ケムリ
ケムリが一体何者で、何故リーグに力を貸しているのかそれは分からない。だからと言って、知らないままリーグと戦うわけにはいかない。
俺は皆に気が疲れないようにポーチから錠剤を取り出し口に含んだ。
知りたいことは、ケムリの正体とアリウムとの関係性についての二点だ。そう思いながら瞼を閉じた。
「おお、我らの巫女様のケムリ様がおいでなさったぞ。皆の衆、道を開けろ」
これがアリウムの時代のケムリの姿か、アリウムの以前着ていた儀式衣装の色違いのようで全体的に赤色で部分部分が黒色になっている。
い
「まだ、巫女になって日が浅いので、特別扱いされる訳にはいきません。ミストお兄様」
「何を言うケムリよ、我ら教会の民は太古の昔より世界を支配するために色々な事をしてきた。第一次16コア制御計画が失敗し、もう全てのコアに干渉することが出来なくなった。この世のことわりに干渉するには聖霊システムを完全掌握する以外に方法はない。もっと存在を認めさせて聖霊力を蓄えて計画の進行を早めなくてはならない」
どうやらケムリはアリウムと同じように聖霊の巫女のようだ。このケムリの一体何を嫌っているのだろうか?
「ミストお兄様の言うとおりに、信者が教会の民しか居ない私の力なんてたかが知れたものです。やっぱり力をもっと蓄えるには他の聖霊の信者を吸収することが最も手っ取り早く力を蓄えることが出来ると思いますが、ミストお兄様はどう思ますか?」
「確かにそれは考えとしては素晴らしいが、我らが世界を支配出来ていないのは考えが理解されないからだ。
だから、考え方を変えてみるのがいいだろう。信者を吸収するのではなく、聖霊をコントロールをしてみるのがいいだろう。ケムリが契約した聖霊は我らの魂の欠片を結集して創られた人工聖霊獣だから、他の聖霊獣のに寄生させることで聖霊システムを掌握できる。掌握した聖霊獣を使い、信者を無理やりこの世のことわりに触れさせて、歴史を変化させる。当然そんなことをした人は道を踏み外した者となり、人ならざる化け物となる。聖霊システムを使われていない地域は、この化け物を使って戦争を仕掛ける。これに対抗するには、この世のことわりに触れることだけだが、念導エンジンの製法が失われた今は計画を止める方法はない」
アリウムがケムリを怨んでいる理由がわかった。
巫女と聖霊獣がケムリの手に落ち、人々を無理やり化け物に変異させ世界が危機に陥れた元凶なのだ。
アリウムはそのことを絶対に許すことが無い。
これが、アリウムの過去に関するイメージだ。
「ふふふ、あれだけの大口を叩いていた割には、こうもすぐ逃げ出すとはな」
イメージを見終わった俺の前に黒煙の集合体が集まり、それが人の形となりリーグが出現した。
「私が放った矢がまだ刺さっている」
「お前がこの腕に二度も矢を貫通させた女だな。ハックを倒す前にお前を倒してやる」
リーグが一瞬のうちにクリスタの背後に近づき、剣型の念導エンジンを振りかざした。
キュイィィィィン
「バカな、私の攻撃が防がれるだと‥‥」
クリスタの背負い鞄の隙間から白銀色の剣のような形の金属の塊が伸び出している。間違いない、汎用型地上武装だ。
「生命の危機を検出したため緊急起動しました。対象を脅威と認定しました。システムをオールアンロックします」
汎用型地上武装と鍔迫り合いをしていたリーグの体が、吹き飛ばされた。その距離ざっと15m。
「グフッ」
リーグは血を腕から流し地面に倒れて動かなくなった。
「(やっぱり、私を一番使いこなせるのはミストお兄様しかいないようですわ)」
「その声はケムリ。この世界にはもういないはずなのに!」
ケムリの声を聞いたアリウムは感情的に質問を投げかけた。
「(私もあなたも、確かにこの世界には存在しない。あなたと同じ、オリジナルの思いを体現させただけのいわば複製魂と呼ばれる存在。私はオリジナルであるわけが無いですわ。だからと言ってミストお兄様への思いはオリジナルと同じですのでミストお兄様に頼まれた事をこのリーグに成り変わり、あなた方を倒します。火のないところには煙がたたない。煙が見えた頃には事が進んでいる。煙をみている限りは、現実は見えない。見えた頃には後の祭り。逆もまたしかり。煙たった場所には必ず何かが起こる。ケムリの名の下に体を私の支配下におく」
倒れたリーグが立ち上がった。リーグの意識はそこにはなかった。