その後
センターパークには4の独立した行政区画が存在している。
ハンターと呼ばれる野外活動を生業とする人材の育成を重点におくハンター育成地区。
太古の昔に失われてしまった機械技術を再生して過去の発展を取り戻す為に遺跡のサルベージや、古文書の解読、それを使い新たなる機械を作り出す為に全体をシェルターのような構造になっているエンジニア実験地区。
人類の衰退は人類事態の過ちから起こったと考え、厳しい戒律と法律で自らを縛り過ちを二度と犯さぬように地区全体に監視カメラを設置して法律に逆らえないようにしている管理監視特別地区。
そして、最後の一つが人間が自然を破壊し、逆らうがゆえに人類が衰退したという思想を元に、ありのままの自然を保護する事を目的として、一般人には入ることすら許されない。この事からセンターパーク住民にからは、禁断の森とも言われるらしい。
俺達は今そこにいる。
何故そこにいるのかは今から数時間前に遡る。
過程とやり方こそは変だが、保守協会のエリックを地下監獄送りにした後、管理監視特別地区の権限は元の主に返上された。主の名は、ウィルム・バーン。年齢は70代程度。かなり老け込んだ風貌、別の言い方をすればご隠居の男性だ。
彼から是非諸君らの活躍を表彰させてくれないかと言われていやが、辞退した。理由は、俺達の特異能力のせいだ。
特異能力の真名開放は、主にハテノ村出身者の大半が生まれながらにして使うことのできる普通の人間には不可能な事を己の未知の力 (通称MP)を使い現実の出来事として起こす秘技の一つだ。
もし、俺達が表彰台に立とうものならハテノ村出身者は人外のように差別されるか、モルモットのように扱われるか、いずれにしてもろくなことにはならない。エンジニア実験地区で起きた惨劇も、この力が狙われたからこそ怒ってしまったことだ。こんなことは二度と起きてはならない。
このような深い理由があるのだが、それを話すことすら悲劇に引き金になりうる為、理由を述べずに管理監視特別地区をさった。
その後、エンジニア実験地区に向かいハテノ村出身者及び、その子孫達が開放されたと聞きミチュールさんの自宅に集まった。人数は30人程。ミチュールさん曰く、元は80人程だったが、高台での非人道的な実験のせいで、大半がこの世界から喪われてしまい極減してしまった。
ミチュールさんは、実質的なハテノ村出身者の取り纏め役だっので、彼女が「ここにいるといずれまた人の命を何とも思わない集団の実験材料にされかねないからハテノ村に帰らないかなー?
現村長のハロルド君……ハロルドさんは何も怒ってなんかいないから戻ってもいいかなー。
住宅だっていつ戻ってきても良いようにメンテナンスは欠かさないし、食料だってたっぷりある。でも、お金だけは価値がないかなー。
だって人が居なかったもの店なんてものは存在しないからねー。
それでもいいなら、このワームホールに飛び込んでくれるかなー」と言った。
彼女がこの場所に人を集めたのは、このためだった。人は面倒な事は嫌う傾向にある。エンジニアの人にとってはいかに無駄を省く事が重要視されている。YESと言えば帰省できるこの場所は非常に便利なものだ。
会話はすんなりと終わり、エンジニア実験地区のハテノ村出身者は全て帰省した。
「私たちも帰ろうかなー」
ミチュールさんはノリノリなテンションでワームホールに手を掛ける。
「待って」
そこに水を差したのは、アリウムだった。
「何かなー」
ミチュールさんは首を傾げながら訊ねる。
「私、自然体保護地区行きたい。そこに封印されたナチュルハードクレイがいると思う」
「私は聖霊獣には詳しくないから遠慮しようかなー」
きっぱりとミチュールさんは断った。
「ならば、俺がついていく」
そこにハックが名乗りをあげる。
「ありがとう。でも、彼女がそこにいく必要があるよ。フロル。聖霊の力を体内に蓄える変わった力を持ったガーデの娘がいないとね」
フロルは、今地下都市でナチュルハードクレイと一緒にいるはずだ。
「今から連れてくる」
俺はアリウムそう言い、彼女のいる場所までワープした。
「行っちゃったよ。アルスが帰ってこないと、私達も移動できないんだけど……」
「その心配は必要ない。俺がここで待っていよう。その間は、女性陣で楽しんでくれ」
