旅立ち
夢世界から帰宅した数日後の今まさに準備が整い、後は旅に出るだけだ。
アラン「本当に行くのか?」
珍しく心配をしているようだ。
アルス「ああ、行くとも。苦しむ人を助けるために。真実の世界を見るために」
ミチュール「私がついて行くから大丈夫かなー」
あの頭の中に浮かんだ光景を思い出した。あくまでも浮かんだだけだから実際に起こることはないが気になったので聞いてみた。
アルス「ミチュールさんは取り乱したりする事はあるのか?」
ミチュール「随分と抽象的で難しいこと聞くねー。幾ら大人になっても取り乱すことはあるけど、ある程度の態勢があるからよほどのことがない限り取り乱すことはないかなー」
アリウム「なかなか聞こうとも思わないことを聞くなんて君も変わり者だねー」
クリスタ「アルスがこんな事聞くなんて何か変わったイメージでも見たの?」
テクノ「何か隠し事しているみたいです。とっとと白状するです」
ハック「巫女様と話をしてからずっとそうだ。一体何があったんだ」
アラン「旅にでる前に思っていることがあるのなら今話しておくとよい。思い伝わる前に朽ち果てては元も子もない」
皆が迫ってきた。
助けを求めようとハロルドの方に視線を向けたら口を開けてこういった。
ハロルド「大事なことを前に引き返すことはできない。後悔は後を絶たず。何かが起きる前に伝えないといけない」
俺は皆に伝えた。
いつか起こるかもしれないイメージの内容を伝えた。
ミチュール「私が旅の途中で正気を失う。信じられないけど、レコードの情報だから間違いなく起きるかなー」
アラン「随分と他人のことみたいに捉えているんだな、姉さんは」
ミチュール「もしも正気を失ったら見捨ててもいいかな。こんな叔母さん放置してもらってもいいよ。でも一つだけお願いがある。それはセンターパークの人々を助けてあげてほしいなー」
自分自身がどうなったも人々を助けたい。心意気は立派としかいえないが、土地勘が全くない(ハックを除いて)ため旅を続けるにもミチュールの存在は欠かせない。何よりも家族だからだ。
アルス「絶対に見捨てない、置いていかない。人々を助けるならば俺達がミチュールを助ける。誰一人として居なくならない。居なくならさせない」
ハック「俺達を巻き込むなんていい根性だ。気に入ったよ。その心意気」
アリウム「私も旅に出るよ。今の時代というものを見てみたいからね」
出発前の話は終わって村を出た。
~森~
アルス「あれからどれぐらいたった?」
歩いても歩いても草 木 小動物
その様な物しか見当たらない。
間違いなくセンターパークに向かっているのだが実感が持てない。
テクノ「3時間といったところです」
ハック「俺がセンターパークからハテノ村にたどり着くまで5時間かかった」
クリスタ「じゃあ、食事でもしようよ。空は真っ黒お先真っ暗」
ミチュール「じゃあ近くの村で朝まで過ごそうかな」
ハック「センターパークで入手した地図にはハテノ村以外のコミュニティーがのっていない。まだまだ俺の知らないことがあるんだな」
~?村~
アルス「あれが本当に村なのか?
どうみても人の気配がしない。それどころか建物すらない」
ミチュールさんが村だと言っている場所には、切り株が沢山あった。
テクノ「面白い構造のドアですね」
ミチュール「一目見てドアだと分かるなんて流石私の娘かなー」
ハック「家族内だけで話さないで俺達にも教えてくれ」
アリウム「私は知っているからいいよ」
ミチュール「これは切り株そっくりにエンコードされた地下シェルターの入り口。開けるにはこのドアを回すと段々とせり上がって1本の柱がでてくる。まあみた方がはやいかな」
腰につけている銃を両手で握り締めた。
ミチュール「打ち出すものは運動エネルギー、放て力ある限り!」
引き金を引くとドーンという音が響いて、切り株が高速回転しだした。
ミチュール「動きよ止まれ、真実の名の下に」
もう一度目蓋を開いたら切り株は入り口と化していた。
ミチュール「さあ、中に入ろうかな」
~地下シェルター内~
ミチュール「この部屋だよ」
少し中を歩いてとある部屋に到着した。少しアルコール臭い。どうやらバーのようだ。
?「ほんでよう、あそこの娘さんが遺跡調査をしていてよう……。そこで面白い壁画を見つけだそうだ。大昔の生き物らしいのだがその動物の皮どころか骨すら見つからないんだ」
地下に入ってまず見えたのは酔っ払いの40代のおっさんだった。
ゴクゴク酒を飲んでいる。
酒にのまれている。
ミチュール「相変わらずだらしないねー。もしかしてまたカジノに巻き上げられたのかなー?」
?「うっせえなー。その声はヒューズの嫁か?お前は変わらないな。何もかも昔のままじゃねーか」
ミチュール「間違いなくあなたはバイブルさんだね」
バイブル「別にそれが本名ではないが、まあいいだろう。俺こそがギャンブラーのバイブルだ」
うわー、相手にしたくないタイプのひとだとアルスは思った。
バイブル「ほんで今日はどうしてこんな所に来たんだ?
