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「え?」


 僕は夢でも見ているんじゃないだろうか?本気でそう思った。


 いやいやこれはどう考えてもおかしい。


 塾の帰り道の僕の目の前に真っ赤な幼女が寝ていた。いや、寝ているというよりは寝転がっている、といったほうが正しいかもしれない。それも道路のど真ん中に。その幼女は銀髪で、目鼻立ちもくっきりとしていて、日本人ではないようだった。


 いつも通りの塾の帰り道に、なんの変哲もないただの田舎道に、人、それも幼女が寝転がっている様子はあまりに荒唐無稽で、理解し難いものだった。


 こんなところに、何故女の子が?


 そう思い、少し寄って見てみる。すると真っ赤だと思っていたその『幼女』が着ている服が白いもので、赤は下からにじんでいるように見えることが分かった。


 じゃあ、この赤は何なんだろう?


気になった僕はもう少し目を凝らした。どうやらその幼女の赤は、染料の赤のような色ではなく、もっとドス黒いもので、まるで、怪我をしたときにみる血の色のようだ。


 そしてもう一つ、その幼女には特徴があった。下半身が無いのだ。それもなにかとても鋭利な刃物で両断されたように。人間をこんなに簡単に切ることができる刃物を僕は想像することができなかった。


「きゅ、救急車を呼ばないと。」


 僕は、自分を落ち着かせるために、声をだす。


 よし、落ち着け僕。こんな時は日本の素晴らしい医療制度に頼るんだ。こんな時こそ慌てるな、まだこの子は助かるかもしれない。ええと救急車って何番だっけ?ええとたしか…


「お主。」


 うるさいな、一体誰なんだこんな時に僕に話しかけるのは。おかげで救急車の番号がわからなくなったじゃないか。


「お主。話を聞け。」


「え?」


 そこで僕はようやく、その言葉が、道に転がっている『幼女』から発せられていることに気付く。 


 それはあってはならないことであった。何故なら、その『幼女』は人間であって、普通、人間は下半身が無い状態では生きているはずがなく、ましてや喋ることなど不可能だからだ。少なくとも、僕の常識の範囲内ではだが。


「おお、やっとこっちを向いたか。全く、言葉が通じんのかと思ったわ。」


 その幼女は、下半身が無いのにも関わらず、すこぶる元気な様子であった。その状況は、あまりにも現実味がなく、やっぱり僕は夢をみているんじゃないかと、そう思った。


 だって普通、考えられるだろうか?いつも通りの帰り道、いつも通りの時間に、いつも通りの帰り道でかえっていると、下半身のない幼女に話しかけられるだなんて。


「よし、お主、単刀直入に言う。儂に体を寄越せ。」


 そういう幼女は笑顔だった。それも全く屈託のない。人を疑うことを知らない純粋な子供のような。僕はその笑顔に戦慄し、そして恐怖した。心臓があり得ないほど速く打っている。どうやらこの下半身が無い幼女は僕の体が欲しいらしい。


 これがただの幼女に言われたのであれば、ああ、そういうアニメでもみたのかな。と微笑ましい気持ちになって、もしかしたらそのお遊びに付き合ってあげたかもしれないが、どうやらこの幼女は普通ではないようだった。


 逃げないと。逃げないと。逃げないと。 


 そう思うが体が全く動かない。助けを呼ぶのにと声をだそうとしたが、声も出ない。瞬きすらできなかった。


「ほう、そうかそうか、儂に体をよこすのか。殊勝な心掛けじゃな。」


 そういって幼女はニヤリと笑う。


 そして下半身のない幼女は這いつくばりながら僕のもとまで寄ってきて、僕の頭を掴み、そして幼女の頭を合わせた。


「最後にいいことを教えてやろう。儂は『魔王』じゃ。」


 は?魔王?と思うと同時に僕は心のどこかで納得していた。


 ああ、これが『魔王』か。不遜で傲慢で理不尽で人のことなんてこれぽっちも考えていない。まあ、だからこそ『魔王』なのかな。 


 ここで、僕の意識はプッツリと切れた。







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