完全なる継承
これで、探求者の記録簿は終わりです。
穴を抜けたどり着いた先には俺がいた。
どうやら着地の衝撃で目が覚めたらしく、ベットから俺を見ている。
一度目を反らしてもう一度こちらを見ると
「誰だお前は!?」
このように驚いた。
流石、自分自身だ。俺もきっと同じ反応をするだろう。まずは互いの認識を共有しよう。
「未来のお前だ。とりあえず話を聞いてくれ」
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すべてを話した俺は俺からこのように言われた。
「成る程、継承に失敗したのか。いやー事前に知れてよかった。とりあえず、ドクターのところに行こう。
俺が失敗したのには何かしらの要因があるはずだ。いや、逆に要因がなかったかもしれない」
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「やあ、アルス。そして未来のアルス。事情なら事前に未来の私から聞いている。
今から3時間後に時を止める。それまでに作戦を練り出さないといけない。
失敗には必ず理由がある。今回の失敗は祠のありかがわからなかったことだ」
「そうだ。条件を満たしたリンゴを全て調べたが何も起こらなかった」
「ならば、条件のほうを間違えていたのだろう。直接姉さんに聞きに行ければいいが、それは出来ない。」
「「なぜだ?」」
「現時点で、チノ遺跡は教会の民に襲撃を受けている。
原因は汎用型地上武装に宿る人工知能“LINNNE“が解析されてしまい、低コストでの空間転移が可能になってしまったからだ。
襲撃自体は遥か昔から行われている。先代アルスを襲った奴らもその一味だ。
私が妻を救いに行きたいのだが、遺跡からブロックされている為、侵入する事の出来ない。
アルスなら侵入できるが、事態の改善はまだできない。
なぜなら、世界が改変されているからだ。
改変された世界の中に入ると当然ながら影響がでる。例えば、力が使えなくなったり、記憶が書き換えられたり、自分の意識とは関係の無いことをしてしまったりするだろう。
改変を受けないようになるには鍵が必要になる。
現時点で改変の影響を受けていないのは、世界でこの樹木だけだ。
話を戻すが、継承の条件を一度考えてみたらどうだ? アルスには独自の結論を求める能力があるじゃないか。
二人とも考えてみるときっとわかるに違いない」
俺たちは魔法データリンクを発動して意識を共有した。
過去の俺よ、俺は熟す前のリンゴをすべて調べたが継承に失敗した。これがドクターのいう条件を間違えた事というだろう。
そこで、条件を詳しく考えてみよう。
“知恵の果実の熟する前の青い果実の前“とは先程の事だと思い込んでいた。
なあ、未来の俺。“知恵の果実“とはリンゴのことで間違いないだろうが、“熟する前の青い果実の前“ってどういう事なんだ。未来の俺の考えでは青リンゴの事を言っているのはわかるが、その前って一体何処だ?
リンゴには上下の概念はあったとしても前後の概念は存在しないだろ。
過去の俺よ、そう言えばそうだな。そもそも存在しないのだから祠なんてものも存在しない。
もしかして、その前というのは場所を表しているわけではなく状態を表していたのかもしれない。
リンゴの前の状態といえば、花のことに違いない。
ありがとう。これで第一条件は完全にわかった。
第二条件の“光見えしとき在られることはない“これに関しては、先ほどの花の事を言っているのは容易に理解できた。現に一度も花を見たことがない。
リンゴがなるからには花があるに決まっている。
ものに光があたってはじめて目で見る事ができる。光を反射している以上、確認できないはずがない。
未来の俺よ、光を跳ね返さない物体は存在しない。だから花は実体を持たない。あるいはまだ出現していない。
条件以外に大切な事がある。
この樹木は、人々に安らぎの時間を与える。
この樹木は、一族の願いを聞き入れる。
この樹木は、永遠に枯れることがない。
この樹木は、世の中の変化によってその姿を変える。
樹木に纏わる言い伝えだ。
それぞれの解釈をするときっとわかるはずだ。
過去の俺よ、“人々に安らぎの時間を与える“は、外と中では時の流れが違うからうまく使えれば外での1時間が、何年にでもなるだろう。
