知って。それだけで、なんだか自分もちょっと大きくなれたような気がした。全然成長できないと思ってた、私。
そんなある日、自分の中にいる誰かが、この世界を作った神様みたいなのと話をしていた。どうやらこの誰かは、神様と同じ、この世界の向こうから来たんだって!何となく、それがうっすらとわかった。びっくり。どこまで広いんだろう、ちょっと想像できない。そして神は女神のはずなのに、おじさんだった。神ってすごい。でも、楽しかった。こんな毎日がずっと続けば嬉しいのに、と思っていたけど。……でも、それはすぐに終わりがやってきた。
全部無くなっちゃうのも、アルテア様の敵になるのも。どっちも嫌。でも、全部が無くなっちゃうのはきっと、敵も味方もなく、全部ってことだと思う。私は、敵だと言われちゃったとしても、ずっとあの方に消えずにいて欲しかった。……でも、あの方に嫌われたら、私には何が残るんだろう。……私?
「私を行動の理由にしないで」とアルテア様に言われた言葉を思い出す。……私がしたいことって、一体、なんだろう。
うとうとしていた僕は、ふと、自分がいつの間にか立ち上がっていたことに気づいた。そのまま、扉の方に向かって足が歩いていく。……いいの?その疑問に答えるべくか、踵を返して机に向かう僕の体。
「一番辛いのがアルテアさんとずっと別れることだから、それ以外ならもうなんでもする。任せる。でも、できるなら。全部無くなっちゃうっていうのを止めた後に、アルテア様に謝りたい」
その字はとても揺れていた。
……この子がどうしてそう決断したのか、僕にははっきりとはわからなかったけど。そこには大きな決意があったんだろう、とそれだけは分かった。
「……」
決意、か……。僕に足りないのは、きっとそれ。この場所を守るために戦う決意を示した彼女に対して、僕は何を返せるんだろう。そう思いながらも、僕は机から離れ、出口へと向かう。
幾人か狩って、アルテアさんが来たらなんとかして倒したら。きっと完全な安全地帯ができるから。そのまま、解析が終わるまでプレイヤーが街を出ないようにしてくれたら、それでいい。そして、そっちはきっと仲間が上手くやってくれるだろう。それが僕たちのゴールだった。
さあ、世界を救いに行こう。別に魔王から、じゃなくても。……正直僕は魔王軍の面々も嫌いじゃなかった。これが成功したら、再び一緒に笑い合える未来が来るかもしれないと信じて。……敵対したの、謝ったら許してくれるかな、無理?アルテアさんは倒されたからには許してあげよう、ってなりそう。フードはどうだろ。その他は……スパイなら裏切ってなんぼでしょ、って言っても駄目な気がする。
……パーティーの皆とは、もう、さすがに無理かな。頑張って謝るまではしてみるにしても。機会が来れば。……でもきっと。彼らは僕がいなくても、うまくやっていけるだろう。それは僕の自業自得だけど、やっぱりちょっと、寂しかった。そう考えて、僕は扉を開け、外に出る。
「目、真っ赤じゃないですか。……そんなに辛いならやめといたらいいんじゃないですか?確か仲間がいましたよね。呼びますよ?」
「いいんです。……それよりも、あなたに手伝ってほしいことがあるんです。私達二人ならきっと世界を守れると、そう思います」
「えぇー……、あなた最近無駄に壮大ですよね。それに手伝いませんよ。私にメリットがないですし」
世界が無くなるのはこの子にとってデメリットではないのだろうか。もう少し身近な方がいい?僕は笑顔でいいことを予言者に教えてあげる。
「魔王軍に、街の中で自由に魔法を使える存在が一人いるんですけどね」
「大災害じゃないですか」
「その人が近い将来私を狙ってやってきます。もし手伝ってもらえなかったら、私うっかりして戦場にここを選んじゃうかもしれません。そわそわしてきました」