それも大人数でしかも幼い子までいるんじゃないか」
テクノ「アルコール度数0%。ただのジュースに香料を入れてお酒に見せかけているだけです」
バイブル「だれなんだこいつは」
ミチュール「私の娘のテクノだよ」
バイブル「お前の娘か、飲まずにわかるとは流石だ。でもなー、嬢ちゃん。世の中には言ってはいけないこともある。おーいマスター俺はもう帰るわ」
男は金をカウンターに置いて俺達を部屋の外に連れ出した。
バイブル「お前たち窓から部屋をのぞいてみな。これからなにが起こるか見ておいたほうがいい」
~バーの中~
客A「おいどういうことだ」
マスター「どういうことと申されましても」
客B「酒というものは火がつくんだよなー」
マスター「その通りでございます」
客C「俺のマッチを使うか」
客B「よこせ。もしも火がつかなかったらただでは済まさねえからな」
客Cはひっそりと笑みを浮かべていた。
マッチを擦って火をつけた。
それグラスの中に入れた。
ポチョンと沈んだ。
客B「火が移らない」
客A「ふざけるな!」
ボトルでマスターを殴りつけた。
それに続いて他の客も物を投げつけた。
~窓の向こう側~
アルス「なにが起きたんだ?」
バイブル「この酒場に来る奴の多くはろくでなしだ。日頃のストレスを忘れるために酒を飲みにくる。だが、酒は人を狂わせる。奴は自分の飲んでいたものが酒ではないと知り、怒りが爆発した」
アルス「でも、あんたは酔っているじゃないか」
バイブル「奴らがみているものと本当のことは違う。いくつかの真実を教えよう。俺は酔っている。俺はさっきまでジュースを飲んでいた。マスターは嘘は言わない。以上だ」
ハック「結局お前はなにをいいたいのだ」
バイブル「感情的になっているほど真実が見えなくなる。集団的に正気を失うと手が着けられない。この事件には犯人がいる」
テクノ「私ですか?」
バイブル「いや違う犯人はまだ店内にいる」
クリスタ「酒だと騙してジュースを売っていたからマスターだと思うよ」
アリウム「バイブルの飲んでいたもの以外はみんな本物のお酒だよ」
謎がますます深まっていく。
ミチュール「子どもたちを試すなんてやっぱり気になるのかなー」
バイブル「当たり前だ。お前の知り合いは皆変わり者ばかりだ。人間が3人でそれ以外が2人こんな面子は初めてだ。試さずにはいられない」
今起きていることをまとめよう。
酒を飲んでいた客が暴徒化している。
理由は酒以外を飲まされていたからだ。
だが酒は本物なのだ。
ここが大きな矛盾点だ。
アリウム「それにしてもどうしてマッチなんか使ったんだろう」
アルス「そりゃあアルコールが入っているかどうか確かめるためだろう」
アルコールには火がつく当たり前のことだ。
アリウム「アルコールには火がつくけど、酒にはあれじゃつかないよ」
アルス「アルコールと酒は同じものだろ?」
アリウム「酒とはエチルアルコールを含んだ飲み物のことでアルコールと何かが混ざったものだよ」
だからといってアルコールが入っているから燃えるはずだ。
嘘は言っていないはずだ。
待てよ(あれじゃつかないよ)ってなんだ?
ここが矛盾を解消する鍵に違いない。
アルス「酒には引火するんだな」
アリウム「引火はするけど条件がいくつかある。まずは液温、次は空気との割合、最後に火か静電気を近づける」
つかなかったのはどれかが足りなかったからだ。空気だけは問題なし。液温か引火元のどちらかだ。液温はわからない。引火元はマッチの火。液温だけわからない、いやグラスに結露がついていた。
アルス「液温が低くても引火するのか。
アリウム「そんなことはないよ。低いと絶対に引火しないよ」
まとめ直そう。
酒を飲んで暴徒化している。
理由は酒ではないと錯覚しているからだ。錯覚の理由はマッチをグラスに入れても引火しなかったからだ。
部屋をもう一度見るとマッチを渡した男だけが冷静にワインを飲んでいた。
アルス「犯人はこいつだ」