友を得て猶ぞうれしき桜花
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合戦が終わると、兵士たちは領地まで、地道にのたのたと歩いて帰る。
俺はプレイヤの特権「転移」で、一足先に戻った。
急ぎ足で病院に三毛村さんを見舞に行くと、ぐったりとベッドに寝そべっていた。
大将の身代わりで致命傷。
他の働きもあわせ、今回の殊勲である事は間違いない。
「三毛村さん、無事で良かったな」
医者に聞いたところ、数日中に退院できるらしい。
三毛村さんは、寝そべったままこちらに振り向く。
「お館、胸ポケットのそれが無ければ即死だった~」
そう言って、ベッドの横にあるサイドテーブルを指さす。
(胸ポケット?)
突っ込みたい気持ちを抑えつつサイドテーブルを見ると、真っ二つになった煮干しがあった。
干からびた小魚のうつろな目が天井を見ている。
「やはり、カルシウムは大事だぞぉ」
そう言いつつ、何処からか牛乳が入った皿を取りだして舐めはじめた。
怪我を負うと、能力値が低下する。
致命傷だと、1割になってしまう。
三毛村さんには、もう少し入院が必要そうだ と思いつつ病室を後にした。
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毛利と織田家との間で、停戦が締結された。
そのための人質となったのは「謀神」毛利元就。
孫である吉川広家を連れて、近江のネオ安土城へと向かう途中、彼は道筋である姫路城に立ち寄った。
道中は羽柴秀長が全てを取り仕切り、賓客を遇するように手厚く扱っているそうだ。
秀吉は、こういう客を迎える振る舞いが上手い。
丁重に毛利元就を迎え、自らが給仕をしたり忙しく立ち振る舞っているそうだ。
毛利元就本人の意向とのことで、俺たちの連合員5名は、全員姫路城に呼ばれた。
「お前が、佐久間内膳か。顔を晒して会うのは初めてだな。ワシが、毛利陸奥だ」
素顔で対面してみると、彼は髪の毛も眉毛まで真っ白な老人。
初対面で、彼に感じたのはそれだけだった。
対峙した時に感じたような、眼光の鋭さは無い。
彼の隣には、あのやんちゃ坊主の吉川広家がつき従っていた。
「や、佐久間さん。こないだ借りた馬、貰っちまっても良いですかね?うちに忘れてきちゃった」
あはは、と軽い調子で彼が笑うと、釣られて元就も苦笑いを浮かべる。
【毛利元就とコネが出来ました。 知力+5】
【吉川広家とコネが出来ました】
「貰いっぱなしでは汝らに悪い。何か、所望はあるか?」
元就の言葉に、俺たちは顔を見合わせる。
「既に高田城を頂いています。お礼に伺うのが遅くなり申し訳ありません」
「そういえば、そうだったな。
あそこは国人衆や僧侶共が煩わしく、手に余った。よくもまぁ懐かせたものよ」
彼は、透き通った笑顔でにこやかに笑う。
「あのう、もしよろしければ、兵法を教えていただけないでしょうか?」
横から恐る恐るぽえるが、申し出る。
「ワシは過去の時代の老いぼれに過ぎん。
隆景に一筆書いてやろう。奴に教わると良い」
ぽえるに向かってそう言い、にっこりと笑った。
その途端、ぽえるの表情が驚愕に染まる。
「ぷらす、ご!?」
(あぁ、コネをもらえたんだな)
その驚きの気持ちはわかる。
元値が30いくつの俺にはあまり意味は無いが、知力極のぽえるにとっては、それだけでもうれしいご褒美であろう。
そうして、いろいろな事を話し、ゆるやかな雰囲気の中で会合は終わった。
数日後。
毛利元就は、道中の山城国平安京跡地で宿泊した際、眠るように天寿を全うした。
ゲーム内では3月。桜の季節であった。
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毛利家は、長門、周防、石見、安芸、備後の5か国を安堵。
出雲、備中、伯耆が織田側に割譲された。
尼子家はそのまま出雲に配置された。
返り咲いた旧主を慕う国人衆も多く、ようやく落ち着いた中国地方にさらなる火種を起こすのを避けたかったのだろう。
尼子家自体が、なんのかんのと織田家と良好な関係を作っていたことも良かったらしい。
その代わり、尼子が持っていた因幡はボッシュートされた。
宇喜多家には備中(20万石)が追加、うちの連合は上月城と引き換えに伯耆(10万石)が追加された。
上月城は、今回の合戦で秀吉を守って大活躍した連合「千成瓢箪」に引き渡される。
そして、怪我から回復した吉川元春が代わりに人質としてネオ安土城に向かった。
後に吉川広家に聞いた話だと、元春と隆景の間に涙無しでは語れないような戦国人間愛ドラマがあったそうだ。
毛利家の天下統一への夢が終わったことで、毛利家を慕っていたプレイヤ達は「最後まで見届けたい」とこのサーバに残るものと、「やはり毛利家に天下を」とサーバ移動をするものに分かれた。
『松下村塾』の坂田と杉村はこのサーバに残って、最後まで見届けるそうだ。
こうして、長きに渡った織田家と毛利家の中国戦線は終了した。




