決断の時
KIYOSU会議から、ゲーム内時間で3か月が経過した。
高田城から領地を見渡しながら、俺は笑いが止まらない。
眼下には、たわわに実をつけた田畑が広がる。
今年の美作国は豊作のさらに上、「大豊作」が発生。
通常の3倍の実入りがあった。
通常の田畑の出来高を100とすると、最上質の田畑は200の出来高がある。
農業系上級支援施設「灌漑池」の効果で、出来高は2倍になる。
風水効果や美作の「お国柄」(農作物ボーナス)に加え、御神楽くんの『播稙』スキルボーナスを合わせてさらに倍。
そこに、大豊作3倍がついたので施設一つ当たり2400にのぼる出来高があった。
税率設定は「五公五民」なので、1200の年貢が入ってくる。
本城城下町の100マスを超える農業系施設群から、軽く10万の兵糧を突破した。
連合全体では、数十万に達する食糧が確保されている。
ゲーム上、兵士一人を通年で養うのに、1の食糧が必要となる。
さらに、軍事行動中は兵士1人につき100日で1の食糧を消費する。
ちなみに、武将クラスは俸給として、銭と食糧の双方を消費する。
「長居」は、食糧を通年で1000消費するらしい。
我々は、10万の軍勢を養えるだけの蓄えを手に入れた。
あえて言おう。
「我が連合は、10年は戦える!」と。
収穫が終わって、各地で農閑期に入りつつあるので徴兵の真っ盛り。
その兵糧のため、我が国の激安米市場には各地からの商人が集まっている。
御神楽の市場介入で買い上げはしたものの、だぶついていることに変わりは無い。
そして、うちから提供した膨大な糧食を背景に、秀吉は大々的な徴兵と訓練を行っていた。
攻め込む対象は摂津の有岡城。有岡城はいまだ健在。
ここは、ゲーム世界なので、城を包囲されるといくつかのコマンドが使用できなくなるが、城下町の施設を破壊されない限り、謎のルートで税収が入ってくる。
ちゃんと税金や年貢が納められるので、有岡城は季節が移り変わってもまだ陥落していない。
周囲の出城は、高山一族の離反もあって大半が陥落している。
だが、金でかき集めた雑賀や根来のような傭兵衆の活躍に加え、攻め手から内通(というか、サボタージュ)する武将も現れている。
その辺りは予想通りであり、秀吉と官兵衛は農閑期に徴兵で兵士を大々的に増やし、一気に攻めたてようとしてる。
その徴兵された農民兵で姫路城周辺がざわついている中、黒田官兵衛から急な呼び出しがあった。
場所は姫路城ではなく、彼の居城の国府山城。
ぽえるとともに急いで駆け付けると、案内された大広間では黒田官兵衛と蜂須賀正勝が顔を青ざめさせ、並んで座っている。
そして、いつになく沈痛な顔で黒田官兵衛が話し始めた。
■黒田官兵衛の回想■
その日、秀吉は官兵衛を連れて、お市さまの所に摂津戦線の報告に向かった。
戦線はひと月ばかり膠着状態にあり、芳しい報告ができない。
だが、これから農閑期に入るので兵士を大々的に募り、有岡城に総攻撃をかけることを伝えた。
その秀吉の報告を受けて、お市さまが話し出す。
「では、後背の毛利に備えが必要になるでしょう。
私のほうで毛利調略を進めておきました」
お市さまが毛利の安国寺と行った織田家、毛利家間の停戦協定。
代償として毛利側が要求してきた人質は、中国地方攻略司令官である秀吉の嫡子、猿千代。
絶句する秀吉に代わり、官兵衛が異見を挙げる。
「宇喜多を始め、優秀な与力衆が背後を固めております。
何れ雌雄を決すべき相手ゆえ、停戦協定は不要かと存じます」
官兵衛の言を受け、お市さまは目を細める。
「では、その優秀な与力も摂津攻略に参加させなさいな」
その言葉に、秀吉が反応する。
「謹んで……承りました」
「では、妻子と別れをすませてらっしゃい。下がっていいわ」
ネオ安土城の廊下を歩きながら、秀吉がぽつりと漏らす。
「官兵衛、すまんがお主が寧々と猿千代を安芸に連れて行ってくれ。
ワシには、彼らに会わせる顔が無い……」
そう言い残して、秀吉は官兵衛と別れ、姫路城へと駆け戻った。
■
そして、官兵衛は蜂須賀正勝と共に、寧々と猿千代と共に、山陽道を下って居城に着いた。
最近、毛利側の動きがやけに静かだったのは、その交渉が為されていたからか。
「佐久間殿は、どうお考えですか?」
「う~ん、織田家の方針が毛利との停戦なら、従うしか無いのかな」
俺の感想を聞いた官兵衛の目が怪しく光る。
「楽市楽座により、大規模な徴兵を行っていることは既に掴んでおります」
楽市楽座で流入した人口を積極的に兵士にしているのは確かだ。
「播磨は私の地元でもありますゆえ、国人衆と付き合いがあります。
宇喜多、尼子と組んで、一大勢力となるというのはどうでしょう?
あなたが、美作、播磨、備前、因幡の太守です。
毛利元就が亡くなれば、両川返しにかなうものはありません」
官兵衛の眼の光が徐々に強くなってくる。
「それは無理だろ。北を押さえている秀長さんが動けば内部分裂するよ」
現在、秀吉の弟の秀長が若狭や丹後からバックアップをしている。
そのとたん、隣室との境のふすまがからりと開く。
そこに居たのは当の羽柴秀長。
今まで、言葉を交わした事は無いが、軍議などで見かけた事はある。
秀吉に似ず、ふくよかな丸顔。真面目そうな目をしている。
「では、拙者が加担すれば、のっていただけますかな?」
誠実そうな声で、恐ろしい事を勧めてくる。
「これで、先の4国に加えて若狭と丹後。西日本の覇者とも呼べる存在。
織田家そのものと事を構える事も可能ですよ」
羽柴秀長と黒田官兵衛が、二人で俺の回答を待っている。
返答に窮して窓際に行くと、城の庭で遊んでいる寧々さんと猿千代が居た。
なんのかんので、彼らとは長屋時代からの長い付き合いである。
「兄の配下の中にも、兄より義姉に忠義を持っている者たちもおります。
義姉はいつも台所に招き上げて、握り飯を振舞っていましたからね……」
秀長がダメ押しをする。
いろいろと思い悩む事も多い。
だが、俺は覚悟を決める。
「よし、わかった。」
■ ■一方その頃
毛利元就が、医者の恰好をした男に脈を取らせている。
だが、愛用の銀キセルは手放さず、ぷかぷかと煙を吐いている。
「ワシはどこまで生きられるかの?間よ」
医者は、縫い目の残る顔をしかめながら、毛利元就を直視する。
「長生きしたいのなら、まず煙草をお止めになることからですな。
そうでないと、10日ともちませんぞ」
「これは、やめられんな。だが」
そう言うと、元就は銀キセルを持ち直すと、両手で強く握りしめる。
かつて戦場を駆け抜けた両腕の筋肉が盛り上がり、銀のキセルが真っ二つに折れた。
「煙草より、女より、戦を行っている方が面白い」
「ま、永くは無いことは確かです。死ぬ準備をされるとよろしいでしょう」
「最後に、派手な戦をしたいのう」




