夕刻の時
保守協会のリーグに支配されていたハンター育成地区は俺たち”6人”の協力により、悪政から解放された。
そして誰もいなくなっている城の中で”5人”全員でこれからの事を話し合った。
話の流れで俺たちの仲間のハック・イノセントがこの地区の実質的な統括者になった。
ハックはリーグの手によって徴収された税金をどのように扱うかを考えた結果、一部分を地区民に返納しようと考えた。誰からいくら徴収したのかが帳簿にも何にも記録されていなかった。だから、貧民層から金額を計算していくことにした。最善の判断とは到底言い切れないがその事についてハックは次のようにいった。
「金の管理は凄く難しいのだ。もし、これを徴収された一人一人にいくら持っていかれたなんて聞いて回ったとすると、きっと欲にまみれたろくでなしが大金をふっかけてくるだろう。人は平等を欲する。自分が他人より劣っているとか、自分が一番の不幸者だとは思いたくもないのだろう。でもよ、全てのことがが人以上に出てるか? そんな事はあり得ないだろう。基本的に何でもできる俺でも、お前らみたいに特殊な術は使えない。話が脱線してしまったな。
一言でいうと俺は民主主義が大嫌いだ。独裁主義の方が好きだ。理由は簡単だ。民主主義は自分で意見を言えるのが利点だが、賛同を多く得られればそれが正しいことなり、少なければ誤った事とされる。実際どっちが正しいかどうかは関係なく、数が勝るほうが正しくなる。6割を懐柔すれば世界を操れることができる恐ろしいものだ。まあ6割を懐柔することなんて出来っこないはずだが、あの念導エンジンで人が操れてしまったからな。えーと、話がまとまらないな。
どっちつかずというか、なんというか……」
ハックは俺たちの方を見て悩んでいる。
「今更だが、誰が喋っているんだ?」
「誰って俺はアルスだ。
{私はアリウムだよ}
(我の姿をしているのだから、アルカミクスチャーで間違いないだろう)」
邪霊獣を封印してから数時間が経過して、時刻は夕方の5時頃となった。
何もかも片付いて明日には隣の地区に向かう事になっている。唯一片付いていない問題がある。
それは、俺が邪霊獣を封印するためにアリウムとアルカミクスチャーと一時的に一体化したのだ。アリウムは封印を行うには力が足りなかった。アリウムの力の源泉は俺自身だ。だから、俺と一体化して真の力をもってして封印しようと思ったのだ。思惑通りに封印することができた。できたのはよかったが一体化はまだ解けていない。三位一体状態の俺たちと会話をする事はそうとうややこしい事になっているだろう。
俺自身もややこしいのは嫌いだから自身にウィンドパージで解術を試みたが、結果は失敗した。理由は簡単だ。俺の使う術の特徴は、本来の使い方の枠を超えた使い方をする。例えるのなら一休さんのトンチのようなものだ。
誰もしたことがない事を突貫工事のように行ったら当然ボロが出る。
と言うことで未だに術が解けていないのだ。
「なんとか解術する方法が無いだろうかなー。その姿を見て思ったけど、もしかしてアルカミクスチャーは、念導エンジン開発者の一人のアルカリ・ミックスと何か関係を持っていたりするかなー?」
ミチュールさんは首を傾げながら尋ねた。
「(関係も何も、生前の我自身のことだ)」
「やっぱりそうなんだ。なら教えてもらえるかなー。あなたの研究仲間にD^2デバイスを持っていた人はいなかったかなー」
D^2デバイスとは、俺の父親ことアランが作り出した薄い液晶を内蔵したデバイスのことだ。機能は色々あるそうだが、詳しい事はよく知らない。興味がなかったからだ。ただ一つ言えることは、いくらアランが高齢だとしても、アルカリの生きていた旧文明時代より昔の高度科学文明時代には生まれてすらおらず、当然D^2デバイスも存在するわけがないのだ。
「D^2デバイスもっておるような者は居なかったが、我に未来からの手紙を持ってきた奴ならおった。名はなんといったかのう。奴は手紙を我に渡し終えた後に「アッシはサルでござる」とかいってきおった」
