見えない人間
犯人はわかった。
だが動機がわからない。
こんな事を意味もなくする事は考える限り有り得ない。
バイブル「犯人は確かに奴だ。動機は俺も知らないが、まあいいだろう」
いまいちすっきりしない。
まるで方程式を途中で解くのをやめるような、あと一歩でとどくのだが道がない。ヒントがないからここで行き止まりだ。だが諦めない。
謎を解くためには何があっても新しい事を知る必要がある。
そうだ、あれがあった。
アルスはポーチから薬瓶を取り出した。
クリスタ「アルスいったいなにを取り出したの?」
アルス「これは知恵の果実から作られた薬で俺の真実の名を一時的に解放する事ができる」
クリスタ「真実の名を解放して何が起きたのか知っているよね?」
少し怒っているように見えた。
アルス「あの時は力にのみこまれたけど、薬を使えば暴走することがない。安心して使える」
バイブル「やめておいた方がいいぜ」
話に割り込んだ。
バイブル「いくら便利なものだからといってもそれは薬だ。俺は薬を使いすぎて人ではない何か別の者になっていった奴を多く見てきた。アルスとかいったかお前は、使うなとは言わないが量を決めなければならない。一日に使う量だ。一錠くれ」
俺は瓶から一錠をバイブルに渡した。
彼はそれを指で潰して粉々にした。
そして少しだけ舐めた。
バイブル「うっ!」
少し彼の足元が揺らいだ。
そして少したった後にこういった。
バイブル「なるほど、そういうことか。把握した。お前はレコード一族のAの名持ちだな。この薬はどうやらお前専用のようだ。お前にだけ副作用がなく使えるみたいだ。一度に何十錠も飲まなければ大丈夫だ」
アルス「大丈夫ならつかう。知りたいことは犯人の動機」
1錠を口に含んだ。
口の中で薬が溶けると脳内にイメージが浮かび上がった。
~イメージ~
???
???
???
???
~イメージ終了~
バイブル「それで動機はわかったか?」
アルス「さっぱりわからない」
アカシックレコードには全てが記されているはずだ。なのに何も見えなかった。あえて見えたものを言うならばノイズが見えた。それもまるで何重にも塗り重ねられたかのようだった。
バイブル「やはりレコードを見てもわからないか」
何かを知っているかのような発言をした。
バイブル「ここのシェルターには限られた者しか入れない。それはあることに気がつかないからだ。それとセキュリティーの関係上全ての入り口には自動で顔を撮影するカメラがあって、入ったすぐにシェルター内の全てのディスプレイに映し出される。だが奴は最近になってここで見かけるようになったが一度たりとも奴が映し出された事がない。映像は映し出されたのだが奴の体は映し出されない。」
アルス「カメラに映らない人間がいるとは初めて知った」
ほー、と思った。
クリスタ「映らない方法なんて幾らでもあるよ。例えば~」
首にぶら下げている水晶のペンダント外して両手で握りしめた。
クリスタ「曇りの無く透き通った水晶よ。大自然が生み出した神秘よ。今 私にもその透明度を貸し与えよ。真実の名の下に!」
握られた水晶が光を放つ。
掌が光で透けて見える。いや、透けているのだ。掌、腕、そして身体と少しずつ見えなくなっていく。
クリスタ「どうかな?見えないでしょ」
姿 形が一切見えない。
唯一声だけが聞こえる。
アルス「確かここに居たはずだな」
クリスタがいそうな場所に手を当てた。
プニプニと軟らかいものが当たった。
アルス「これはなんだ?」
モミモミしてみた。
クリスタ「キャッ!」
声と同時にクリスタの状態が戻った。
そして手を弾かれた。
クリスタ「バカ」
顔を赤くして呟いた。
アリウム「何の躊躇もなく女の子の胸を揉むなんて君も変態だねー」
ハック「見損なったぞ。女性に悪戯するなんて」
テクノ「最低です」
何だか気まずい空気になってしまった。
とりあえず謝らなくては。
アルス「ごめん。悪気があったわけじゃないんだ。手探りでクリスタの事を探していただけなんだ」
ミチュール「許してあげたら、クリスタも知ってのとおりあの村でアルスに女性との接し方を教えれる人がいなかったからね」
クリスタ「こちらこそごめん、私を探したということは私の事を心配してくれたと言うことだから、とってもうれしい。ありがとう」
アリウム「心配されて喜ぶなんて君、いや君達も変わり者だねー。
今度は私が姿を消してみるよ。いくよ、アルカミクスチャー」
(我の力を借りるとは久しいな。良かろう、皆の衆しかと刮目せよ。見えるものが見えなくなる現象を)
アリウムの体から水が染み出て全身を覆った。
「水の色を(知っておるか)何色にも(染まる)ゆえに(ゆえに)周囲の環境によって(姿を変える)」
アリウムの足の色が床の色と同じ色に変化しだした。段々と全身が同化していった。これはまるで、
アルス「擬態だ」
擬態それは動物が外敵から姿を気づかれにくくする行動である。
人間には出来ない行動だ。
バイブル「お前さんもしや聖霊人か?」
アリウム「せっかくの見せ場に水をさすなんて、確かに私は聖霊人だよ」
一方バーでは客C(私)の策略で荒れまくっていた。
まさかあの程度で勘違いするなんて随分と程度が低い。
このテクスチャの手に掛かれば認識を変えることなんて簡単なこと。
それにしてもあの集団は一体なにかしら?
口にせずに成分がわかる少女と危険をいち早く察するオッサン。それと何も不思議に思わない数人の付き添い人。
さっきからずっと外窓からその人達が覗いている。非常に不気味で嫌になってしまう。
少したつと彼らは窓を覗くのをやめて話をしているように見えた。
あれは薬瓶のようだ。
青年が薬を口にするとなぜか私が見られているように感じた。まるで眼差しが体いや心に突き刺さるようだ。
この感じは物理的なものではなくもっと違う、まるで術のように感じた。
数分後には青年と同じぐらいの女がネックレスを両手に握ると姿が消えた。
私以外に幻術を使える奴がいるなんて聞いたことないよ。
そう思っているうちにもう一人の女も何か術を使った。その時腰に付けていたデバイスが反応した。デバイスには警告 聖霊獣出現 と映っていた。
もしやあれがリーグの言っていた聖霊人か。まさか実在していたとは報告しない訳にはいかないよ。