念導エンジン
改訂内容 ハックの行動とアルスの行動が本来の内容から入れ替わっている箇所があったので修正しました。
渦に気を取られているとリーグの姿が消えた
以前は煙幕で姿を眩ましたが、今回は見えていた。
目を外していない。
「(フハハハハ、この念導エンジンの力さえあれば、ここの連中の時のように貴様等を瞬殺してくれる)」
声が聞こえた場所には誰もいない。
ミチュールさんが襲われたときと同じ事が起きたのなら、見えないだけで実体はそこにある。
「これはまずいかな。ハックにはかなわない」
ミチュールさんの顔色が悪くなった。
絶望の色をしている。
「俺は行ける。見えないだけならそこにいるのならば」
「そうじゃないのハック。
念導エンジンは巫女のプロトタイプで、巫女と同じほどの力を持っている。
実体はそこにあってそこにない」
ハックの自信に満ちた言葉にアリウムが警告を入れた。
「どういうわけだ?」
「「説明している暇はない」」
ミチュールさんとアリウムは質問を言葉でかき消してハックのもとに向かった。
何が起きているのか分からない俺は後を追いながらポーチの中を漁り、知恵の果実から作られた錠剤を取り出して口に含んだ。
知りたいことはリーグの持っている念導エンジンで何をしたのか。
口の中の錠剤が溶けて、イメージが浮かびあがった。
イメージの内容は、先程の光景と同じものに見えたが、情報が追加されていた。
ハックがリーグに近づいた時に見たことのない女性がそこにいた。
リーグが「念導エンジン起動!!」と言った時に女性が剣に触れて自ら吸い込まれた。
そしてリーグの体はケムリのようにモワモワと空気に溶けていった。
「アルカミクスチャー防壁張って!」
{承知した}
アリウムの正面にアルカミクスチャーが出現して、水の防護壁が出現した。
「ふふふ、それが聖霊の力か?
思っていたよりもしょぼいな。
この程度ならケムリの力で無効化出来る」
白いモヤが集まり、再びリーグの肉体が復元した。
そして剣を一振りさせた。
アリウムの防壁があるので当然のように俺達には当たらずに防がれる。
リーグはそんなことお構いなしに剣を押し当て続けている。
すると、剣に触れている防壁が少しずつ黒く変色していった。
「ううう、耐えれない。無効化される」
アリウムの頼りない声が防壁内で響く。
「ひとまず撤退をするのが一番かな」
ミチュールさんも勝てない事を悟っている。
「仕方がないから撤退しよう」
俺達は一般人には圧勝する事ができたのだが、それはルールに基づいた試合のようなものだったからだ。
死合では別だ。
せめて、クリスタとテクノがここに居るのなら勝てたのかもしれない。
まだ門の前にいるから助けを求めれない。
だから俺は、ポーチからfirstlibraryを取り出した。
「俺はまだ戦える」
そう言ったハックの手を俺が掴んだ。
「ハックは大丈夫だろうけど、このままではアリウムが保たない。アリウムの姿を見てみろ」
俺はアリウムの方向に手を向けた。
アリウムの額から汗が垂れていて、まるで疲労しているような姿だった。
「私は大丈夫だよ。でも、今のアルカミクスチャーの力では防壁は長くは持たない。戦闘を中断して場所を変えるべきだよ」
徐々に防壁がリーグによって危ういものとなっていき、亀裂が入った。
どのみちこんな部屋の中では戦えない。
俺は脱出するためにfirstlibraryの目次を開いた。
「飛べ、防壁ごと門前まで。転移先はクリスタとテクノがいる場所まで、起動せよfirstlibrary。
真実の名の下に!」
防壁内がfirstlibraryから発生した白い光によって周囲の一切の物が知覚できない。
瞬きをすると光は消えており、目の前には女の子が二人いた。
「びっくりしたー。意外な方法で戻ってきたね」
「目的は達成したですか?」
「法の無効化はできたが‥‥」
俺はあった出来事をありのまま伝えた。
「念導エンジンですか。厄介ですね。
念導エンジンは名前からして機械っぽいですが、操るのは流石に無理です。私は電波で遠隔操作可能な機械なら操れますが、念導エンジンは機械には違いありませんが電波で動くものではなく、人が無意識下に発する未知のエネルギーを集めてこの世のことわりに触れる機械です」
「テクノありがとう。続きは私が説明しようかなー」
テクノの説明にミチュールさんはもっと詳しく説明をしだした。
「西暦2532年人類は深刻なエネルギー問題に直面しようとしていた。エネルギー問題を解決するために、とある技術者はある画期的なエネルギー変換装置を生み出した。それが後に念導エンジンと呼ばれる物となった。念導エンジンは、世界各国に伝わる頂上的な歴史的出来事や神話などで化学的に不可能で物理的に起きるはずのない事柄の胡散臭く信憑性の無いも
のようは、ファンタジーやメルヘンと言われるものをも元に作られた。
例え有り得ないことでも、間違いなくその現象が起きたと記録に残っている以上は再現をする事が可能だと技術者は思ったらしい。
それらを分析すると、幾つかの共通点が存在した。
一つ目はリーダー的存在がその現象を起こしたということ。
二つ目は周囲にその人を従えるまたは、信じる物が複数人いること。簡単に言うと人が注目をしていること。
三つ目は周囲の人数が多ければ多いほどに現象が多く発生した。
四つ目はリーダー的存在は必ずと言っていいほど後の歴史で神か悪魔と類似した扱われる。
これらの事以外に東洋の記録では付喪神と呼ばれる物を使い続けると独りでに動き出すという現象が確認された。
西洋では魔女と呼ばれる者が複数居たそうだが、本物の魔女はいたりしない。概念こそあれども、観測した者は誰もいない。だというのに魔女は殺されたと記録にある。記録は間違ってはいない。
これらの事実から、人が触れたり意識したりする物には自然と未知のエネルギーが宿る。宿った物は現実的に出来ない事ができるようになる。
この統計データから念導エンジンは作られた。
念導エンジンの材料は未知のエネルギーが宿った水晶と強い思念などの他にも色々必要だけど、今回は説明はしないでおこうかな。
まあ、こんな感情で動くような物だから昔悪用されてこの世界が戦争で滅びかけた事があったみたい。
戦争を終わらせたきっかけは人自体が念導エンジンになるという聖霊システムが生み出されて大半がそれに置き換わって平和な時代がやってきた。
念導エンジンという物は歴史から抹消されて、偶然見つけたとしても、レコードをみる以外で動かす事は不可能かなー。
地下から出てきた念導エンジンは、常時起動中だから分からないことは無いけど、魔剣風の念導エンジンには未知のエネルギーの供給源が分からない。存在を誰も知らないのだから動くことがまずないはずだというのにね」
俺達がみたものは本当に念導エンジンなのだろうか?
説明を聞くにしても、霊魂を使う物では無いらしい。
だから、訊ねてみた。
「さっきの念導エンジンの起動時に女の子の霊のようなものが周囲に居て念導エンジンの中に入っていった。リーグの言葉から察するに、名前はケムリ」
「ケムリはもうこの世界に居ないはず。
ねえアルス、本当にケムリがそこにいたの?」
アリウムが目の色を変えて聞いてきた。
旧友に会うような懐かしむ目ではなく、仇敵に会ったかのような憎悪を目に浮かべていた。
何が会ったのかは聞けずにただそこに居たとだけ伝えた。