目を疑った出来事
今回は、村長のハロルド・エンコードの意外な一面を描きました。
あと、ようやくアルスが昨日使った謎の力の正体が分かります。
追記2/27
書き直しました。
クリスタに言われたとおり川の水で手を洗いに行った。
この村は壁で囲まれているが一カ所だけ壁が存在しない。そこから水が流れる。見た目はダムのようだ。水の出口は存在せず、村の土に吸い込まれていく。昔の文献で言うところの貯水湖なるものが地下に存在するらしい。そこの水を樹木が吸い空きが生まれる。循環型システムとなっている。
川に辿り着いて一番はじめに見えたのは村長だ。
右手には長い槍のようなものを持っていて、川の中を覗いている。
「見えた!」
「ハイヤー」
いきなり川の中に潜って行った。
大丈夫なのか村長は結構な年を取っているはずだ。
ブクブクと泡が水面に浮かんできた。
溺れてるのか?
一瞬そう思ったがそれはないな。
村長は屈強な男なのだから。
「トウリャー」
川の中から出てきた村長は大きな黒色の箱のような物を両手に掴んでいた。
「おう、アルスではないか」
「おはよう、村長」
「アルスや、昨日渡したfirstlibraryは大切にしてるか?」
「ああ大切に家に置いているよ。それより聞きたいことがある。
この本は一体何なんだ。渡されてから変なことが起きる。
気を失ったり、夢の中で襲われたりした」
俺は思っていることをすべてぶつけた。
「おぬしが気になるのも無理もない。まず何を知りたい?」
悟ったかように村長は話を聞こうとした。
「この本はなんだ?」
「firstlibrary夢世界で作られた本だ」
「夢世界ってなんだ」
「夢世界はチノ遺跡がある場所だ」
「ちょっとまったチノ遺跡は昨日夢の中でいた場所じゃないか」
「ほう、チノ遺跡に行っていたのか。
あそこは世界中の情報が集まっている。
おそらく巫女様に呼び出されたのだろう。
おぬしが夢だと思っているもの、それは紛れもない現実だ。魂だけが呼び出されたのだ」
俺はなんとなくいやな予感がする。
「遺跡で女の人に襲われたのってまさか」
「魂しかないのだから幽霊か何かと間違えられたのだろう」
なんということだ。
言葉通りの意味で気を失っていたのか、クリスタには心配かけたな。
「それとドクターの部屋に大穴が開いていたんだ。それであの穴に吸い込まれたんだ。なぜあんな所に穴が開いているんだ」
「なんとあの穴が開いていたのか」
驚いたかのように、目つきが変化した。
俺は質問を続けた。
「昔からあったのかあの穴は」
「昔というか、あの穴はごく稀に開くようになっている」
「それより、よく穴に落ちて無事だったな」
「始めは正気を失っていたよ。
だけどfirstlibraryのおかげで正気を取り戻してどうすれば上に上がれるかを考えたんだ。
それでチノ遺跡で起きたことを思い出したんだ。
firstlibraryの目次の触れればハテノ村に戻ることが出来ると。
そして、真実の名の下にと叫んだ。そうやってなんとか穴から出ることができた」
村長は黙り込んでいる。何やら大事なことを考えているようだ。
「少し説明をしなければならないな。
真実の名の下とは名前の持っている力を自分の力として使う術だ。
使うなとは言わんが使いすぎるな。
限度を越えると精神がおかしくなるぞ」
「忠告ありがとさん。ところで手に掴んでるものはなんだ」
意外なことを聞かれたような顔をした。
「これか?これはな村の外から定期的に送り込まれている物だ。
中には最近外で起きたことが書き記されている書物や工芸品が入っているのだ。
ワシの家に置いてある本や物の大半がこの箱の中に入っていたものだ」
「誰がそんなものをわざわざ送り込んでいるのだ?」
「だれが送り込んでいるのかは分からんが昔ドクターがこの村の外で暮らしていたときの知り合いが送り込んでいるらしい。長話をしてしまった。
これをやるから孫のもとへ行ってくるが良い」
そう言って俺にポーチのような物を託した。
肩に掛けるポーチのようだ。
「そのポーチの中には役に立つ物様々なものが詰まっておる。大切に扱うのだ」
「貴重な物をどうも」
村長に別れを告げた俺はクリスタのもとへ急いだ。
アルスに渡されたポーチは様々な物が入っています。
中を覗いても、何も入っていません。
自分の必要なものを思い浮かべると中身が追加される。
非常に変わったポーチです