邪霊獣
スマホの調子が悪かったり、作者のやる気で出なかったため時間がかかりましたが、やっとのことで投稿できました。
「おい、アリウム封印はまだ終わらないのか」
ハックは、アリウムに軽く話しかけた。
「引用 魂霊封」
アリウムは新たに術を唱えた。しかし、いまだに魔法陣が消える気配がない。
「ならこれはどうだ。凍結術式13」
今度も変化はない。
アリウムはこの道のプロのはずなのにいっこうに終わる気配がない。
「今度こそは」
「(やめるのだアリウム。あれは今の我らでは封印する事はできぬ。邪霊化している)」
アリウムが新たに術を唱えようとしたところを、聖霊獣のアルカミクスチャーが目の前に出現した。
「それ、本当なの?」
開いていた本を閉じて前に出していた手を下ろして、険しい表情でアリウムは問いただした。
「(巫女、念導エンジンを取り込みし者、莫大なエネルギー、聖霊システムを構築するのには十分すぎる素材が揃っておる)」
俺は自分の知らない情報が多くて話がさっぱり分からない。だから、知恵の果実から作られた錠剤をポーチからビンごと取り出して、三錠取り出してから一気に口に入れた。
知りたいことは、三つある。
聖霊システムと邪霊とその二つの関連性だ。
俺はここで瞼を軽く閉じた。
すると情報が頭の中に送り込まれていく。
聖霊システムとは、人の思念によって暴走状態になった念導エンジンをプラス方面の意識が集まる賢人が自らの肉体の命を断ち、念導エンジンに当人の魂を宿して自らが集まった思念を中和してから自らの死体と念導エンジンと融合する事で、非接触性でなおかつ非実体の聖霊と呼ばれる霊体に変化する。
この聖霊をごくまれに可視できる人間が存在する。
その人間の事を巫女と呼ばれる。(あくまで、太古の時代で同じ事をできる存在の名前が巫女であって、性別は関係ない。)
巫女はその聖霊と契約をする事で、聖霊は聖霊獣という存在となることができる。そして、実体を持つことができる。
聖霊と巫女は互いの繋がりを持ち、繋がりを強めるごとに一体化する事ができる。
ここまでだ。ここで情報を切る。
なる程、アルカミクスチャーは元は人間だったのか。
次は邪霊の事を知りたい。
邪霊とは要は、道を踏み外して魂が呑み込まれた存在である。最も強大な邪霊は、アポカリプスと呼ばれる固定された形状を持たない武器によって肉体と魂が物質レベルまで分解されてその後統合されたいわば怨霊の塊とも呼べるものである。
ここまでで十分だ。今はこれだけで十分だ。
最後に、二つの関連性を知りたい。
聖霊と巫女が契約する事で聖霊獣を生み出すのが聖霊システム。逆に、巫女が道を踏み外させて魔獣に仕立て上げ、その後契約をするのが邪霊システムという。このシステムを考え出した者の名はミストと呼ばれる。実際に行った者の名はケムリと呼ばれる。
二つの共通点は、どちらにも必要な物は同じだということと、必要なものが同じ為に、どちらにも同じ力を持つ。そのためやり方が違えど両方とも聖霊システムと呼ばれる。互いに、念導エンジンが使われているため、信仰(他者からの存在の承認)が当人の持つ力となる。
つまり、聖霊も邪霊も同一の存在である。
「要は、力負けしたということか」
俺は目を開いて呟いた。
「ははは…。何も言い返せないよ。アルスの言うとおり、あっちの力が強大過ぎた。封印してもすぐ破られてしまう。あれだけの大口たたいておいて、情けないな私‥‥」
ウルウルと輝く瞳から涙が流れるのを見られないようにローブのフードをかぶり顔を隠した。
それを見たハックは次のように言った。
「後悔は後にしろ。それがお前の悪いところだ。今をどうにか出来なければ一生後悔をし続ける事になる。メソメソしているのはお前らしくない。俺の知っているアリウムは、普段は元気で、明るくて、でもメンタルは人より弱く、ちょっとした事で、泣いてしまいそうな‥‥」
「なによ‥‥、バカにしているの」
「違うそうじゃない。それは、人のことを大切に思い、人の気持ちが誰よりもわかり、感受性が高いというアリウムの人としての一番大切な真心なんだ。そんな真心を持った人だから俺はアリウムが好きなんだ」
「お熱いねー、今時珍しいかなー」
「母さん空気読むです」
「ゴメンね。ちょっと昔を思い出してね」
横やりを入れるミチュールさんをテクノが止めた。
「ありがとうハック。気持ちがすっきりしたよ。最後のセリフ君もなかなかの純愛者だねー。後でまた聞かせてよ」
アリウムも何時もの様子に戻った。
これで本題にはいれそうだ。
「なあ、アリウム。あの邪霊獣が次にする事はわかるか?」
