オペレーションHATE パート4
オペレーションHATEの概要はこうだ。
まず、クリスタのダウジングクリスタルでエリックの拠点を探し当てる。
次に、ハックと執事2人を拠点に向かわせる。そして統括者のペンを渡して一度使わせる。正直いって、ここでは使いさえすれば何も問題はない。なので、何を書かれても問題ない。
あらかじめ、ハンター育成地区の法に"エリックがペンで執筆をした場合、法律による保護を受ける権利を失う。ただし、法的責任は負うこととする"というものを追加したからだ。
この、"法的責任を負うことする"という部分が重要で、これがないとエリックは何をしても良いという有利過ぎる法になるからだ。
ペンを使ったエリックを執事2人が襲う。当然エリックは逃げ出す。
ここで、テクノがエリックを裏から誘導する。
そしてスラムにエリックが来たらハックが倒す。失敗したら俺が不意討ちで倒す。
当初の計画ではそうだったのだが、しくじった。
エリックを倒しきれなかったのだ。
奴は倒される間際に自分自身に力を使ったのだ。
そして何事も無かったかのように立ち上がってこう言った。
「その技は私の体にコンバートして取り込んだ。技の正体は知らないが、私にはもう通用しない」
一度で駄目なら成功するまで続けようと思っていたが、それができない。
俺の使える術はボルテックスハンド以外にもあるが、勝てる気がしない。
基本的に攻撃は当たらず、近づくと消し墨にされる。万が一当たったとしても、直ぐに耐性をつけて起き上がってしまう。どうするか。どうすればいいのか考えるんだ俺。奴に気づかれないようにポーチからいつもの錠剤を取り出して口に含んだ。
知りたいことは今のエリックについてだ。
知りたいことは基本的に何でも知ることの出来る代物のはずだが、今回は何も分からない。
「まずは目障りなデカ物に退場して貰おうか」
エリックは空に浮いている"統括者の業"に両手を向けた。
「ロックオン。ソレノイドショート」
エリックは己の脚力を越えた跳躍をして"統括者の業"に飛び移った。
しばらくしてそれは空中で静止した。
スラムには当然人が住んでいる。このまま落下したら住民はお陀仏になってしまう。再起動しようにも、統括者のペンは今エリックの手の内にある。
破壊する訳にもいかない。
そんなときハックは言った。
「奴が"統括者の業"に入った以上俺達はそれを追わないといけない。行くぞ」
"統括者の業"は正直いって兵器の一種だ。そんなものを渡す訳にはいかない。俺はfirst libraryの目次を開いた。すると"統括者の業"の文字が浮かぶ上がった。ハックが俺の肩に手を載せて合図を送った。そして俺は指で文字をなぞり唱えた。
「転移。統括者の業」
俺達の周囲に光のサークルが現れて景色が歪んでいく。
そして歪みが戻ると見たことないドームの中央に到着した。
「ここが"統括者の業"の中か。外見と然程大きさは変わらんな。どうなっているんだ?」
"統括者の業"は通常時R35mで高さ15mの円柱に半球をのせた形状で、例えるなら天文台のような形をしている。今は移動形態になっていて収納された足や羽が露出している。恐らく大部分が外に出ていてるから中身がスッカスカのガワだけになっているだろう。
「私を追いかけてくるとは思うていなかったよ。」
ドームの全体に反響して聞こえる。
「ハックに統括者に仕立てあげられて私はもう地上では生きていけないと思っていた。しかしそれはあくまで"統括者の業"によって決められた事だ。このペンはコントローラに過ぎない。直接乗り込んでマニュアルで動かせばいい。一般人が乗り込んでも動かす事は出来ないが、私はエヴォルの子孫だ。これぐらいのものは容易に操ることが出来る。洗礼だ。受け止めるがよい」
壁面が変形して鋭く巨大な爪を持ったマニピュレータが現れて、俺達を襲った。
それをハックがナイフで受けた流した。
「一本では力不足か……。追加だ」
先程と同一のものが現れて俺達を襲った。
「いくぞアルカミクススチャー」
「かしこまりマスター」
「アクアメイク。状態変更アイスブレード」
生成した氷の剣で両断した。
だが、床に落ちた残骸が自己修復を始めた。
「私は今"統括者の業"を完全制御している。私を倒さぬ限り攻撃は止むことはない」
どれだけ破壊しようとも無限に再生して俺達を襲う。この圧倒的驚異を俺達はどうやって攻略するか……。考えるんだ。
まず状況を整理しよう。今の状況は統括者のペンを持ったエリックが直接乗り込んでマニュアルで動かしている。
その動きを止めるには幾つか方法がある。一つめは、エリックを倒す。二つ目は、ペンを取り返す。三つ目は爆破させる。少なくとも最後の方法はだめだ。"統括者の業"のコアの"念導エンジン"が破壊されると何が起きるか分からない。2日前にリーグの念導エンジンが破壊されたときとんでもないことが起きたからな。
残された二つは、どちらにせよエリックの居場所が分からなくてはどうしようもない。"知恵の実の錠剤"を使っても何も分からなかった。アカシックレコードを見ても何一つ書かれていなかったのだ。
待てよ、俺は"エリック"の記載を調べたのだが見つから無かった。それはあり得ない事なんだ。アカシックレコードは書き換える事は出来ない。厳密には不可能じゃないのだが、削除したら存在事態が消えてしまうのだ。だが、エリックは消えていない。