ハックはキザな台詞を吐く。
「じゃあ、遊んでくるね」
※
センターパークのハンター育成地区には豊富な水源が存在していて、そこでは太古の時代に行われていたという行水が廃れながらにも形式を変換して行われている。俗に言う水遊びの事だ。
そんな水辺での遊びを知っている者はアリウムしかおらず、彼女の強い希望によって泉での遊びと言う名のバカンスは始まった。
「先ずは、水着を買おうかな」
彼女達がいるのは、ダイビングショップだ。ハンター育成地区では、ハックのように外部の調査をする人のためにこのような店が存在している。
だが、そんな調査員はあまりおらず、それだけでは店を経営していくことは困難を極めるために副業に近い形で水着の商売をやっている。水着は、一般的な服と比べて1着あたりに使用される布繊維が大変少量ですむ。その上、布面積が小さいほどに喜ばれる。
ここにしか売っておらず、一般的な服と同等の値段で販売されているため、利益率が大変よい。
そのため、店内の9割近くが水着売り場となっている。
「凄いカラフルで派手です……」
店内の光景を見たテクノは圧倒されていた。
「私の可愛い可愛いテクノにはどんな水着がいいかなー。幼い身体のボディーラインがきわ立つスク水系かなー。それとも、まだ育っていない果実のような可愛らしい胸部にあえて胸元の空いたセクシーなビキニを着せるのもいいかなー」
ミチュールは、ハンガーにかかったままの水着を両手にぶら下げて実の娘に言い寄っている。
「自分で選ばせてほしいです」
「そうだよね。ゴメンゴメンゴ」
ミチュールは口から舌を出しながらテヘとポーズした。
「アリウムって昔はどんな水着を着ていたの?」
「唐突だねー。私はサラシを巻いていたよ。現代で近いものと言ったら、包帯が該当するかな」
「それって、際どすぎない?」
「そうかな? 私の中では正装のつもりなんだけど」
「アリウムって、今の状態で水着なんて着れるのかな」
「その点は心配には及ばない。私が活動不能になるのは、クリスタの作った水晶飾りをつけている限り、そんなことにはならないよ。最も、泉なんだから地脈の力を受け取れるからそれすらも関係ないんだどね。
それにしても、最近の水着というものは色々あるよね。水に濡れると色が変化する水着とか、濡れても肌に張り付かないタイプとか、アルカミクスチャーはどんなものを来てほしいかな?」
「(我の時代では、水着と言えばビキニだった。それ以外にもあるが、男を誘惑するという不届きな理由により、好き好んで着用する若人がかなりの数見てきた。
その当時は、現在よりも紫外線が強く、半日水着姿でいようものなら後日想像を絶する苦しみを感じてしまう。そのため、日焼け止めを塗る必要があった。
そんな面倒ごとを楽しみに変えるのがビキニと言うわけだ。我はこれが大好きでのう、若い頃は手当たり次第に日焼け止めを塗ろうかとナンパをしたものだ。
そのせいで、性欲の化身と言われておったがのう)」
「うわぁ……。マジものクズだよ」
クリスタはアルカミクスチャーから距離をとる。
「若い頃は、本能を抑えられないものじゃないの? クリスタだって、アルスの寝ている間に洋服を脱がせたりするじゃない。クリスタもアルカミクスチャーと同じぐらいの変態だねー」
「それは、アルスが着替えないものだからこうでもしないと」
「いくら取り繕うとも、やってることが事だけにクリスタが正真正銘の変態なのは明確な事実でしかないよ。
何よりも、そんな発想こそが変態であることの証明だよ。君も、変態だねー」
「ふと思ったんだけど、よく「君も」ってアリウムが言っているのを聞くんだけど、それってアリウム自身の事も入っているの?」
「そうだよ。一見するとバカにしてるように聞こえるかも知れないけど、さりげなく自分の事を気づかれにくく話すという私特有の会話方法だよ。これに気づくなんてなかなかのものだねー」
「何でこんな難しい会話をしているの?」
「そうだねー。これは、私なりの友好の証のようなものだねー。
昔は人付き合いが苦手で、自分で会話の輪に入ろうとすれば、激しい動悸に襲われてしまう程緊張してしまう体質だったんだよね。今はだいぶ改善されたけどね。
