霊体変幻
飛雄が何をしたのか分からなかった。
だけれど、再度デバイスを操作すると俺の周囲の景色がだんだんと白くなっていった。
いや、違う。俺が別の場所にいるのだ。
空間の狭間は暗黒で埋め尽くされていたが、ここには暖かさがあった。
ここには、俺しかいないはず。それなのに、とても揺りかごで寝ている赤子を見守る母親の愛に包まれているかのような気持ちであった。
それは、とてもいとおしく、けれども儚く時が過ぎる度に失われていった。
いつの間にか目的地に着いたようだ。所詮は遺跡の為に灯りは存在せず、何も見えない。
「そういえばまだ使ったことのない術があったな。ブレイズショット」
ポーチからfirst libraryを取り出して唱えた
これで灯りがわりになると思っていたが重大な問題点があった。
「あ゛っ゛づ!!!」
俺は後悔した。炎を出したのは良いが、直ぐ先に壁があり、自分にへと跳ね返って来て火だるまになってしまったのだ。
即座に魔導書を遠くに投げてそれだけは炎上を間逃れたが術が使えなくなった。
「パージ 、アルカミクスチャー。炎を消してくれ」
「かしこまりマスター」
唯一残された体内に宿る聖霊獣を呼び出した。
実質的に一心同体な彼は即座に口から水を噴出させて炎は消された。
「そこにいるのはだれ~」
まるで寝起きのアクビのような声がしたので振り替えるとランタンを持った少女がそこにいた。
「俺だ。アルスだ。どれにしてもよく俺が来たことが分かったなフロル」
「それはねえ~。力を感じたんだよ~。」
「力?」
「うん。とても大きな力を感じたよ~。聖霊獣に匹敵するぐらいにね~」
「匹敵も何も、その聖霊獣ならここに居るのだが」
本来アルカミクスチャーは、水の体を持っている。しかし、MPその物と一緒に急いで呼び出した。その上で力を使わせた為に現在行動不能状態となっている。
魔導書を拾い、水を与えることで復活した。
「あれ、アルカミクスチャーそっくりだね触ってもいい?」
「構わんよ」
フロルがアルカミクスチャーに触れるとやはりあれが起きた。
「こ‥‥これは‥‥すばらすぃー。
この凛々しい顔つきに、清らかでかつ美しさに満ち溢れたこの尾びれ。
あ~たまらないねー。
これだけでご飯10杯は軽く食べれちゃうね!
ねえねえ、この子の事教えてよ」
フロルは興奮しながら、俺から話を聞き出した。
「へーアルカミクスチャーの分霊体なんだ。それで、名前はあるのかな? かな?」
「いや、まだない」
「ダメだねーそういうの。一度分かれた存在は、そのオリジナルとは別の存在なんよ。
私とガーデ。そして、ナチュルハードクレイ。元は同じ存在であった。でも、今は違う。みんな自我を持っているよ。
世界に一人の唯一無二の存在。
だから、名前はとても大切なんよ」
「知っていたのか?」
「ついさっきバイブルから教えてもらったばかりだけど、自然と受け入れられたんよ」
俺も元のアルスとは別人である。アルス・A・レコード。表記こそ同じであれど、正式な読みは異なる。
「名前か、難しいな」
「名前をつけることが大切で名前自体は余程変なものじゃない限り受け入れてもらえるはずよ」
アルカミクスチャーという名前自体がオリジナルの科学者であるアルカリ・ミックスから取られたものだ。
「決めた。今日から君の名前は“ルカ“だ」
聖霊獣の頭を撫でながら俺は子供に教えるかのように伝えた。
「我の名はルカと申すか。悪くない。海洋生物の名に似ているところが特にいい」
「いや、そんな意図は無いのだが‥‥。イルカの事が好きなのか?」
「ああ、我の夢はイルカになる事であるぞよ。世界で2番めに頭の良い動物と言われているからな」
聖霊獣の身体の形状は、契約者のイメージによって変化する。このルカの姿はアルカミクスチャーのコピーである為、同一の姿しているが彼がそれを望むなら叶えてあげよう。
「理想を抱きし神聖なる聖霊の意志よ。我が新たなる姿与えられん。見届けよ新たなる姿へと至る瞬間を」
「え、私に言ってんの? いいね~。凄くいい。まさに歓喜の瞬間なんよ」
ルカの肉体が解けていく。形状を失い物質とかす。
そこに出来た大きな水たまりに波紋が伝わる。
そして間欠泉のように勢いよく吹き出した。
スラリと緩やかな曲線をもつイルカのような生き物がそこに現れた。
「ウッヒョー。つぶらな瞳の愛くるしい見た目になんよ。これがイルカなんの?」
「実物を見たことないから正確には俺がイルカだと思いこんでいる姿にすぎない」
「そうか、昔は保護されすぎてこの大陸付近にもいっぱいいたのだがいないのか。イメージだけの再現として考えればまあまあ許容範囲だな。褒めて使わす。今更だが、ナチュルハードクレイは何処にいる?
分霊元のオリジンのバディだから一度会っておきたい」
「ナチュルハードクレイは今はバイブルさんと会話中なんよ。案内すんよ」