継承失敗
それからというもの、俺は祠を探し続けた。
幸運にも、ポーチの中に基準となるリンゴがあったため、調べる範囲はかなり狭まった。
けれど、祠は見つかる事のなく時間が来てしまった。
「くそっ。どうして見つけられないんだ」
「残念ながら時間切れのようだ。何があったとしても“今日中“に継承をしないといけない」
「もう時は止められないんだろ」
「確かにMPを使い果たし、時を止めることはできない。だが、やり直す方法ならある。着いてきてくれ」
ドクターに連れていかれた場所は、ワームホール前だった。
「アルス、この樹木の特異性を覚えているか?」
「そりゃ勿論、樹木の中と外で時間の流れが異なる事だろ? それがどうした?」
「そう、時の流れが違うのさ。この樹木を元にD^2は爺さんによって作られた。それで時を止めれたわけさ。
実際のところ、時を止める事よりも時を遡ることのほうが便利だとは思わないかい?」
「そんなことが可能なのか?」
「可能だ。時は遡れる。その装置こそが樹木を囲む螺旋階段だ」
「だから、あの時階段ごと消滅させたのか」
「そんなところさ。アルス、過去に行くということはそれだけで歴史改変をしていることになる。
改変そのものは別に構わないが、あまりやり過ぎると元の世界に帰ってこれなくなる可能性がある。
それと、仕組み上仕方がない事だがワームホールの着地点はアルスの部屋になる。そこに寝ているアルスがいるだろう。
けれど心配はいらない。たとえ自分に会ったとしてもタイムパラドックスは起きない
詳しい事は過去の私に聞いてくれ」
ドクターはD^2を付近の装置にはめた。すると、奇妙な出来事が起きた。
装置の画面に男が写った。しかも、かなりの年寄りの。
「誰だお前!?」
「ほう、ワシの事はまだ知らんかったか。
ワシの名は“クロノ・A・レコード“という。
アルスから見ておじいさんといったところだ。
今は時の聖霊をやっている。
D^2デバイスを持っているだろう。そこにワシの分霊体を入れて置いた。
これで準備は完了した。
さあ、飛び込むがいい」
俺は穴に飛び込んだ。
「やはり、我が子だけを送り出すのは心が痛い」
「わかっているだろうアラン。ワシらは世界の記録の全てを見たことが有るわけではない。
それに、明日の記録にはワシらの名は乗ってすらいない。消滅するというよりもそもそも存在しない。
こういうことを防ぐ為にチノ遺跡があるのだがまさか大本が攻められプロキシはさらわれ、貯書は全て改ざんされた。
修正する前のデータが無くては復元は出来ない。
唯一できる存在がアルスだ。アカシックレコードの全てを知っている彼にしか世界を直せない」