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合戦の終わり

スキルによって、拘束されている時間は、あと5分以上ある。

『逃げ足』スキルは、目前に迫った危険を示している。

そんな俺の思いも知らず、馬は走っていく。

万事休す。


そう思って眼をつぶり、諦めて罠にかかるのを待つ。


……

しばらく走ると、突然、馬が止まった。

ゆっくりと眼を開くと、誰かが馬の前に仁王立ちになって驚くべき虜力で手綱を握っていた。



「佐久間殿、危ないぞ。そこにデカイ花火がある」

二本の刀を落とし差しにした、戦場でも着ながしスタイルを貫く、プレイヤ最強の剣士が居た。

(ほ、ほえもんさん!)

声を出したいが、スキルの影響で声がでない。

「ん?どうした」

ほえもんさんが、きょとんとした表情で俺を見つめる。

そして、手をぽんと叩いた。

「何か、罠にでもかかったな」

そう言って、ステータス画面で何か弄ると、手刀を俺の鳩尾に突きいれた。

「ぐぉう……」

鈍い痛みが体を走る。

「『気付け』だ。効いただろ?」

ほえもんさんが言うとおり、行動不能のカウントダウンの残量がごっそりと減って残りは30秒程度。

「ん~まだダメか?」

(大丈夫です、ちょっと待てば治る~)

10カウントを残した状態で、再度、容赦の無い手刀が突き刺さった。

今度は、痛みで声がでない。

幸い、「攻撃」では無いのでダメージは発生しないが、とにかく痛い。


ほえもんさんから解放されたのは、さらに2回の手刀を喰らってからだった。


「というわけで、『惑乱』でやられたんですよ」

「そりゃ、災難だったな。でも、上位スキルをひとつ潰せたんだから金星じゃないか」

ほえもんさんに説明する傍ら、攻略サイトで『惑乱』を調べる。

取得条件は知力120超え。さらに、朝廷への功績や合戦参加回数等、桁違いの難易度が必要であるようだ。

再使用時間はゲーム内で一週間。もうこの戦場で使われる事は無いだろう。

さらに、このスキルを使用した後、10分間は他のスキルを使用する事が出来ない。

まさに、両刃の剣のスキルである。

(そういえば、元就本人は突撃してくる中に居なかったな……)

「罠」や「策」は、正確には『兵法』スキルの成果であるので、あのときの毛利元就は無防備であったわけだ。

さすがに、運営もゲームバランスは見ているらしい。


こちらに追いついてきた敵兵や敵将は、ほえもんさんが一蹴してくれた。

その間に、信康が兵士を纏め、撤収してきた。

「ご無事で何よりです、お館」

岩斎が駈け寄ってくる。配下はかなり蹴散らされていたが、形はまだ整っている。

大将の逃げ出した退却戦を凌ぎ切った信康の手腕は、かなり使える。


「で、これからどうする?」

「そうですねぇ……」

現在の戦力は、一騎当千のほえもんさんと、岩斎、信康、2000超の槍兵。

三毛村さんは、重傷で領地に送還されており、士気は半減。

万全の体制とは言い難い。

何をすれば、謀神の裏をかけるか。必死になって頭を働かせる。

だが、妙案は出てこない。

前に進もうが後ろに退こうが、罠にはまるような気がしてならない。

彼にとって、どうなるのが一番嫌がらせになるだろうか……。

そう悩んでいると、一つの結論に達した。



「よし。見渡しのいいところで、防御陣を敷こう。

今回の合戦、あとは傍観だ!」

信康と岩斎が勢いよく反論してくる。ほえもんさんはにやにやと笑い始めた。

「また先ほどのような事があれば、全軍が崩壊します。

ここはもっと下がった方が良いのでは?」と信康。

「敵の謀略を破った今こそ、追撃する好機!」と岩斎。

二人とも、納得できていない表情をしている。


「さらに後方に行くと、孤軍になってしまう。

もし、温存された奇襲部隊が居たらひとたまりも無い」

俺の反論に、信康が口ごもる。

「前線に進んでも、『混乱』している上に、軍師を欠いた俺たちが前線に出たところで、出来る事はたかが知れている。

ここは、他の部隊に任せてしまおう。

ほえもんさんはどうしますか?」

「俺は、つきあうよ。佐久間殿の指揮ぶりを見に来ただけだしさ」

いつもながら、ほえもんさんは頼もしい。



俺たちが、見晴らしの良いところで陣形を組み、逆茂木(っぽい何か)を作っていると、

続々と配下部隊が集まってきた。

第一隊(槍兵突撃部隊)の相馬姉弟、第二隊(鉄砲部隊)の孫一と六郎。

第三隊(騎馬部隊)の元太は佐野と共に突撃をしているらしい。


さすがにこれだけ集まってくると、兵数は数千に達する。

見晴らし優先の丘が、一大拠点となってしまい、それを目がけて敵も集まってきた。

だが、守りやすい場所で仮設ではあるが陣地を構築しているこちらに分がある。

敵の何度目かの突撃を鉄砲斉射で退けた時、相馬と孫一が走り寄ってきた。

「大将!そろそろ弾が切れるぞ」

「こちらも武具が限界です」


戦を傍観していくつもりだったが、主戦場から逸れた部隊の吹き溜まりになり連戦し続けている。

ゲーム内時間で既に一日が過ぎている。

その間、戦い続けたせいで、既に部隊は限界を迎えつつある。

そのとき、合戦終了の合図が双方の本陣から鳴り響いた。




戦闘を長く続けると体力が消耗する。

武具も破損し、使い物にならなくなる。

プレイヤや武将は、スタミナや武具アイテムの耐久力として表現されるが、一般兵は「士気」という値で表示される。

大合戦は、双方とも総大将を落とせないまま、士気の減少によって戦闘続行が不可能になった。

羽柴家は勝利はしたが攻めきる事が出来ず、毛利家はまだ余力を残している。


毛利側から、安国寺恵瓊が現れ、秀吉・官兵衛との間に会談が持たれたことで、合戦は終了した。



中国地方の覇権をかけた決戦は、羽柴方の勝利で終わった。

吉川元春は、佐久間家の捕虜となり領地に護送された。

彼は致命傷を負っていたが「病院」の効果は捕虜に対しても適用される。

不幸中の幸いだが、彼は「病院」の近代医療によって一命を取り留めた。


決戦では織田家(羽柴方)が勝利したものの、毛利方もまだまだ余力を残している。

政治的外交的駆け引きが行われた結果、織田毛利間の停戦が成りたった。

毛利側が差し出した人質は、毛利元就本人。

内部ではいろいろ揉めたようだが、元就本人の英断もあったそうだ。



次回の戦後処理で中国編は終わりです。

2,3日中には・・・

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