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探求者の記録簿(メモリーログ)  作者: Liis
保守協会の謀略
81/109

封印の儀

  「封印というものはどうやるんだ?

 単刀直入に言ってくれ」


 ハックの質問に短くアリウムが答えた。


 「魔獣イフリートの足止めをしてくれるかな。

 注意事項として肉体では魔獣イフリートの肉体と噴出物には触らないでね」


 「そりゃ、あんな高温の物触れば火傷でもするだろう」


 「違うよ、あれはゾンビのような存在で、触れた生物は全てあれと同じ存在になってしまうのだよ」


 「難しい問題だ。触れることが出来ないのであればどうやって動きを止めようか?

 そうだな、あれは知性の欠片もない獣のようだから壁にでもぶつからせるか」


 「ん~それで止められる時間は良くて15秒と言ったところだね。全く足りないよ」


 魔獣イフリートをどうにかできるのはここにいる6人の中でたった一人アリウムしかいない。

 いや待てよ、確かミチュールさんがあれが何か知っていたな。なら対処方法も知っているはずだ。

 俺はチラチラと目線を送った。


 「へへへ、そんなに見られたらおばさん照れちゃうよ」


 「ミチュールさんもあれの対処方法を知っているんだな」


 ミチュールさんはため息をついてから言った。


 「確かに対処方法は知っているかなー」


 「だったら早くその方法を教えてくれ、あれが完全に動き出す前に……」


 「でもねー、あまり勧められることじゃないんだよねー。一応教えるよ。

 私の知っている方法は2つある。1つは、あれを異次元に飛ばす方法と、私たち名前使いの力であれを抹消する方法かなー」


 俺はその両方を見たことがある。

 前者はクリスタが汎用型地上武装を使ってブラックボックスを射った時に、後者は俺がアカシックレコードに飲み込まれて暴走状態の時にチノ遺跡にいた不審者に力を使った時にそれを見た。

 どちらの方法も対象が動きをとめていたときにしか使えなかった。

 

 「前者はやっかいごとを他人に押し付けると言うこと、後者は殺すと言うことかな」


 殺す、それはあまりにも残酷すぎる。

 畜生ならいざしらず、あれは人間だ。

 人は殺せない。だがまてよ、本当にあれは人間なのか?

 どうにもしっくりこない。

 そもそも、人間ってなんだ?

 人から産まれたものが人だというわけではない。

 人の体の一部は人であるわけでもない。

 考えたって分かるわけがない。

 俺だって人じゃないのだから定義が分からない。

 そうやって哲学的な思考を巡り合わせている俺の肩をポンポンと誰かがした。


 「おい、アルス。お前は一体どうしたいんだ?

 今はあの化け物の対処方法が幾つか挙がっている。だが、それを審議する時間はない。

 とっとと方法を決めるぞ!」 


 思考中の無思考の俺をリーグが現実的に引っ張り出した。


 「どうやらお前は殺すというところに何かしらの引っかかりがあるのだろう。

 今回は殺すことが目的ではない!

 あの化け物が周囲に被害を出さないようにすることが目的だ。

 極端な話、化け物が被害さえ出さなければあのまま放置してもいい。

 俺が思うには封印が一番適している。

 なぜなら、問題が発生しないからだ。

 もし封印をしたのが間違いだったら、封印を解けばいい。その方法をお前が知っているだろう」


 封印の解き方は確かに知っている。

 聖霊獣のアルカミクスチャーの封印を解いたときには、舞と歌が必要だった。

 そもそも、解き方はアリウムにレクチャーされたので、当然ながら彼女は知っている。

 というか、あの時は巫女様ことPがじかに教えれるはずなのに、わざわざアリウムを霊媒してまで教えたのはきっと、アルカミクスチャーの封印を不本意ながらさせられた時の経験から自ら開発と習得をしたオリジナルの秘技だったのだろう。

 そう考えたら封印がふさわしい。

 頭の中のもやがすっきりとはれたような気がした。


 「ありがとう、ハック。

 これで迷いも全て吹っ飛んだ。

 アリウム封印を頼む」 

 

 「じゃあ、始めるよ」


 アリウムは再び右手を魔獣イフリートに向けながら、目蓋を深く閉じて一呼吸ついた後に、カッと目を見開いた。

 そして、唱え始めた。 


 「この世のことわりに触れて道を踏み外した者よ。

 汝を正しき姿に戻すことは不可能である。故に汝の魂のみを抜き取り凍結する」


 アリウムが自身の左手でフードのついた上着を脱ぎ去り、左手を胸に突き刺した。

 だが、出血はない。それは当たり前のことだ。アリウムは肉体を持っていない。アルカミクスチャーがアリウムを自身の大部分を使い霊媒しているのだからアリウムはアルカミクスチャーその物なのだ。

 アリウムが霊媒されるときに使われたものは、俺のMP(未知の力)と、アルカミクスチャーと、アリウムの複製魂と、アリウムの書のaccess souls の4つだ。当然ながら、物が消えることはありえない。

