天の聖霊獣
皆と別れた場所にようやく戻ってくることができた。今はまだ夜であるが、何故だかとても明るかったので周りは良く見えた。
だが、そこの光景は以前見たものとは大きく異なっていた。巨大な鳥の亡骸がそこにあったのだ。
病的なものではない。まるで何者かに殺されたかのようであった。それも数分前の出来事のようであった。こんな化け物を屠ることのできる人間なんぞ存在するのか?
唖然していると、フリルが俺の肩を叩いた。
「あれ~何だか匂うね~。何の匂いだろうね~」
「そりゃ死臭じゃないか? 目の前にあんなものがあるんだから」
「そうじゃなくて~誰か~居るみたいだよ」
まさかこんな時間迄俺が来るのを待っているはずはないが、改めて周囲を見渡してみる。
光源をよく見てみるとそれは“統括者の業“であった。形は以前とは異なり、まるで巨人のような見た目になっている。これがある以上、ハックがここにいるはずだ。だが姿は見えない。
「おーいハックどこにいるんだ」
呼び掛けると鳥の死骸の腹が蠢きはじめた。
それと同時にプスリプスリと何かを差す音が聞こえた。それからものの数秒後、プシューと血が吹き出すと共に腹部から人影が見えた。
「アルス、大分戻ってくるのが遅かったな」
その姿は予想の通りハックであった。
全身は血を浴びて真っ赤に染まり、片手にナイフを持っている様は、まるで殺人鬼のような狂気を醸し出していた。
そこに1人の少女が駆けつけた。
「君、無事か? 怪我無きか?」
「怪我こそはしてないが、流石に服がベタついて気持ち悪い。何か拭くもの持ってないか?」
「私、これしか持ってない」
少女はハックにタオルを渡した。
その光景はそことなく尊く感じたが、これだけは言いたかった。
「え、お前誰?」
「いや、俺も知らん。お前は誰なんだ?」
「私、名、イスカ・ヘブン。鳥、カロス・ヘブン。天の聖霊獣」
笛を吹くと瞬時に死体は大地に取り込まれた。
「彼、死んだ。明日甦る。こち、来て」
ハックは内容を理解出来たが、俺とフロルにはちんぷんかんぷんであった。
詳しくは、イスカと名乗る少女が教えてくれるようなので着いていく事にした。