「そうだねー。聖霊獣も邪霊獣も誕生して一番はじめに必要なのはエネルギーの補給かな。基本的には信仰か、地脈のどちらかで補うんだろうけどここはいわば原っぱのような場所だから、地脈は使えない。信仰でエネルギーを補給すると思うから人がたくさんいる所に移動すると思うよ」
「人が大勢いる場所か。まてよ、人が大勢いる場所と言えば目の前にあるじゃないか。この目の前の壁を越えた先の高階級武術場の事じゃないか。なあハック。あそこには何人もの人がいる?」
「そうだな……。120人程だろう。」
「120人分の信仰が集まると、全盛期の私でもどうにもならないと思うよ」
「逃げさせなければ、120人が犠牲になる。たすけなければ」
「流石は弟君の子だねー。手っ取り早く中に入ろうか」
ミチュールさんはいつもの銃の形をした機械をホルスターから取り出した。
「打ち出すものは爆発エネルギー。放て力続く限り」
引き金を引くと、ドカーンという耳が痛くなるような爆発音が轟いた。
城壁の一部に大きな風穴が開いた。
当然ながら城壁内の人の注目を浴びる
「俺たちの武術場になにしやがる」
チンピラのような見た目だけの人がミチュールさんの前に近寄る。
「悪いんだけど、ここの統括者はやられちゃったからここは後ろにいるハックの私有地になったから、立ち退いてもらおうかな」
「ふざけるなこの尼が」
チンピラみたいな人はナイフでミチュールさんの首の血管を切ろうとした。
「危ないな。女性に剣を向けるんじゃない。それでも紳士か?」
ハックが細長い物でナイフを受け止めた。
「俺のナイフを止めるなんていい根性してるじゃねえか。そんなチンケな棒きれで……。それは一体何なんだ?」
「This is a pen, 見たことあるだろう。統括者のペンだ」
「しっ……失礼しました~。」
チンピラみたいな奴はふるえ声で謝りながらDOGEZAをした。
「顔をあげな。分かればいいんだ」
「はっはいー」
さっきまでと反応が天と地の差だ。それだけ統括者の肩書きは大きいのだろう。
「早速だが、統括者として諸君らに頼みがある。1日だけこの武術場を留守にしてもらいたい。今すぐだ」
「しかしながら統括者ハック様全員を移動させろと言われましても、事前の準備があるのならまだしも突然の事で、移動は不可能です」
もうじき邪霊獣は目覚め出してここにきてしまう。
どうするんだハック?
「ペンは剣より強し、統括者の名の下に法令を施工する。ただいまより当武術場は翌日まで以後立ち入りを禁ずる。現在当練習場で生活している者は一時的に荷物を放置したままで立ち退かなければ、ならない」
ハックは地面に刻むようにこれらをペンで書き込んだ。すると、城の庭から出現した巨大な念導エンジンからモスキート音のような不快な音が武術場内に響いた。
するとたちまち鍛錬中の人も、城の中の人も、なにもいわずに退出しだした。
音によって人を操るこれがこの念導エンジンの機能か。
奴がくる前に立ち退きが完了すればいいのだが。
そう思った矢先に城壁の一部分が赤く発光しだした。その後何かが壁を貫通させて体の一部分を出している。このままでは信仰を集めてしまう。
「統括者の名の下に法令を再び施工する。武術場にて生活しているものはこちらを見ることを翌日まで禁ずる」
ハックの再びの行動に応じるようにまた不快な音が武術場に響いた。
もう、ここに俺たち以外の人は居ない。
目の前には邪霊獣がいる。
以前とは違い、奴は喋れるようになっていた。
「愚かなものたちよ、私を封印することは出来ない。触れるものを全てを取り込む邪霊獣をコントロールできるようになった私を止めることなどできまい」
リーグとケムリの声が混ざり合ったような声で語りかけてきた。同化している。
普通なら手がない状態で、降参するしかない状態だが、俺には唯一の秘策がある。
「俺がお前を止める」
狂気剥き出しの邪霊獣に俺は歩いて近づいた。
「俺は現世にアリウムとアルカミクスチャーを復活させたアルス・A・レコードというものだ」
「あなたが性悪女を復活させたんだ。それは私も復活させられたからわかるけど、巫女でもないあなたが一体どうやって復活させたというのだ」
「単純な話だ。俺は巫女の子だからさ」
「ありえない。巫女は一人たりともこの世界に生き残っていないはずなのに、なぜだ」
「俺の母親は、この世界にはいない。別の世界にいる」
「だとしても、あなたには聖霊も邪霊もいない。ただの人の子よ」
「そうだとよかったな。俺は人間ではない」
「なら、あなたはいったい何者なのかしら」
「さあな。巫女様なら知っているんじゃないかな? そんなことはどうでもいい。俺がお前を封印する」
