オペレーションHATE(エリック視点) パート3
私は今スラムに着いた。
その名前の通り酷く劣悪な場所だ。
私のような高貴な人間が来るような所じゃないが、私にだけ正常に法律が働かない。ここでなら法も存在しないため、安全に違いない。無法地帯だが、どうにかなるだろう。
「待っていたぞ。エリック。さあ、決着をつけよう」
「その声は……。誰だ?」
周囲を見渡しても誰も見つからない。
「どこに隠れている?」
「ここだ」
音もなく背後につかれた。奴はハックだった。
「目的はなんだ」
「保守協会の解散とエンジニア実験地区に幽閉された人々の解放だ。お前がここに来た時点で目的は達成されたも同然だがな」
「どのような手段で法に細工したのかは知らないが、ここはスラムだ。法何てものは存在しない」
「お前は1つ勘違いをしている。スラムにも適用される法が存在している。治外法権って知っているか?」
「勿論知っている。この地区以外の者は特別に居住地区の法を適用される奴か。私には関係ない事だ」
「それはどうかな」
彼が私から即座に離れると天から雷が降り注いだ。私は天性の勘でそれを避けた。
「こんな昼間に何故だ」
「さっき言っただろう。治外法権だってな。お前は自分をこの地区の者だと思い込んだいるがそれは違う。お前はハンター育成地区の法を受けるようになっている」
「そんな馬鹿な……。私は生まれてこのかた地区から出たことがないというのに……」
「予想通りだ。統括者の業を背負わせる事ができるとはな」
統括者の業とはハンター育成地区の法を施行する為に存在している念導エンジンの事だ。それを動かすには統括者のペンが必要だが……。はっ、それは今私が持っている。
「気がついたようだな。それが業と言われている由縁な 。あらかじめ俺は統括者を縛る法をいくつか施行しておいた。そしてお前にペンを渡した。この時点でお前はハンター育成地区の統括者になった。当然なにも知らないお前はハンター育成地区の法を知らないため違法行為を何回かしたことになる。
法が正しく働いていないわけではない。正しく働いていたのだ。
ペンを他人に渡せば統括者ではなくなるが、それだけでは法から逃れることはできない。
お前は自ら法を施行するしたのだからな。その法を取り消せない事はないが、書面はここにはない。俺の執事に回収させたから破棄することもかなわない。空を見てみな」
空を見上げると、巨大な機械が宙を漂っていた。
「あれは、統括者の業。雷を特定の人間にのみ当てることが出来る。
お前には選択肢がある。
雷に打たれて地下につれていかれるか、俺達に倒されるか選びな」
万策つきたか。
どうあがこうと私は地下送りになるうようだ。だが、タダでは終わらせんぞ。
「折角だから後者を選ばせて貰おう。私の名前はエリック・コン・バーター。バーター王家の子孫だ。だからどうしたと言われたらそれまでだが、一応名乗っておいた。
子孫の私が出来ることは何もない。お前達の仲間の"名前使い達"のように特殊な力はない。
だが、決して無力であるというわけではない。私を捕まえる事も傷つけることも触れることすらできない。
それに、仮にも協会のリーダーだから部下も大勢いる。その数235人だ。
いくらお前が優秀だろうとその数を相手にしたら無事では済まないだろうな」
「なら召集をかけてみるがいい」
ハックは私に挑戦するかのように煽りながら言った。
「良いだろう。我が呼び掛けに応えよ。緊急召集」
私は天に手をかざして叫んだ。
だが、何も起こらない。
「この地区の部下は全て無力感しておいた。誰もここには来ない」
奴はそう言ったが、一人だけ残っている人がいる。フリントだ。彼だけは無事でいる。だが、こんな真っ只中わざわざ入ろうとはしないだろう。だから"力"だけ貸してもらおう。
私は右腕に付いているミストから渡された擬似的に"名前使い"になる珍妙な円形状で紫色の宝石のついている腕輪を触れて唱えた。
「幾人もの同胞よ。力なき私に一時の間力を貸し与えよ。
真実の名の下に。
コンバート」
するとまるで落下するかのような気持ちの悪い感覚が全身に感じた。その後、体に何かが入っていくような現実的にはあり得ない悪寒を感じた。
私が使えた能力は、他者の特殊能力をコンバートする事である。すなわち、能力を借りて変換して自身の能力にする能力だ。ややこしいが、そういうものらしい。
「私の力を受けるがよい。起爆!」
私が指をパッチンと鳴らすと私を中心に爆風が吹き荒れた。
背後に立っていたハックは吹っ飛ばされた。
「これが、フリントの能力か。私の知っている能力とは随分違うがまあ良いだろう。流石にこれを食らったら無事では済まないだろう」
「それはどうかな」
煙が薄まるとそこにはハックが立っていた。しかも無傷だ。
「馬鹿な……。何故生きている。この爆風はたとえ鉄筋コンクリートすら跡形も無くすものだというのに……」
「俺は昔から運がいいんだ。見てみな廃棄ビルが見事にえぐれているだろ」
「まさか、お前は名前使いか?」
私が尋ねると興味無さそうに応えた。
「さあな。俺は特殊な力は持っていない。そんなものを持っているほうがおかしいのだがな」
ただの人だと言うのにこれ程驚異になるとは流石リーグを倒しただけの事はある。
「私に触れれない限り、私に敗北の文字はない」
「触れれなく、近づきすらできない。確かに厄介だが、まだ想定の範囲だ」
ハックは私に背中を見せて走り出した。
「おい、逃げるのか!」
私の声には目もくれずにスラムを駆け続ける。私は彼を追いかけた。
しばらくしたら急に立ち止まった。
しめた。チャンスだ。
私は彼の背中に近づき指を鳴らした。
「今だ。やれ」
「ボルテックスハンド」
爆発が起こる一瞬前に私の前に青年が現れ、カウンターブローをかましてきた。
人間離れしたその一撃で私は、5m程跳ばされてビルに激突して停止した。
「今のは一体……」
「俺の名前はアルス。名前使いにして聖霊使いのアルスだ」
私は激突した衝撃で意識が朦朧としていた。このままでは地下に
連れていかれてしまう。
腕輪に触れてボソッと呟いた。
「真実の名前の下に。
コンバート」
私は私自身をコンバートした。