太陽のツノ
ギラギラギラ
ギラギラギラ
「HEY YO! 夏といえばおれさまの季節だゼェ☆」
夏、真っ盛り。
太陽は波打つツノをとがらせて、地上のすべてのものをするどい日差しで照らします。
太陽があんまりはりきりすぎるので、カエルが暮らしているたんぼは干上がってしまいそうです。
困ったカエルは太陽におねがいしました。
「太陽さん、おねがいだからすこぉしだけ日差しを弱くしてケロ。ぼくのおうちがなくなってしまうケロン」
「あぁん? なに言ってんだ? このおれさまが輝かねぇと、そのたんぼのイネは育たねぇ。たんぼってのはそろそろ干上がる頃合いなのサァ☆」
太陽はそういって相変わらずギラギラギラギラと輝き続けました。
ついにおうちがなくなってしまったカエルは、仕方なくたんぼに引く水がためてある小さな池におひっこししました。
ギンギラギラギラ
ギラギラギラ……
年寄りカメが暮らしている小さなため池に引っ越してきたカエルは一安心。
けれど太陽があんまりにもギラギラと照りつけるので、小さな池も干上がってしまいそうです。
カメとカエルは、太陽にお願いしました。
「太陽さん太陽さん、キミがあんまり輝くものだから、この小さな池も干上がってしまうケロ」
「ほらごらん、イネも水が足りないからきいろくなって首をたれておるわい」
「イネがきいろいのも首をたれているのも、おれさまのおかげで穂をつけたからサァ☆」
太陽はよく見もしないでそう言うと、ツノをいっそう強く輝かせました。
小さな池はすっかり干上がってしまったので、カメとカエルはもっと大きな池にお引っ越しをしました。
小さなサカナがたくさんすんでいる大きな池は、ちょっとだけきゅうくつでしたが、サカナたちはかわいそうなカメとカエルを迎え入れました。
ギンギラギラギラ
ギンギラ ギラギラ……
けれども太陽は容赦なく輝き続け、ついには大きな池をも干上がらせてしまいそうです。
大きな池にすむサカナ達とカメとカエルは、声を振り絞って太陽におねがいしました。
「太陽さん、少しでいいからおやすみしておくれよ。池の水が全部なくなって、ぼくたちみんな干からびてしまうよ」
「HAaHAHAHA! おまえたちがそんな小さな池にいるのがいけないのサ。おれがいる空のように、もっと大きな川にでも海にでも行けばいいじゃないか!!」
太陽はそう言って聞く耳を持ちませんでした。
仕方がないのでサカナもカメもカエルも、みんなそろって大きな川におひっこししました。
川は引っ越してきたいきものたちでおにぎりみたいにぎゅうぎゅうになっていましたが、がまんするしか仕方ありませんでした。
ギンギラ ギラギラ
ギンギラ ギラギラ
ギンギラギンギラ ギンギラリ
太陽のツノはもっともっと強く激しく輝いて、川の水もお湯のようになってしまいました。
カエルもカメもサカナたちも茹だった川でぐったりしていますし、イネはきいろくなってへにゃりとたれて、アサガオもしおしおとツルを土の上になげだしてしまいます。
「HEY HEY! どうしたおまえら、ぐったりして。おれさまの元気をわけてやるゼ?」
陽気な太陽に、だれも、返事をしませんでした。
なにを言っても、太陽は聞いてくれないと思ったからです。
「HEeY……みんな……どうしたんだYO…?」
だれも太陽をみてくれません。それどころか、どうせまたひっこししないといけないのだと心を決めて、「今度は海にいくしかないか?」と相談をはじめます。
太陽はいやな気持ちになりました。
とてもとてもいやな気持ちになり、太陽のツノは、へにゃりとまがってしまいました。
いきものたちはひっこしの用意がいそがしくて、それにきづきませんでした。
「おぉぅい、おぉい……だれか、返事をしておくれヨォ……」
そしてついに、太陽のツノはぽろりと取れて落ちてしまいました。
びっくりしたいきものたちが太陽をみあげると、ぽろりぽろりとツノが折れて落ちていきます。
落ちた太陽のツノはススキ花火のように輝きながら消えていきます。
