緊急継承
今日は行ったり来たりばっかしている。
ハックには頼まれた事があるが、正直に言って非常に眠たい。
それに、アリウムの居場所は知らない。ハックも知らない。いつものように知恵の実から作り出された錠剤を口に含めば今すぐにでも居場所はわかるだろう。他にも、首にぶら下げている水晶に力を送り込めば一方的な連絡ならとることができる。
しかし、今の時間帯は寝ているだろう。無理に起こすのはしのびないので、どちらにしても明日考えることにした。
だが、寝床はどこにしようか?
少し考えると、今転移できる場所の中でひとつだけベッドに直接行ける場所があった。
自宅だ。自宅以上にくつろげる空間は存在しない。
俺は自宅に転移した。
自室に戻ってみると部屋が汚れていた。
理由はおおよそ察することができる。
ワームホールの出口がこの部屋の天井にあるシャンデリアだからだ。少なくとも今日中に60人程が穴から降りてきたから仕方がないだろう。
だけど、汚れているとはいっても、ベットだけはきれいに掃除してあった。
名前も姿も知らないが、彼らなりの配慮だろう。
細かいことを気にしていたらいつになっても眠ることができない。なので、寝た。
そして朝になった。なんだか外が騒がしい。急激に住民が増えたから仕方がないことだが、一体なにをしているのだろうか?
扉を開けるとそこにはドクターが居た。
「やあ、アルス。ここに戻ってくるのは久しぶりじゃないか」
「いつもの白衣はどうした?」
「しばらくは開発するものが無いからしまってるよ。ところで、あれは受け取ったかい?」
「これだな。確かに受け取ったが、使い方がよく分からない」
「チューニングがまだ済んでないから少し不便だろうけど調整が終わったら無意識に操作出来るようになるだろうさ。
今のアルスなら守護者の鍵を手に入れられるだろう。どうだ? 挑戦してみる気はあるかい?」
「悪いけど、用事が有るんだ。天の巫女にアリウムを会わせないといけない」
「それは知っている。だけど、なるべく早く継承しなくてはならない。遅くとも今日中には鍵を使えるようにならないといけない」
「どうしてそこまで急いでいるんだ?」
「汎用型地上武装をセンターパークでクリスタが使っただろう。そして、それが自壊した。
本来それが起こしうるたった一人の人物クリスタが使用する場合、安全装置として人工知能LINNEが組み込んである。だからクリスタが使うときだけ音声ガイダンスが流れるんだ。
けれど、クリスタの強い思い。実際には姉さんは生きているが、“人の死“それが彼女が暴走する引き金となる。アルスは知らないだろうがセンターパークでアルスが皆を置いていった後、クリスタが暴走しかかった。直前でアリウムがクリスタの記憶を数分間分削除する事で何とか暴走は押さえられた。
では、本題に入ろう。
問題点は、3つある。
1つ目は、汎用型地上武装の破片の一部が“教会の民“の手に渡った。組織名は“保守教会“発音は“保守協会“と同じだが、目的は全く異なる。
“保守協会“はアルスが倒した組織で、やり方こそは過激だが“保守教会“からこの大陸を守るためにつくられた組織だ。
対して“保守教会“は、現代では失われた“魔術“ “呪術“ “霊術“ “神術“ “陰術“ “陽術“ “奇術“ “体術“をよみがえられて世界を支配しようとする組織だ。
平行世界はいくつあるか知っているか?」
「知らん」
「正解は16だ。0~9とA~Fまである。ちなみに、この世界の名前はAだ。
この世界は元は1つの世界であった。その世界は“保守教会“による試作型念導エンジンの暴走によって分裂してしまった。大抵の念導エンジンはその世界改編の影響で破壊あるいは機能不全に陥ったが、一部の物は残り続けた。その中の試作型念導エンジンタイプエンシェントを守るのが守護者たるA・レコード家の存在目的だ。
それにアクセスするには、守護者の鍵が必要になる。だが、鍵とは言っても実体は持ち合わせていない。ある種の概念的なものだ。
それを認識するにはこの樹木の祠の扉を開ける必要がある。
だが、祠の位置は常に移動し続けていて見つけることは困難を極める」
ドクターは、ズボンのポケットから懐中時計を取り出した。
「なので、時間を止めるようと思う。
注意事項は、止められるのは1時間迄だ。それ以上は止められない。
失敗は許されないから準備はしっかりしてくれ。
準備が出来たら上の部屋まで来てくれ」
そう言ったあとドクターは樹木の螺旋階段をのぼり出した。