KIYOSU会議 四の宴
■シーン2『遺領配分』
「で、では気を取り直して、第二の議題、領地再配分となります。
改めて、現在の情勢を見てみましょう」
日本地図が掛かれたパネルがスタジオに入ってきた。
スタジオには、宿老の席が新たに設けられ、彼らが座っている。
上座にはお市さまの姿もある。
楽しそうににこにこ笑っているが、先の荒木の件もあるので、宿老たちの笑いは少し引きつり気味だ。
「今回の事変で、宙に浮いた領地を説明いたします」
パネルに書かれた日本地図が色分けされていく。
信長・信忠親子の直轄領は、尾張、美濃、山城、近江の一部。
明智光秀領地が、丹波、若狭、近江の一部。
「参考として、宿老の方々の影響範囲は、以下のようになっております」
滝川一益:飛騨、信濃と甲斐の一部。
柴田勝家:越前、加賀、越中。
丹羽長秀:大和、伊賀、伊勢。
羽柴秀吉:播磨、丹後、但馬。近江の一部。
池田恒興:河内の一部、淡路。
近畿、中部、中国地方が色塗りされていく。
「これらは、一部与力衆領も含まれているため、宿老方の直轄領とは限りません。
そして、摂津は荒木村重の首を持ってきた者に賞されます」
皆がパネルの地図を見ながらため息をつく。
■
「明智日向守の謀反後、大きく動かれたのはやはり筑前殿です」
前田玄以がそう言うと、秀吉が椅子の上でふんぞり返る。
パネル上では、播磨の姫路城を振り出しに、黄色く塗られた矢印が急速に東に伸びていった。
羽柴家固有スキル『中国大返し』の効果で移動速度が上がっている。
「筑前殿は驚異的な速度で東上し、摂津との国境で与力の黒田殿と分離行動をとります」
黄色い矢印が二つに分かれ、片方は北上、もう片方はさらに東へ向かう。
「黒田殿は明智日向守の領地である丹波を掌握、山城との国境を封鎖しました。
このために、明智日向守は丹波からの援軍や物資の補給が滞りました」
北上した矢印が丹波(現代でいうところの、京都、大阪、兵庫の県境あたり)で止まった。
「一方、筑前殿本人は、明智勢を追って、摂津と山城を移動します」
引き続き東進した矢印は、現代でいう京都、大阪、滋賀を行ったり来たりしている。
「結果として、明智日向守は戦うことなく姿を消しました。
そのため、筑前殿は全くの無駄足でしたが」
「はっはっは。猿知恵では所詮その程度だのう」
柴田勝家が横からちゃちゃを入れる。
「くっ」
「あれは仕方がありませぬ」
苦い顔をする秀吉。横から池田がフォローに入る。
「私は途中から明智討伐に参加しましたが、当時、情報が錯綜していました。
『信雄様が安土城を燃やした』『光秀が空に向かってぶつぶつ言っていた』等です」
「そうじゃな。『安土城の天守閣に謎の光が見えた』という話もあったのう」
丹羽長秀も横からフォローを入れる。
「話にならんな。惑わされてどうする。信雄様がやらかすのはいつもの事ではないか。
光とやらも、どうせ光秀の禿げ頭に夕陽が反射したのであろう」
ここで、前田玄以が横から話に割り込んでくる。
「柴田様は越前から南下。明智日向守が去ったのちの近江を押さえられました。
これにより、明智日向守の領地は全て占領されたことになります」
「ま、ワシがきゃつの背後を落としたことで、部隊が浮足立ったという事だのう」
髭をしごきながら、柴田勝家がふんぞり返る。
「先の話にも出てまいりましたが、池田様は筑前様と合流し、明智部隊の追撃。
丹羽様は信孝様を守護して摂津に退いた形になります」
緑と青の矢印が近畿地方にちょろりと伸びる。
「そうだ。上様亡き後、信孝様が後継者第一候補であったからな。
信孝様を守るために尽力したつもりだ」
「おほほ、でも私がなっちゃいましたけどね~」
横からお市さまの突っ込みが入り、丹羽長秀が少し涙目。
「では、お市さま遺領配分の件、ご英断をお願いします」
前田玄以にマイクを渡され、お市さまが地図に向き直る。
「じゃ、まず、イケメンの多い近江は私のものっと」
お市さまは近江に大きく丸をつける。
「え!?そ、それがしの長浜は?」
秀吉があわてて抗議する。
「アンタ何もしてないでしょ?」
「よよよ」
秀吉が泣き始めた。
「光秀討伐の第一の殊勲は、黒田官兵衛孝高とします。彼には丹波を遣わします。
第二の殊勲として柴田権六。お前には若狭ね」
「ははっ。ありがたきお言葉」
柴田権六がうれしそうに一礼をした。
「尾張は信孝、美濃は信雄ね。山城は……」
「お、お市さま。ぜひ、上様の四男の秀勝君に山城を。
それがし、平安京代官の経験もありますれば、見事に治めきって見せます!」
「平安京もうないじゃん」
「うっ……」
絶句する秀吉。
「まぁ、いいわ。上の兄2人が国もちで何も無しも可哀そうだし。
秀勝に山城。その代り」
「上様。皆まで言われずとも、解っております。荒木の首ですね!?」
「物わかりが良いわね」
二人は、後ろ暗い笑いを浮かべ始めた。