「あの性悪女でも成功しなかったのにあなたにできるはずがない」
「その通りだ。俺はやり方は知らない。しかしな、知らないだろうから教える俺とアリウムとアルカミクスチャーは運命共同体である。俺を殺せれば、アリウムもアルカミクスチャーも消滅する。普通に挑めば必ず俺は負ける。だから俺にしかできない方法で邪霊獣を封印してみせる」
巫女の力を少なからず持っている俺でも、聖霊と契約をしていないから力は使えない。
だが、聖霊の力を使わなくては封印できない。
この問題を解決する唯一の力を俺は持っている。
俺はポーチからfirst libraryを取り出した。
そしてガバッと本を開いた。
「見るがいい。これが俺にしかできないことだ。秘術ソウルアーマード」
「アルスの頼みなら仕方がないね。いくよアルカミクスチャー」
アリウムが俺の横に立ち、俺の右手を握る。
「(我の力を貸し与えよう)」
アルカミクスチャーはアリウムの右手にまとわりついた。
俺の使った術は霊的存在を身にまとい当人と一時的に一体化する術だ。
誰とでも一体化出来るわけではなく、命を預けられるまでの強い繋がりを持つ霊的存在とだけ一つになれる。
一つになるということは、当然ながら同じ力が使えるようになる。
俺たちの体が青い光に包まれて一体化した。
「俺たちは、聖霊人アルス・アクアリウム・アルカリミクスチャーだ」
俺たちの姿は、見たことのない姿になっていた。
(これは我が人間だった頃の姿だ。)
{一体化したんだから心の声は筒抜けだよ。}
「二人の巫女が一人の聖霊獣と融合するなんてそんな事は有り得ないはず」
「今までは有り得なかっただろうな。この術は一人の霊的存在と一体化する術なのだが、俺は術をある程度変化させられる。改良する事ができる」
「だが、所詮は力の弱い聖霊獣と融合しただけのことだ。邪霊獣の敵じゃない」
「なら、やってみようか」
俺たちの戦いが始まった。
邪霊獣は口から火炎弾を発射する。
それを俺たちは地面が削れるようなスピードでよけた。
無駄だと分かった邪霊獣は次の攻撃に移った。息吹に攻撃を変えた。
それを俺たちは地面に溝を彫りながら交わした。
「逃げてばっかりだと私を封印することはできないよ」
邪霊獣は黒い塊を俺たちと自身を円形状に囲むように数十個飛ばした。それらは10メートル程の火柱をあげている。
円の外が見えないほどに。
これで、もう逃げられなくなった。
{アルスはもう少しだけ魔法陣を刻むのを頑張ってね}
「時間がかかりそうだからこちらの戦力を増やすか、アクアメイク」
俺は新たに術を発動した。名前通りの水を生み出す術だ。水の聖霊獣のアルカミクスチャーの力で生み出した水を腕のような形状にして第3の腕と第4の腕を作り出した。見た目でいうと阿修羅のような姿になっているだろう。新しい左腕にfirst libraryを、新しい右腕にaccess soulsを持ち直した。
これで、二冊の書物を同時に扱える。
だが、攻撃用の術は俺は扱えない。
「アクアメイク。氷剣」
今度は、生み出した水を凍らせて剣を二本作り上げた。そして本来の両手に握る。
「氷の剣なんて私に近づけることすらできまい」
「名前使いの作り上げたものは、おなじ名前使いにしか壊すことができない」
俺の振りかざした剣は高熱の邪霊獣をものともせずに、Xの切り傷をつけることができた。その傷口にアリウムの私物の水晶をねじり込んだ。
「何を入れた。私の体に何を入れたんだー」
まだ封印の途中なのに邪霊獣は弱りだした。
「その水晶はエネルギーを吸収する性質を持つ。そして吸収したエネルギーは全て俺たちのもとへ移動する。どうだ、動けないだろう」
{アルス、今のうちに魔法陣を完成させて}
俺は氷剣で魔法陣を地面に刻んでいく。
「完成だ」
地面に刻まれた魔法陣は水瓶の魔法陣と呼ばれるものだ。この魔法陣の封印力は以前のアリウムの術と比べると比べものにならないほど複雑で、並大抵の事では封印を打ち破ることはできない。
「アクアメイク」
魔法陣の起動をするには、溝に水を流し込む必要がある。
{封印術改 水瓶の断絶術}
地上の魔法陣が輝き邪霊獣の体がものすごい速度で物質化していく。
「なんだこれは、やめろ。やめろ。グフォォォォォー」
断末魔のような雄叫びが聞こえ終わったあとは、そこには封印されて地上の一部分のようになった。
そして火柱は全て消えた。
「アルス大丈夫だった?」
「アリウム無事か?」
封印を終えた俺たちの前にクリスタとハックが駆け寄った。
「ああ、俺たちは大丈夫だ。この地区の問題ごとは全て片付いた。俺たちの勝利だ」
こうしてハンター育成地区に平和が戻った。
話はまだまだ続きます。