エリックは自身をコンバートしたらしい。コンバートしたから元のエリックは残っていない。全て変換されたのだ。オリジナルを元に産み出されたのは俺も同じだ。同一名称の別人と言うわけだ。
俺は錠剤を口に含もうとした。だけど攻撃を避けるときに落とした。やはり、攻撃を受けながらの服用は容易ではない。
「ハック少し時間を稼いでくれないか?」
「言ってくれるなぁ。良いだろう。ただし凌げるのは3分が限度だ」
「アルカミクススチャー、パージだ。ハックの手助けをしてくれ」
「かしこまりマスター」
俺は床に胡座をかいて座った。
錠剤を含み知りたいことを思い浮かべる。俺が知りたい事は新生エリックの居場所だ。これが分かれば攻撃は止む。
新生エリックは"統括者の業"深層部"王の玉座"に居る。
居場所は分かった。次は侵入方法だ。
立ち入るには内部からの解錠の必要あり。
中からしか開けられない場所か……。よし、やったことはないが、一か八かやってやる。
first libraryのページを開いて唱える。
「データリンク」
俺は"統括者の業"と自身を意識上で繋げた。
ドクターとテクノであれば一瞬で全てを把握出来るが、俺に超能力はない。時間がかかるがこれしかない。
1 2 4 7 10 15 19 23 31 35 44 58 75 83 99。100%把握出来る前にプロトコルが改編された。
流石セキュリティは 手強い。
アクセスは容易ではない。直ぐに取り返されてしまう。ならばダブルで行かせてもらう。
「ウィンドパージ。データリンク。二重魔法」
自分が操作できる領域を敵からのアクセスを不可能にしつつ、俺からのアクセスは一方的に敵まで届かせる。
「完全支配
幾千ものコードよ。物理障壁を全て解き放ちたまえ。
真実の名の下に」
ガシャンガシャンと音を発てながらマニュレータが部品状にまで分解されていく。それと同時に壁面にスリットが入った。
「The end.」
俺は"統括者の業"にエリックを捕縛するように念じるとマニュレータが構築されて隙間に侵入していった。
「私をどうする気だ」
壁面に磔にされてたエリックが睨みながら叫んだ。
「まずはペンを返して貰おうか」
ハックはエリックの服をゴソゴソと漁りペンを取り返した。そしてエリックに尋ねた。
「俺達の本来の目的は、エンジニア実験地区に幽閉された人達を解放することだ。俺達はお前を地下送りにして保守協会を解散させると言う方法を取った。一応聴くが、お前が地上に居なくなれば保守協会は機能しなくなる。間違いないな」
「倒してから聞くとは、なんという不届き者だ。私が命令をしない限り、保守協会としての活動はしないだろう。だが、私は納得がいかない。
私はあくまでも、先祖エヴォルの意識を継いだだけだ。この世のことわりに触れることで、世界を歪ませる禁断の力を封じて世界を守る為に活動していただけだ。最初の活動は、封印が解けた聖霊獣を消滅させようと行動した。同時に、名前使いを幽閉した。
だが、お前達は邪魔をした。その2日後にあろうことか更に自然の聖霊獣の封印を解いた。
何て事をしてくれたのだ。先祖が封印したというのに。何故だ。何故我々の邪魔ばかりする。
お前にも一言言いたい。ハックよ、お前は保守協会の協力者のはずだ。名前使いでもない、聖霊使いでもないお前は何故裏切ったのだ」
「確かに俺は依頼を受けてハテノ村に視察に行った。報酬額も贅沢が出来るほどの巨万の富だったが、俺はそんなものはいらない。
愛する女がいればそれだけでいい」
「お前の愛する女は聖霊そのものだぞ、危険きわまりない」
「それがどうしたというのだ。危険かどうかは俺が判断する。判断の結果何も変哲のない女の子さ。怖がる理由がどこにある」
「狂っている」
「お前からしたらそうかも知れないな。
よく分からないから拒絶して逃げているだけの臆病者だから仕方がないな。
そもそも、聖霊獣が封印されたが故に起きた出来事も知らないんだろうな」
「何の事だ?」
「アルス説明してあげろ」
「聖霊とは暴走した念導エンジンを制御するために、生きた人間が自分の身を犠牲にして、一体化した存在だ。聖霊獣は巫女の力を持つ者が聖霊を実体化させて地脈の力を使う事の出来る存在となったものだ。聖霊獣基本基盤とすることで文明は発展していった。そんな聖霊獣を封印するということは、地脈の使用者が居なくなり暴走してしまう。
それを防いだのは俺の先祖のハテノだ。ハテノはガラパゴスの種と呼ばれる"自然の聖霊人"の産み出した種子を聖霊が封印されて暴走した地脈のたまり場に植えて回った」
「先祖のエヴォルも私がやって来た事も無意味だったというのか……」
「世界を守るという思想は良いものだが、手段を選ばないというのは、本質から外れる。
よく考えてみな、世界を守る為には何をしてもいいのなら、行動は過激になる。過激な行動は他者から見たら、守るどころか破壊しているようにしか見えない。もし今度会えたのなら、正しく世界を守れる人にでもなってくれ」
俺が話をしている間に"統括者の業"は地上に着地した。俺達は集まった衛兵にエリックの身柄を渡して、地下送りにされる様を最後まで眺めた。
保守協会のリーダーがいなくなったことで、エンジニア実験地区の人々は解放された。幽閉された人は元はハテノ村に住んでいたので、帰省する人が大半を占めた。過疎集落問題もこれで解決した。
「これで終わったんだな」
「ああ、1週間も経たずに問題が片付くとは思っていなかったがな」