会話の基本は、互いの考えを知る事なんだけど、自分から声を出せないから随分苦労したよ。でも、アルカミクスチャーが「自ら意識疎通が出来ないのであれば、方法を変えればいい。出来ないことを無理すると精神が摩耗してしまう。
相手と似ている所をさりげなくアピールするのだ」とね。私の特有の会話術はこうして生まれたわけだねー。
ところで、どうしてこんなことが気になったのかな?」
「私がアリウムと初対面した時のこと覚えてる?」
「その時は、アルスの身体を借りていたね」
「私の事を変態って言ったよね。ようやくその意味がわかったよ」
「いやぁ、そんな数ヶ月前の事を蒸し返されると恥ずかしくて赤面しちゃよ」
アリウムは、両手で顔を隠した。
「か、かわいい」
「皆には内緒にしていてね。特に、ハックにはね」
「バレると不味いことでもあるのかな」
「そうじゃないけど、私が一番会話をしているのはハックだからこれが知られると、恥ずかしくて顔を見せられなくなっちゃうの」
「(あまり、アリウムを虐めるでない。幾年もの時を過ごそうとも、人は変わらないものだ。
未だか弱き乙女なのだ。その辺でやめてもらおうか)」
「ゴメンね。もうしないよ。
水着選びに戻ろうか」
本題に戻ろうとした時、少し離れた場所で物音が響いた。
「絶対にこっちがいいです!」
テクノの声が店内に響く。何事かと思い、クリスタ達が現場に向かう。
「そうかなー。母さん的にはここはやっぱ白じゃないかなー」
「黒がいいです。こっちの方が理にかなっているです」
二人は、互いに水着を持って言い争いをしている。
「ちょっとちょっと、何でこんなことになっているわけ!?」
クリスタが二人の間に入り、争いを鎮めた。そして、二人の話を聞いた。
「つまり、自分で選ぶと言ったテクノにミチュールさんが余計な事をしてこんなことになった。これで合ってる」
「そうです。母さんは邪魔をしないでくださいです」
「邪魔だったかなー。母親として娘のコーディネートを使用としただけなんだけどー。
テクノはいつもゴシック服を着ているんだけど、私的にはかわいいかわいいロリータ服が似合うと思うんだよねー」
「ロリータは嫌です。品のあるゴシックが一番です」
また言い争いが始まってしまった。クリスタはそれに耐えかねて言った。
「ストーップ。ストップ。親子で言い争いなんかしたらダメなんだからプンプン」
何もかもめちゃくちゃになりアリウムとアルカミクスチャーだけが残った。
「あーあ。何でこうなっちゃうわけ?」
「(一旦リセットさせるか)」
「お願い」
アルカミクスチャーは三人に向けて頭冷水を放った。文字通り、頭を冷やさせる水を出す魔法だ。部類としては精神操作系統の魔法で、触れた相手の精神状態を初期状態に戻す事ができる。
「ヘクチョン」
頭から水を浴びた3人は、揃ってくしゃみをした。
「……?」
いきなり冷静さを手に入れて頭に?を浮かべる。
「2人の意見が混ざり合え良いんだよね。
ゴスロリ系で良いじゃん」
「ゴスロリって……」
「何ですか?」
それから、アリウムは説明した。
「なるほどねー。そういう考えもあるのかなー」
「気品漂うゴシックに、可愛らしいロリータを合わせてゴスロリですか」
「気になってダウジングしてみたけど、そんな物はこの店にはなかったよ」
クリスタが首飾りを右手に持ちながら言った。
「店員に聞いてみよう」
この店の店員は店長しか居なかった。その店長は、彼女らの会ったことのある人物だった。
「なんだい。あなた達か」
小さなメガネを鼻からかけた気品漂う女性のバルトがそこにいた。
「あれ、バルトさんって孤児院の所長をしているんじゃなかったかな」
アリウムは首を傾げながら尋ねる。
「孤児院と聞くと、資金援助を受けているだろうと思うだろうけど、私は一銭ももらってない。慈善事業としてやっている」
「それで、資金稼ぎの為に、ここで店もやっていた訳だね」
「私に話しかけたということは、何か要件があるのだろう。言ってみなさい」
「テクノちゃんの水着をつくってもらいたいの」
「小さな嬢ちゃんの事かい?」
「そうそう、水着のデザインはゴスロリ系で、ワンピースタイプで頼めるかな?」
「なかなか古風なものを注文するじゃないか。テクノちゃん、こっちに来てくれるかい」