“一族の願いを聞き入れる“は、以前ドクターが樹木を変形させるのに使った。ミチュールさんも以前暮らしていた部屋を出現させた事から、実際に願いは聞き入れられている。だが、単純に花よ現れよでは聞き入れられないだろう。
“永遠に枯れることがない“は、当たり前だ。聖霊は不滅の存在。樹木は聖霊由来の“ガラパゴスの種“から育ったものだから何があっても枯れることはない。たとえ水がなくとも、土地が痩せようとも活動が中止するだけだろう。
“世の中の変化によってその姿を変える。“ここがわからない。
世の中の変化とはなんのことだろうか過去の俺。
恐らく、今起きている現象のことに違いない。
だが、この樹木は変化していない。外界から隔離ためである。事実上ここは別の世界となっているのだ。
少なくとも樹木が変化を認識しなくては姿が変わることはない。
もしかして花が現れないのは結界のせいだったのか。
「全てを理解した。だが、危険すぎる」
「確かに危険な事はできる限り避けたほうがいい。
しかし、全ての道が安全というわけではないだろう。けど、その道しか見つからない場合は、それが最も正しい判断だろう。
心配はいらない。例え何が起ころうとも、未来のアルスは無事だ。今のアルスは残念だが犠牲になる」
それを聞いた、今のアルスの顔色が悪くなった。
「ちょっと待ってくれよ。俺、死ぬのか?」
「大丈夫だ。別に死ぬわけではない。怪我をするわけでもない。消えるわけでもない。
ただ、時間的矛盾を解消するためにアルスが一体化するだけだ。
俗に言われるドッペルゲンガーというやつだろう。2人が出会うと片方は消滅する。知らない人からはそう見えてしまうだろう。
別に不都合は一切起きない。むしろ、生命体として強くなる。
魂の器が合計6個になる。アルスとアルカミクスチャーの分を省いても4個の器がある。
メリットしかないうえに、これから起きる世界の変化でも優位にたてるだろう。
さあ、アルスたち。聞かせておくれ」
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「なるほど、確かに危険な賭けになるだろう。先程のようにやり直しはできない。
だけど、発想は悪くない。
私が継承をした時は結界何てものは村にはなかった。私が結界をつくったからだ。
結界を解除して樹木が無事でいられる期間はあまり長くない。明確なリミットは言えないが、1秒たりとも無駄にはできない。
勝負に勝てば世界を修正できる存在になれるが、失敗すると改変された世界で生きていくしかなくなる。
覚悟はいいか?」
それから、樹木の上の方に向かった。
前回は時を止めるためにドクターが力を使っていた為、サイコメトリーの能力を使用することはできなかった。
しかし、今回は前提から違う。前回の問題点を全て解決した今なら継承ができるだろう。いや、失敗ができない分、今回が厳しい賭けになる。
だが、今回は俺は2人いる。
継承できる可能性も2倍だ。
準備が全て終わった今、村の結界が解き放たれた。
今まで見えなかったものが見える。
村が炎上している。ハロルドの館も炎上している。石造建築のはずなのに燃えている。
そんな中、ドクターは俺たちに言った。
「よく見ておいたほうがいい。
あれが、世界を書き換える炎だ。
元の村に戻すには絶対に継承を完了しなくてはならない。
今から花の場所を調べる」
ドクターは、樹木に手をのせて集中した。
「よし、見つけたぞ。こっちにこい」
今まで見つけることのできなかった花の位置は、枝の先っぽだった。
そこにたどり着く為に二人がジャンプ台がわりになるため手を組んだ。
「乗れ」
ドクターの掛け声にあわせて助走をつけて手の上に乗った。それと同時に持ち上げられ、体は宙を舞った。
足場はもうない。これで、花触れられなければそのまま落下する。
怪我をする。それは直ぐ治るが、何よりもやり直す時間が残されてはいない。
全力で花に手を伸ばした。
そうしたら、花が祠の形に変化した。
「見えた。祠を視認したぞ」
次回からは、続編として公開します。
タイトルは探求者の復元記録簿です。
前作を読まなくてもある程度は理解できる内容していきたいと思います。