「うわあ。ストレートな脅迫だあ。……でも、まあいいですよ、できる範囲なら。あなたが本気なのは私にはわかりますから。……それに、もうすぐ死ぬ人には優しくしてあげようというのが私のモットーでもありますしね」
「ありがとうございます!……あれ?まあいいか。ではさっそく。……あの、退魔の魔法陣って、威力増やしたりできないんですか?」
「効果範囲を狭めたら威力は格段に上がりますけど、まず当たりません。魔法陣の中に入っちゃえば発動後は出られないにしても、相手が都合よく入ってくれないですからね。正直、4メートル四方でもなかなか難しいですよ。……あとはあらかじめ魔法陣を描いてそれに魔力を込めたら、これも威力は上がります」
ふむふむ。とりあえずは魔力を込めるのが確実と。OKOK。
「なら、まずは三日くらい寝ずに魔法陣に魔力的なものを込めて、威力を高めてくれませんか」
「まず、でそれ!?そのあと私何やらされるの!?」
「ちょっと実験したいことがあるので、出かけてきますね。その後で場所を決めましょう」
「ねえ、ちょっと。私の話、聞いてます?」
魔法都市の近くの草原を最後の戦場に予定して、下見をした後に、僕は近くにある塔に再びチャレンジする。
最上階入口の扉を少しだけ開けて中を見ると、岩でできた灰色の竜が目に入った。№19。……認識されないように幻覚をかけた後、僕はそろそろと部屋に入り、相手と距離をとる。30メートルくらい離れたところで、うん、この辺でいいか。
僕は手に杖を持ち、相手に向かって炎の中級魔法を発動させる。ゴォッ、という音とともに大きな火炎が渦巻きとともに竜を飲み込み、ここまで届いた熱風が僕の髪を少し揺らす。……振り向いた竜に持ち替えた次の杖を振ると、空中から生まれた無数の氷柱が、鋭い音とともにその大きな体に突き刺さった。それにひるんだ相手に、次。また次。
12本目、最後の杖を振り終わり、横に放った後。地響きを立てながらこちらに駆け寄ってくる竜に、僕は大剣を振りかぶって迎え撃つ。お互いが激突するその最初の一合で、僕は致命傷と引き換えに、相手の片足を砕く確かな手ごたえを感じた。……あれ、これまでで初めて、僕ちょっと今勇者っぽくない?
「……№10台なら、泥仕合にはなるものの、今の私なら狩れる、と。大変参考になりました。どうもありがとうございました」
物言わぬ岩の残骸と化した竜が光に変わるのに黙礼し、振り返ったのち、半壊した塔の最上階を僕は後にする。1時間、かぁ……ちょっとしんどいかも。同じ防御力で倍のHPがあるアルテアさんに泥仕合で勝つ前に、こっちの補給が尽きる気がする。
宝剣5本を売っぱらった資金で大剣用の魔力回復薬と、自動回復魔法用の魔石をありったけ買い込んだけど。岩山さん(仮)と1時間戦った時点で3割減ったからね。いくらタンク系の相手だったからといって……、残り7割、か。
……決意。……もし、生き残る、と、倒す、その二つの両立が難しいのなら。そして、もう対策を取る時間は多くないなら。……2%だっけ。その程度の確率なら、くぐってみせようではないか。その結果、リスクと引き換えに僕たちの目的が達成できるなら、十分。僕も、サロナと同じく、一番今まで大切に守ってきたルールを。死なない、という選択肢を、捨てよう。僕が巻き込んだ以上、それがフェアな気がした。
そして、無理でも。……二人でこのまま一緒に消えるなら、それはそれで悪くはないか、と一瞬だけ僕は考えて、ちょっとだけ、おかしくなる。いやいや、思いっきり悪いし。
目が赤いって、なんかまたウサギの話っぽいこと言ってる……
すみません、感想のお返事が多分完結後になります。なぜなら私は意志が弱いので、人の話にすぐ、そうだな、と思ってしまうのです。たぶん前々話付近に私自身でも違和感があるので正当なツッコミが入ってると思うんですけど、とりあえず書き終わってから、できる部分は修正します。なので、まだ感想見てません。せっかく書いていただいたのにごめんなさい。私、こういう話が書きたかったんです。