「ハイです」
「今から寸法を測らせてもらう。万歳をしてもえるかい」
「こうですか?」
「そうそう、そのまま動かないでおくれよ」
「あんまり、触れられるのは好きじゃないです」
テクノは、ハンガーラックの裏に逃げ込んだ。
「困った子だねぇ」
「私の娘は、サイコメトリーの能力を持っていて、触れた人や物のありとあらゆる情報が直接脳に流れてしまうの。制御不能な状態でね。この手袋をつけてもらえるかなー」
「全く、コントロールできない能力程厄介な物はないね。ほれ、これで大丈夫だろう」
それから寸法を測定して、水着の制作が行われた。1から作ったわけではなく、店にあった水着を改造して作られたので、3分程で完成した。
テクノも、ミチュールも共に満足のいく出来であった。
他の人の水着は無難に決まった。
例の水辺に到着した。人気観光スポットの為、人がちらほら見られる。比較的に水に入っている人はあまり居ないため実質的に独占状態である。
「さて、遊ぶ前にやることがあるよ。何か皆は分かるかな?」
「確か古文書を読んだ限りだとダンスをするんじゃなかったかなー」
アリウムの尋ねに対してミチュールが自信満々に答える。
「うーん……。おおよそは合ってるんだけど、酷い誤訳だねー。
性格には、準備体操をするんだよ。
筋肉の柔軟性を上げることで、水難事故を防ぐ事ができるんだよ」
「準備が必要なほど体は鈍ってないです」
「私も別にやらなくても良いと思うよ」
「同感かなー」
「それもそうだね。早速遊ぼうか。ビーチボールでね。
アクアメイク、性質変換ビーチボール」
アリウムは魔法で水を出し、その後大きめのシャボン玉のような半透明の球体を生み出した。
「ルールは簡単、2対2で別れてこのボールを相手の陣地に目掛けて飛ばして、相手の陣地に落としたら1ポイント入る。5ポイント先取で勝ち。ね、簡単でしょ」
「陣地は何処ですか?」
「おっと、忘れていた。10*10メートルが陣地だよ。それじゃあ、チーム分けをしようか。
じゃんけんでいいよね」
「それがいいです」
彼女らはその結果、クリスタ ミチュールとテクノ アリウムに別れた。
「まずは私からだね」
アリウムはミチュールに目掛けてボールを軽く飛ばした。
「こういう事をするのは久しぶりかなー」
出だしのボールの為難なく打ち返す。
「私だけ身長が低いのは圧倒的に不利です」
テクノはその幼い体を必死に使って相手コートに打ち返す。
「テクノ、悪いけど本気で打ち返すよ」
クリスタがスマッシュを放ち勝負を決めようとする。
「ボールの角度はおおよそ-54°これを止める事は出来ないはず」
「初っぱなから勝負に出るとはなかなかやるね。でも、それは浅はかな考えだね。
アルカミクスチャーお願い」
「(心得た!!)」
アリウムはアルカミクスチャーを出現させた。その龍の尻尾はボールの中央を的確に狙い打ちクリスタの渾身の攻撃は難なく返された。そして陣地のそとに落ちた。
「そう簡単にはいかないか。今度は私から行くよ。一応聞いてみるけど、力を使ってもいいよね」
「力はその人が持っているものだから自由に使えばいいよ。ルールさえしっかり守れば何をしてもいい、ここに気づくなんてなかなかの挑戦者だねー」
「大いなる大地が育みし、力秘めしし結晶よ。その身溶かし汝と重ね合わせ新たなる存在となりたまえ。真実の名の下に」
クリスタは懐から水晶棒を取り出してボールと一体化させた。
「それ、まずは軽く動作テストといきますか」
クリスタはボールを打ち上げた。相手コートではなく、己が宙に浮かび上がらせた。
「手始めにこれはどうかな」
そのボールは不自然な円弧を描きながら相手コートに向かって落ちていく。
「おっと、変わった動きだね」
アリウムがクリスタに打ち返す。
「テストはこれで終了。今度はこれはどうかな」
ボールがクリスタの手に触れると不可視の存在となった。
「流石にずるいです姉さん。後から消えるならともかくはじめから消えているのは不条理過ぎるです」
「まだ優しい方じゃないかなー。クリスタがやろうと思えばアリウムの維持用の水晶を機能不全に陥れることだってできるからねー」
「ははは、洒落にならないよ」
アリウムは苦笑いをしながらそういった。