「その人は確か、弟君が唯一制限解除したD^2デバイスを渡した人だったかなー。名前は知らないけど、肩書き上は、時空の飛脚と呼ばれている。要はいかなる世界にも変化も起こさずに物を運ぶことができる人かな。アルスは届けられたものをみたことあるかな? 真っ黒な箱の形をしたブラックボックス別名dimension boxっていう機械にはいっているんだけど」
「クリスタのリュックの中に入っている汎用型地上武装が送られてきたものだ」
「へえ、持ち歩いているんだ。ねえ、クリスタ見せてくれる?」
「いいですよ」
クリスタは分厚い板の形状をした汎用型地上武装を取り出して机に置いた。
「これはどこの誰が送ってきたのかなー」
「チノ遺跡の巫女が送ってきたです」
「となると、アイテムの一つだね」
「ちなみに、大昔の武装の複製品です」
ミチュールは汎用型地上武装に右手で触れると形状が螺旋状に変化した。
「これって、もしかして……」
ミチュールさんは何かを察したように黙り込んだ。
「なんてこんな危険物を送ってきたのかな……」
「それ程危険じゃないと思うが、俺も、クリスタもテクノちゃんもそれを使ったけどなんともなかったぞ」
「ちなみにどんな使い方をしたのかな?」
「一番初めに使ったのがテクノちゃんで、dimension boxのコントローラーの改造して機械を操る杖を作り出した」
「厳密には違うです。正確には特定振幅の波を起こす機械です」
「次はクリスタが、ハテノ村の練習場で弓として使い、偶然アルカミクスチャーの封印を解いた。それと、空間に穴を空けてdimension boxを入れ込んだ」
「私が使うときだけ何故か、音声ナビゲーションが流れるんだよね」
「そして、俺はミチュールとテクノちゃんが閉じこめられていたのを鍵として使った」
「なーんだ。そんな使い方なら心配はいらないねー。それに、複製品だもんね。コピー何だから危険なんかあるはずはないもんね」
「ちなみに、オリジナルはどれほど危険なんだ?」
「ありとあらゆるものを分解、構築をする。世界も空間も何もかも、たとえ歴史すらも自在に作り替える。この兵器とも言える物は、実は、アルスのポーチと繋がっているんだよね。もっとも、あまりにも大きすぎるから取り出すことは不可能なんだけどね」
白銀の武具には分解、構築機能があるのか。分解、そうだ分解だ。これで分解できるはずだ。
「これの分解対象に生物は入っているか」
「オリジナルじゃないからできないことはないけど、性能はそこまでよくないよ」
「性能が低いからこそ使える。誰か、俺たちをこの武装で襲ってくれないか?」
俺がそういった後、静かな時が流れた。
「はぁ?」
俺たちを除く4人が同時に声を発した。
「私にそんな事できるはずないでしょ。アルスに怪我なんかさせられるわけないでしょ。ふざけないで」
クリスタ激怒した。まあ、当然といえば当然だ。俺に頼まれて俺を殺したことのあるクリスタは今なお心に傷を負っている。そんな彼女には頼めないだろう。
「すまん、悪かった」
「分かればいいの分かれば」
さて、クリスタが駄目だとすると残りは、テクノちゃんとミチュールさんとそしてハックだ。
テクノちゃんはできないだろうからミチュールさんに頼もう。
「ミチュールさんならやってくれるかい?」
「ん~無理かなー。弟君の息子だからできないのではなくて、そこに置いてある汎用型地上武装は、自分で扱える物に変形するけど、私が触ってなったあの姿は、空間に穴を空ける機能だけしかもっていないから分離には使えないかなー」
残りはハックだけだ。ハックの事は正直に言ってよく知らない。語らないからだ。だが、彼は大抵のことはできる。だからできるはずだ。
「最後にハック、俺たちを汎用型地上武装で分離できるか?」
「俺にはきっとできないだろう。大抵のことはできる俺といえど、専門家には及ばない。やれないことはないが、成功の保証はない。だから、俺はこうする」
ハックは机の螺旋状になった汎用型地上武装を俺たちの方に投げつけた。
「専門家に会ってこい」
ハックがそう発した後、空間に穴が空き、俺たちは吸い込まれていった。