KIYOSU会議 終宴
■ ■会議終了後
お市を中心に、織田家宿老達が居並ぶ。
「お市様、宜しかったのですか?あれでは荒木は謀反しますぞ?」
丹羽長秀がお市に問いかける。
「今や、摂津は新参の外様に渡せる地ではありません。
荒木に時間を与えると、さらに支配体制を強固にしてしまうでしょう」
「北に上杉、東に武田、西に毛利の難敵を抱え、動かせる兵は多く無いですぞ」
柴田勝家が脳筋に似合わぬ戦略眼を披露する。
「ふふふ、なので、あのような手を打ったのです。
荒木と組むことは、荒木のセクハラを認めることになります。
名聞を気にする輩は、彼と一線を画すことでしょう」
「ま、まさか、全ては切り崩し工作……」
秀吉が驚愕の表情を浮かべる。
肯定するように口元を釣り上げ、お市は命令を下す。
「五郎作、高山一族に使いを。
荒木から離れないのであれば、『聖母に年齢の事が言えますか?』と脅しなさい」
「ははっ」
「秀吉は中川を所領安堵で釣りなさい。決戦の際に内通するようにと」
「承りました」
「五郎作、セクハラは是か非か、本願寺坊主の公式見解を求めてきなさい」
「直ちに使いを出します」
「これから、大名小名、豪族が争って有岡城を蚕食することでしょう。
荒木が疲弊したところで、一気に落としなさい」
「ですが、お市様。万一どこぞの豪族が荒木を倒したら?」
「しばらくの間、摂津を貸し与えるのも良いでしょう。
でも、周囲に敵の居ない摂津の事。有岡城のような総構えの城は不要よねぇ?」
お市は、得物を狙う鷹のように鋭く眼を細める。
「で、では、城を補修したら?」
池田が恐る恐るお市に尋ねる。
「謀反の疑いがあるわね」
「城を壊れたままにしたら?」
「武士というものは、常時、危急に備えるのが当然では無いかしら?怠惰よ。
亡き兄上は、怠惰な者を許しはしなかったわ」
戦乱で破壊された有岡城を修復してもアウト、修復しなくてもアウト。
このタチの悪い難癖に、歴戦の猛者である宿老達が気押されて生唾を飲み込む。
「あなたたちも気をつけることね」
そう言い残して、お市様はにこやかに去って行った。
残されたのは織田家宿老達。
「上様以上にヤヴァいな……」
池田が冷や汗をぬぐいながら独り言を言う。
「さ、さすがだ……」
柴田勝家の頬が赤く上気している。
「じつは、小耳に挟んだ話なのだが」
丹羽が、他の宿老たちの反応を見渡してから口を開く。
「ぽえむの公開、あれな、お市様の差し金らしいぞ」
「えげつない。上様よりも完全にドSだぞ」
秀吉が困った顔をする。
「おちおちぽえむも書けないのう。
今頃、お市さまの差し金で忍びが動いているかもしれんな。ねぇ、親父殿」
秀吉は、勝家に話題を振った。
「イタタ。ワシは急な腹痛で頭が痛くなった。
先に部屋に戻らせてもらう!」
そう言い残し、柴田勝家はあてがわれた自室に全力疾走していった。
■ ■有岡城
難波京が出来てから、摂津の国主荒木村重は、難波京の土地売買、座の権利、関所の通過料などで、入ってくる金が桁違いに増えた。
その有り余る金銭を使用し、有岡城は糧食、武器弾薬も潤沢に備えている。
さらに多数の浪人衆を雇い、強固な防備体制を整えつつあった。
「失言から始まった事である故、お市様に素直に謝られてはどうか?」
(フツー女性の年齢を話題にするか?オメーが悪いよな、馬鹿殿)
という表情をしながら、高山右近が荒木村重に直言する。
「そ、それはできん。殺される。磔にされる……。そういう目をしていた」
「上様の時のように、刀を咥えて謝罪すれば許してくれますよ(我々だけは)」
荒木一門の、荒木元清がかる~く提案する。
「ダメだダメだ。あの目は、ドSの眼だった。
そんな事をしてみろ。これ幸いと、そのまま刀を押し込まれる」
「こうなれば、摂津一国をもって一戦あるのみです。
差し違える覚悟で行けば、お市さまを倒す事はできましょうぞ」
中川清秀が重々しく語る。
「よし、雑賀衆を呼べ。本願寺と同盟を結ぶぞ。金ならある!」
純金の指輪をごてごてと付けた手を振り回しながら、荒木村重が絶叫した。
そして、メンテナンスが終わり、時が動き出す。