「ミチュールさん、いくら何でも私達の大切な仲間にはそんな惨い事はしませんよ」
クリスタは真顔でミチュールに語りかけた。例え冗談でも軽蔑に値する許されざる行為なのである。
その静かながら大波を立てている彼女の姿を見て、ミチュールは恐怖した。
私はなんて事を言ってしまったのだろうか。アリウムはアルスによってここに存在できている。つまりはアルスと等しい存在である。そんな彼女に私は残酷極まりないことを軽はずみで口に出してしまった。クリスタには大きなトラウマがある。それは、大切な人が亡くなる事である。
そのトラウマから、クリスタは躊躇することは決してしない。それを引き起こそう者は例え誰であろうと殺る。
その覚悟の殺意は今私に向けられている。
このままではレクリエーション処の話では済まなくなる。
ここは謝るしかない。精神鋭意、心を込めて謝るしかない。
ミチュールは一瞬でそれを判断した。
謝ろうと試みるが、膝の震えと冷や汗が止まることを知らない。顔がこわばって声をあげることも出来ない。
「絶記水二分」
その中、アリウムは己の拳に力を込めるとその手は青色に輝く。
そして、全力で打ち返した。
当然ボールの事など微塵も気に止めていない二人に打ち返す気は当然ない。
「あふん」
クリスタの脳天に直撃。そのまま倒れこんだ。
「今の術は人の記憶を消しさる術だよ。
これでミチュールが私に言った事はここにいる私たちだけの出来事になったよ」
「何もここまでしなくても良いじゃないですか」
「テクノちゃん、負の感情は舐めたらダメだよ。クリスタはちょっと感情的に成りやすい傾向があるから、もしも力を暴走させる事になったらもはや手をつけれなくなっちゃうよ。
名前使いは道を踏み外す事はない。利点とも言えるかも知れないけど、逆にいうと暴走したら自らの力を押さえ込む事が出来なくなる残念な点があるんだよね。
クリスタが暴走したら周囲の物を全て結晶へと変化させてしまうだろうね。
元に戻せるのは本人だけだけど、肝心の本人がこうなっちゃおしまいだね。
だから少しでもそのような事になりそうになったら根元から断つよ」
「なんかごめん」
ミチュールはショボくれながらアリウムに謝った。
「それで、姉さんにどう言い訳するですか?」
テクノは地面に倒れているクリスタを杖でツンツンとつつきながら訊ねた。
「考える必要が有りそうだよね。違和感なく自然な形で今の状況の辻褄を合わせないとね」
「大体母さんのせいです。責任は取れなくともそれぐらいは考えろです」
「困ったなー。どうしようかなー。
そうだ、スピンセレクターの照準がずれた事にしよう」
「いつも腰につけているやつですか」
「そう。携帯型力学的エネルギー転移装置、通称スピンセレクター。
私が初めて作った発明品で、名前の通りの機能は実際には無いけど、側面に宝石のようなものがあるのが見えるかなー?
これが念導エンジンなんだけど、ちょっと改良を加えてあってね。本来は人間から放出されているといわれている未知のエネルギーを吸収して動力変える反永久機関なんだけど、私は思ったわけよ。
逆変換も可能じゃないかとね。
名前使いの一族でありながら、唯一力を持っていない私にとってこれはある種の賭けに近かったのかも知れないね。
力を持たないがゆえに、村に馴染めず、引きこもっていた。
そんな時に、私の弟のアランが生まれたの。私と違って弟君は優秀で、生まれながらに先祖の力を完全に受け継いでいたの。
サイコメトリー、テクノが持っている力と同じものをね。
何もかも弟に劣っている私は必死に勉強した。力は使えない、ならばせめて他に誇れる事が1つぐらい欲しい。
そんな純粋な気持ちを胸に抱きながら、日夜古文書を読み続けた。
現代では殆んど廃れてしまった工学技術を復活させてそれを力の代理手段として使いこなす為にね。
幸いな事に、家は由緒正しき時計職人の家計だからその知識の書の埋蔵量はとてつもなかった。
こうして完成したのは弟君が5歳ぐらいの時だったかなー。
まさか弟君も工学の道に突き進むとは思ってなくてね。クロノクロック社がつぶれちゃったけどね。
ちょっと一人語りが過ぎたかなー。起こしてもらえるかなー」
その後何事もなかったかのように彼女らはバカンスをたのしんだ。