それは太陽の涙でした。
太陽は自慢のツノがぜんぶ落ちてなくなり、きんいろのまんまるになってしまうまで泣きました。
空は暗くなり、もくもくと大きな雲がやってきました。
「ふぅ、ようやくわたしが近づけるようになったわネ」
雲はさぁっと雨を降らせ、いきものたちは太陽のことをわすれて大喜びしました。
「ありがとう」
「ありがとう」
カエルもカメもサカナも、イネもアサガオも、生き返ったように元気になって口々に雲にお礼をいいました。
それをみた太陽はますますちいさくちいさくなって、ついには雲のうしろにいるのかわからないくらいにかくれてしまいました。
雲はいい気持ちになって、どんどん雨を降らせます。
ざぁざぁざぁ
ざぁざぁざぁざぁっ
小さな池も大きな池も川もすっかり元のようになりましたが、それでも雲はうきうきと雨を降らせます。
川はあふれ、小さなため池もたんぼもおおきくおおきくひとつなぎになって、まるで海のようになりました。
カエルもカメもお気に入りのひなたぼっこの場所が水に埋まって、ずっと泳ぐのに疲れてしまいます。
たぷんたぷんと揺れる大きな水たまりに、アサガオはおぼれてしまうかもと怖くなりました。
「雲さんよぉ、頼むわぃ。このままじゃ、ぜぇんぶ海になってしもうが」
「あぁ、あぁ! ごめんなさいネ」
雲はようやく雨を降らせるのをやめてくれました。
「さぁさ、こんどはあなたの出番でしょう?」
太陽はせっつく雲のせなかにかくれて、なかなか出てきてくれません。
空を見上げてもまっくらで、太陽はどんより暗い雲の向こうのどこにいるのかわかりません。
「太陽さん太陽さん、出てきておくれケロ」
カエルがお願いします。
チラリと雲の切れ間が輝いて、ツノなし太陽が少しだけ顔を出しました。
「……フン、おれさまがいないほうがおまえらみんな元気になれるんだろ?」
「そんなことないわい。ワシはひなたぼっこが恋いしゅうてなぁ」
カメが言うと、太陽はキラリと輝きました。
「ワシはずっとおよぐのはつかれるから、のんびり岩の上でひなたぼっこをして、アンタの元気をもらわにゃぁ」
カメが言うと、太陽はまたキラリと輝きをましました。
よくよく見ると、ちいさなツノが頭をだしています。
「帰ってきてケロ」
「もどってきて」
「元気をおくれ」
みんなが太陽に声をかけると、ちいさなツノがにょきっと大きくなりました。
「わたしたちがかわりばんこでがんばるから、みんなが元気になるのよ」
最後に雲は優しく声をかけ、空の真ん中を太陽にゆずりました。
サラサラ サラサラ
サラサラサラ
恥ずかしそうにしている太陽から降り注ぐのは、朝日のように優しく美しい光でした。
「わぁぁ……っ! なんてキレイな光だろう!!」
歓声があがりみんながお礼を言うと、太陽のツノはまたにょきっと大きくなりました。
「おうおうおまえたち、おれさまの元気をわけてやるゼっ☆」
太陽は生えてきたばかりのツノを伸ばし、まだ少ない元気を振り絞って世界をせいいっぱいのキラキラした光で照らしました。
「太陽さん、ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
カエルもアメンボもサカナもイネもアサガオも、みぃんな口々にお礼をいいました。
太陽はその声に励まされてどんどんツノを大きくさせていきました。
けれども太陽はもう、そのツノで刺すように照らしてみんなを困らせることはありませんでしたとさ。
お・し・ま・い
今年の夏は暑かったですね。
ちょっと日差し弱くてもいいと思う……というところから生まれたお話ですが、最近は急に涼しくなりましたね。ええ、きっと反省したんです。
王道? 正統派??
……いったいどのへんが?
とか思われているかもしれないですが、ほら……ちょっと説教臭いところとか。擬人化太陽と動物とかって、王道ですよね……?
まあ、言い訳は置いといて、ともかく最後まで読んでいただいてありがとうございました!