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神に挑む愚かさ

毛利領内の砦や城は、嵐の前のように動きがなかった。

彼らは堅く城門を閉じていた。

我々は襲撃されることもなく備後に入り、無事に本隊と合流した。

リアルでは、三次盆地のあたりになる。

合流早々、秀吉と秀長の間では長い間密談が持たれた。

その後、主だった武将やプレイヤ連合代表が集められ、軍議が始まる。


今回の決戦に向け、秀吉は宇喜多直家に加え『千成瓢箪』『豊国』といった譜代のような友好プレイヤ連合を連れてきており、兵力の総数は10万を軽く超える。

対する毛利方でも多くのプレイヤが参加し、報告された情報では相当数の大軍が臨戦対戦にあるそうだ。

この場は、中国地方の覇者を決める「決戦」として相応しい場となった。

リアルにおける「三次盆地」には、これだけの兵数は入らない。

しかし、そこはゲーム世界のご都合主義。

いくつかの大合戦候補場所は、謎のエリア移動方式によって、大規模な戦闘が行えるよう、十分な広さに拡張されている。


秀吉の派手な本陣に集合がかかる。

道中で、俺を見かけた宇喜多くんが寄ってきた。

「秀吉に嵌められて、先鋒になったって?人気者はつらいな」

宇喜多くんの解説によると、いつのまにか、秀吉の周辺で宇喜多佐久間が二大危険人物であるらしい。

そのため、俺に口火を切らせて毛利方に付けないようにした という噂が飛び交っているそうだ。

「俺たちは、同じ三文字姓だからな」

文字数なんて関係は無いだろうと思いつつ、三文字大名をネットで検索してみると、「宇喜多」の他には、「小早川」(秀秋やらかし消滅)「二本松」(伊達輝宗「俺ごと撃て!」事件)など、ろくなのが居ない。