 だから、access soulsは当然アリウムの中にある。


 「うっ、うううっ、ふわぁー」


 額の汗のようなものを浮かべながら、何かを探すかのように手を動かした。


 「現れよ、魂の扱う事を半生かけて極めた証access souls」


 差し込んだ手を抜き去ると、左手には当然青く光り輝く世界で唯一のaccess soulsが握られていた。

 その手で本を開いた


 「引用23式 魂凍結術 

Terra form the wise wither lithely

The refer to ray

Rey for to win crey

Rey far to ry」


 アリウムは呪文と唱え始めると空中に文字が出現して、彼女の右手に その文字がまとわりついた。

 その姿を見た魔獣イフリートは黒煙を撒き散らしながら、アリウムに向かって突進を始めた。


 「今度は俺たちの番だ。アルス、クリスタ、テクノ、ミチュールさん、いくぞ」


 ハックの一言で、俺たちは魔獣イフリートを囲むように散らばった。


 「まずは注意をそらすのがいいかなー。

 打ち出すものは破壊エネルギー、放て強一撃」


 ミチュールさんのもつ特殊な銃の引き金を引くと魔獣イフリートの右足が吹き飛んだ。

 自身の体が破壊されたことで、バランスを失い自らのスピードで地面にえぐり取られるかのように倒れた。

 

 「彼に突き刺さりし水晶の矢よ、今度は彼を封印するための手助けとなりたまえ。真実の名の下に」


 クリスタの名前使いとしての力が発動してまだ魔獣イフリートがリーグだった頃に右腕に差した矢が糸状になって空中を漂いそして再び体内に侵入して魔獣は動きを止めた。

 いや、動けなくなったのだ。クリスタの力を受けた水晶は今までに割れたり、削れたり、気体化したことはない。そんな水晶が全身に入り込んだら、クリスタ以外が何をしようと肉体を動かすことができる訳がない。

 

 「Terra form the wise wither lithely

The refer to ray

Rey for to win crey

Catolafiカトラフィー!」


 アリウムが呪文を唱え終えると同時に地面を叩きつけた。すると、魔獣イフリートの周囲に謎の文字が書き込まれたサークルが出現した。

 それも同一のものが頭上と地面に合計2つ出現した。


 「グヲヲヲヲ、グシャー、ギググググ」


 奇声を上げながら体をビクビクと痙攣させながら高熱の粘液を噴出させている。

 魔獣イフリートは、次第に己の体もドロドロの物質と化した。

 

 「やったか?」


 俺はここで油断をしてしまった。


 「アルス避けるです。下から来るです」


 テクノの忠言に反応するのが遅く、気がついた頃には、足元に亀裂が入り、高熱の粘液が火柱のように噴出して俺を襲った。

 無論避けられるはずもなく、俺はその攻撃をじかに受けた。

 身を焦がすような粘液が身体じゅうにまとわりつき、高熱の油の入った鍋の中に全身を浸かるように入り、そのうえ火をつけられて、いくらのたうち回ろうと消えることなく延々と肌を焼かれ、肉を焼かれ、挙げ句の果てには骨すらも原型を留めないような激痛が全身を駆け巡った。

 その激痛で、気が遠のいてしまいそうだ。

 ダメだ。意識が薄れていく。

 なにも見えない。

 だけど、誰かの声が聞こえる。  


 「アルス、ねえアルス。いやあ、いやだよ。死なないでアルス」


 その声はクリスタのものだ。

 情けないな俺。思い人にこんな思いを2回もさせるなんてな。

 俺がチノ遺跡の巫女Pの力を受けてから怪我をしてもすぐに治るはずだというのに、一向に治る気配がない。魔獣の一部に触れてしまったから道を踏み外したのか?

 ならば、身体の一部は変異しているはずだ。

 例え見えなくとも感覚が教えてくれるはずだ。

 俺は手を動かして身体に触れた。

 あれ、異常が見つからない。

 それどころか、出血も、火傷も一切していない。

 いたって正常な状態だ。

 ならばいけるはずだ。

 

 「現れよ、first library」


 希望を胸に抱いて唱えた。


 「ウィンドパージ」


 俺の周囲にピューピューと風が吹き始めた。

 その風が、身体にまとわりついた粘液を根こそぎ剥がしとった。


 「はあ、はあ、はあ、やっと解放された。

 クリスタ、ごめんな。また、心配をかけてしまったな。本当にごめん」


 クリスタは大粒の涙を流しながら言った。


 「本当に心配したんだから、本当だよ。あれを道を踏み外してでも消滅させようと思っていたんだから」


 俺はクリスタを軽く抱きしめた。


 「俺が油断したばっかりにこんな事なってしまった。油断さえしなければこんな事にはならなかったんだ」


 「アルスは悪くないよ。そもそも、アリウムが封印に失敗さえしなければ……」


 「封印は成功しているのです。現に魔獣の体は物質化しているのです」


 テクノは割って入るように話した。


 「アルスが食らったのは封印しきれなかった魔獣イフリートの一部です。まだ周囲に散らばっていますが、本体が封印された今では、ただの物質です」


 「だが、何かがおかしい。封印が済んだと言うのなら、なぜアリウムはまだ構えているんだ。それに、サークルがまだ漂っている」


 ハックも話に入った。

 確かにその通りだ。終わったのなら構える必要はない。

 俺たちは、アリウムの元に向かった。

※注意

 呪文を日本語に直してもいかなる意味も持ちません。

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