銀の弓
白銀の武器、これはいったい何なのだろうか。
名前は汎用型地上武装という。
それは持つ人によって形状を変化する。
それはまるで命を持っているかのように持ち主に適した形状になる。
この武器をクリスタに渡すようにテクノちゃんに頼まれたんだ。
今の形状は元の鉄板の状態になっている。
これをポーチにしまって、クリスタの所に向かおう。
クリスタは村の奥にある練習場にいた。
東洋にある建物をモチーフに作られている。
「クリスタ、部屋の片づけが終わったよ」
「ありがとう、アルス」
クリスタはあることの練習をするために、服を変えていた。
片腕だけのグローブに丈夫な胸当て。
つまりは弓の練習をしていた。
弦を引き、弓をしならせて矢を的に向け放った。
しかし矢は的には当たれずに、横の土壁に突き刺さっていた。
「何度やってもうまくいかない。この弓が痛んでいるからなのかな」
「ここの練習場なんて使っているのは俺達ぐらいだろう」
この村には若者がほとんどいない。
それどころか、人がほとんどいない。
今この村で暮らしている世帯数は2世帯しかいない。
なぜこうなったのかは、元々ここは辺境だからゆえに物が足りなく、便利なセンターパークに移住していった結果こうなってしまったのだ。
「でも、私達はこの村を守護する最後の人何だから例え弓が痛んでいても、練習を続けないと」
「少し待ってくれ、テクノちゃんから預かっている物があるんだ」
俺はポーチの中から例の鉄板を取り出した。
それをクリスタに手放した。
「テクノがこんなものを、一体何だろうね」
「汎用型地上武装、所持している人にふさわしい形状に変化する太古の武装らしい」
「私にふさわしい形状か、遠くまで見渡せて、どこまでもまっすぐに矢を飛ばすことのできる弓ならふさわしいかな。なんてね」
クリスタの思いに答えるように鉄板に切れ目が入りが形状が変形していった。
その形状は筒の付いた弓のようだった。
「よく飛びそうだね。どれほど違うのかな」
弓を構えると、周囲から音声が聞こえてきた。
「汎用型地上武装起動しました。
これより、ユーザー登録を開始します」
音声ガイダンスのようだ。
弓から聞こえる。
「ユーザーネームを教えてください」
村の中ではクリスタと呼ばれているが、それは、信頼のできる人だからであるからなのでクリスタはこう答えた。
「クリス・エンド」
「承認しました。システムを30%アンロックして起動します」
矢を右手で摘まんでワイヤーを引いた。
「狙いは目の前の的。
願いを込めた一本の矢を、今伝えるべき所に届ける。真実の名の下に!」
矢が放たれた。
的に向かって一直線に、真っ直ぐに、ストレートに飛んでいった。
今までのスピードと比べると、明らかに速い。
そして何と矢が的を貫いた、それだけではスピードが収まらず貫通して地中を潜り始めた。
「凄い凄い、嘘のように飛んだ。
道具一つ変えるだけで、ここまで変わるものなんだ」
クリスタがさりげなく力を使ったのが気になったから聞いてみた。
「クリスタは、力を使っているのか?」
「力ってなにかな?
さっきの弓は持ち手の所にスイッチがあって、これを押すと、今までの物より軽く引けるから力は入れてないよ」
どうやら自分で使っておいて気がついていないようだ。
「いや、こちらの話だ」
クリスタは間違いなく力を使った。
「真実の名の下に」と言ったからには使っている。
この術は名前に込められた力を使うものだが、クリスタ・エンコードの名か姓のどちらを使ったのだろうか?
クリスタは水晶を、エンコードは特定の形に変化させることを表す言葉だ。
水晶は周囲には存在しない。必然的にエンコードの力を使ったのだろう。
でも、何をエンコードしたのだろうか?
当たった物がエンコードされているはずだから、今は地面の一部をエンコードしている。
「それにしても、いつまで潜り続けるのかな」
微弱ながら矢の進む音は地中から聞こえる。
音から察するに、放たれた矢は未だにスピードが落ちない。
数分後、音は鳴り止んだ。
その代わりに、矢が進む事によってできた穴の中から水が噴出してきた。
次話からやっと冒険が始まります。