悩み始めた俺を置いて、宇喜多直家はさっさと陣幕の中に入ってしまった。



皆が集まると、軍師である黒田官兵衛がさっそく説明を始めた。

ここに居るのは、レベル2以上のプレイヤ連合代表者と有力な武将のみ。

「我々の侵攻に対し、毛利方が城に籠らずに野戦に出てきました」

官兵衛の口調には、俺たちの電撃戦の失敗すら見込んでいたような落ち着いた響きがある。

「今回の作戦は、殿の『中国大返し』を主軸とします」

官兵衛はそう口火を切って、戦術を話し始めた。



官兵衛の説明によると、毛利方は鶴翼の陣を得意としている。

右翼の吉川、左翼の小早川。

中央前衛に毛利輝元がおり、後方の本陣に元就が位置し万全の構えを取る。

これに対抗して、羽柴側は横列陣を敷くことが決定された。

右翼に宇喜多、左翼を我々が任され、中央には秀吉と秀長に加えプレイヤ連合が集い、分厚い陣形を敷く。


緒戦ではそのまま進軍して双方が激突する。

兵数では、羽柴方15万に対して毛利方12万。

まずは、数の利をもって敵を叩く。

対して、毛利方は過去の例から見て、攻撃力&防御力強化スキル『三矢訓』を使用することが予想できる。

毛利の諸将が勢ぞろいしたこの場では、3倍近い効果が見込まれる。

それに対抗して秀吉が移動力上昇スキルの『中国大返し』を発動、逃走に見せかけて中央部隊を後退させる。

毛利方の前線の追撃により、本陣と前線に距離ができたところで、背後に潜んだ蜂須賀配下の奇襲部隊が本陣を急襲する。

『三矢訓』はスキル発動者が戦闘不能になれば、効果は消える。

そして、士気が大幅に下がるというデメリットを持つ。

毛利元就を落とし、あとはそのまま押し切ろうという策戦である。


「さすがは官兵衛、あっぱれ必勝の策じゃ」

秀吉の褒賞を受けて、官兵衛は向き直って一礼する。

「各々方は、『中国大返し』からが本番である。序盤でのスキル発動は控えられたい」

そう官兵衛が指示を出して、軍議は終わった。

控えていた祐筆から、兵士の「配置図」が渡される。

ゲームでは、この配置図に沿って兵配置が自動でできる。


軍議終了後、後ろから肩を叩いて呼び止められた。

「佐久間殿、今回は残念であったのう」

そこには、官兵衛を連れた秀吉がにこにこしていた。

その声色には、官兵衛が言っていたような悲痛な響きは聞こえない。

「だが、おかげで毛利元就を釣りだすことができた。あっぱれじゃ」

何の屈託もなく笑う顔を見ていると、敵意が消えていくような気がする。

「引き続き、中国地方の覇権をかけた大大決戦じゃ。気張ってくれよう」

いつもの大声で背中をばしばしを叩かれた。


「気楽なもんだな~」

ため息をつきながら、自陣に戻ると『尼子復興協会』の面々が来ていた。

尼子勢は、あのあと無事に月山富田城を確保した。

彼らは、その足で急行し戦果を知らせに来てくれた。

さすがに、兵士たちは連れて来ると移動速度が鈍るので、身一つである。

「無事、本領奪還出来た。お礼にそっちを助けにきたぞ~」

「ありがとうございます」

身一つと言っても、武力極や知力極の参戦は非常にありがたい。



やがて開戦時刻となり、各部隊がゆっくりと前進を始めた。

歩調を合わせたかのように、毛利方も動き始め、双方が前進していく。


先鋒は佐野に任せて俺はのんびり前進。

ある程度まで彼我の距離が近づくと弓合戦が始まる。

竹造りの盾をかざしたり、厚めの布を広げて敵方から姿を隠しながら近づいていく。

先頭集団の距離が近づき、衝突が始まると思われた瞬間。

羽柴方の全軍にスキルエフェクトの黒い粒が舞った。

その色合いから見て、何らかの敵対的スキルと判断できる。



スキルの効果範囲には、戦場全体、複数部隊、1部隊とその周辺、1部隊、個人の5段階がある。

戦場全体を効果範囲にするスキルは、大名固有スキルの『三矢訓』や『竜輝』等、非常に珍しい。

ちなみに、毛利の『三矢訓』は攻撃増加の赤と防御増加の青が混ざった、紫のエフェクトである。

脳裏で、毛利に与しそうな大名家を思い浮かべる。

真っ先に宇喜多が思い浮かんだが、彼の固有スキル『悪人』は戦場全体タイプで無いので除外する。

悩んでいると、ぽえるからコールがかかってきた。

「士気減少と混乱、きっと『戦場掌握』です!

まさか、毛利元就が持っていたなんて……」

ぽえるが、コールの向こう側で絶叫する。


『戦場掌握』は、データ解析によって判明した特殊スキル。

将軍義輝の『剣聖』、沢彦宗恩の『禅心』と同じカテゴリにあるため、特別なAI武将限定というところまでは解っていたが、過去に一度も発動事例が無く、伝説のスキルと化していた。

その効果は、戦場全体への『威圧』(士気低下)と『混乱』(計略への抵抗力減少)。

慌ててステータス画面を広げると、90近くあった士気が60台にまで落ち、混乱のステータスが付いていた。

俺と佐野の部隊は先の月山富田城の戦闘で温存していたので、士気には余裕がある。

だが、連戦になっているぽえると御神楽の部隊が危ない。


「ぽえる、そっちの士気は?」

「50を切りました。兵士の逃亡が始まってます!」

官兵衛の「温存」指示が頭を横切ったが、『鼓舞』の上位スキル『激励』を発動。

左翼全体に範囲を広げ、部隊の崩壊を防ぎとめた。

中央の『千成瓢箪』のリーダーにコールをかけると、元々士気が最大値なので問題無いそうだ。

右翼の宇喜多陣も凌ぎ切ったらしく、作戦はこのまま続行されるとのこと。



「お館ぁ、相手が武断派の吉川元春で助かったぞぉ」

毛利勢からの計略に備え、目を光らせていた三毛村さんが一息つく。

知力の高い武将は、相手の計略効果を軽減させるスキルを持っているので、三毛村さんは追撃に備え、戦場を警戒していた。

吉川元春は知力は高い方だが、幸い、性格的に計略よりも肉弾戦を好む。

前方では、佐野の部隊と吉川元春の先鋒が激突していたが、罠の発動音は聞こえないので普通に撃ち合っているらしい。

「宇喜多の側は相手が小早川隆景だから、大変そうだな」

「うんうん。あっち側で無くて良かったぞぉ」


このゲームでは、計略は『兵法:OO』のスキルによって得られる「罠」と「策」を指す。

「罠」は手持ちの材料から魔法のように罠を作り出す。

土属性の落とし穴、火属性の火罠などがあり、ひっかかった敵に物理/士気ダメージやステータス異常を与える。

「策」は、自部隊の能力を上昇させたり、敵方の能力を下げたりする。

MMORPGでいうところの、バフ/デバフにあたる。

何れも知力に依存して効果が拡大し、ぶっちゃけ「魔法職」だ。


だが、じつのところ「罠」は、罠を設置するだけ。

地面にみえみえの大穴が空いていても、普通は誰もかからない。

火罠も、見え見えに「爆弾」が転がっているだけ。

そんなもんに引っかかるのは、前後左右を壁に挟まれた場合だけだろう。

そのため、『隠匿』などのスキルと併用して巧妙に隠す必要がある。

だが、混乱のステータス下にある兵士はみえみえの罠でもぽろぽろひっかかる。

計略好みの小早川と対峙している宇喜多側では、『罠』と『罠破壊』の応酬になっているだろう。

まぁ、計略は直家の得意分野であるはずだからもたせるだろう。


一方、中央を率いるは毛利輝元。

言っちゃ悪いが、計略を支える知力はお察しの通り。

対する秀吉は謀神元就と比べれば見劣るが、知力は一級品。

軍師として支える黒田官兵衛の存在もあって、「混乱」のハンデがあったところで輝元相手にはびくともしない。


「元就本人が前線に出てこない限り、中央は大丈夫だろ……う?」

嫌な予感が首筋を掠める。

『危険感知』スキルのカーソルが発動し、遙か遠くの難敵を指した。

次の瞬間、中央の方から大規模な爆発音が聞こえてくる。

俺は慌てて『千成瓢箪』のリーダーにコールする。


「何があった!?」

「毛利元就や!やっこさん、真正面に出てきはった!」

コールの向こう側からは、怒号と悲鳴が聞える。

「大丈夫か?」

「はん。東京モンと違って、こっちは朝晩大阪城拝んでるやでぇ。

アレ拵えた太閤はんに、指一本触れさせんわ!」

彼の言葉にあわせて、連合員達の鬨の声が聞える。

突っ込みどころ満載だが、プレイヤの士気は高いようだ。

「そっちは頼んだ」

「おぅ。自分も左翼、抜かれんな!」



コールを切ると、俺は左翼に突撃命令を下す。

目標は、吉川吉春の捕捉。

「全軍、突撃せよ!目指すは吉川元春ただひとり!

その姿を捕捉せよ。ただし、まだ手は出すな」

そして、本陣を前線へと移動させた。


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