鉱石の口跡
「目を覚ましましたか?アルス様」
女性の声が聞こえた。
だが、目がぼやけてまだよく見えない。
1つだけ確かなことがある。
ここは地下水脈ではない別の場所だということだ。
「巫女様に用があってお越しになられたのでしょう。もうしばらくお待ちください」
巫女様という単語に耳が反応した。
巫女のいる場所は、夢世界のチノ遺跡だけだ。今までに遺跡で姿を見たのは2人だけ、巫女はまだきていない。
つまり、隣にいるのは、彼女だ。
視界がクリーンになった。
俺は近くにおいてあったfirstlibraryを彼女に向けた。襲われる前に倒す。
「以前お会いしいたときに襲ってしまい、大変申し訳ございません」
ウィンダがとった行動に、アルスは驚愕した。何と謝ってきたのだ。
それもただの謝罪ではなく、東洋に太古から伝わる謝罪の最終形態。
その名をDOGEZAという。
DOGEZAは儀式などで祈りを捧げる時の姿と非常に似ている。
つまり、自分自身を供物として捧げて怒りを静めると言うことだ。
昔の文献なのであっているかどうかは分からないが。
「巫女様の大切な人とは知らずに多大なる無礼な振る舞いをしてしまったことを深くお詫び申し上げます」
深々と頭を下げられてしまった。
これ以上下げられると、俺が酷いことをしているような気分になってしまう。
「いいんだ。もうやらなければ」
ウィンダは頭を上げた。
「私の自己紹介をしていませんでした。
ウィンダ・リフレクトと申します。私は趣味で巫女様のお世話、チノ遺跡の管理、書物の管理をしています」
「俺の名前はアルス・A・レコードという。こちらこそよろしく」
2人は握手を交わした。
「仲直りは済んだの?」
「たった今終わりました」
巫女が部屋にやってきた。
「今日は、どうしてここにきたの?」
「地下水脈で水晶を採集しているときにうっかりミスをしてしまって……
なぜここにきたのかを説明した。
「って訳だ」
巫女に説明したが、彼女を見ると少し口元に力が入っているように見えた。
多分気のせいだろう。
「わざわざきてくれたの嬉しいの。でもその程度のことで呼ばないで欲しいの。その本は一体何のためにあると思ってるの。
必要な知識はその都度教える、でも今回の場合は知っている知識だけで十分なの。知っていることだけで十分に対処できるのにそれをどう生かすか考えもしないですぐ聞きにくるのは良くないの。知識というものは自分で努力して手に入れるものなの。アルスの知っている人はこんな事をいうはずなの。私から言うと知識は持っているだけではだめなの、経験と合わせて真の価値が生まれるの」
いつもの巫女とはだいぶ受け答えが違った。すごく口うるさい。これはまるで、説教のようだ。
でも懐かしさを感じる。
「巫女様どうか気を沈めてください」
「ウィンダは少しの間黙っていてほしい。ここからが大事なの。
アルスにヒントを教えるの。まず、地下水脈の水晶は人を襲わない。動きに反応しているだけなの。次に、水晶を採集するには壁から剥がさなければならないけど、剥がすのは基本無理なの。他に方法があるとすれば、架かっている術の効果でしか絶対にできないの」
「他には何か知っていることがあるのか」
「言えるのはここまでなの。とっとと現実に戻るの」
「まだ、何をすればいいか分からない」
「泣き言言ってるんじゃないの、今すぐ戻るの」
巫女が俺に向かってエルボを喰らわせてきた。
決して痛くはない。
痛くはないはずなのだが、体に違和感を感じる。まるで太古の昔にあったとされるジェットコースターから落下するかのような違和感だ。意識が薄れていくように感じた。そして何も見えなくなった。
身がさめると、地下水脈に戻っていた。
天然の鉱石の兵器の動きは止まっていた。自分の周囲には透明の破片が溜まっていた。それは周囲にできた非常に小さい川に流れ出していた。
とにかくミチュールさんとハックに合流しなければ。
どっちの方角からきたのか分からない、なので川の流れと同じ方角に歩いていこうと思う。
少し歩いていると例のシェルターが見えた。そろそろボンベの空気が切れる、中に入ろう
「アルス無事だったのかな」
ミチュールさんがいた。
「よく無傷でいられたな」
ハックもいた。
「流石俺の息子だ。よく戻ってきた」
ドクターは大きな袋からみたことない鉱石を取り出していた。おそらくは本来の目的を達成しただろう。
こっちは達成していないというのに。
「シリコンは十分に見つかった。話は聞いている。まんまと罠にはまったのだな」
「それで少しの間夢世界に行って方法を聞こうとしたが、無理やり戻されてしまった」
「巫女様らしいな、最低限の知識しか与えないとは。服や靴が濡れているから乾かそう。そこら辺に着替えがある。シャワーでも浴びてきなさい」
いわれるがままに浴室につれてかれた。