KIYOSU会議 参の宴
■CM
青い空、白い雲。
何処までも広がる砂浜には、青く透き通る波が打ち寄せてくる。
そんな南国景色の傍らで激戦が行われていた。
鋭い眼の双剣使いと大鎚を振り回す巨漢が水竜とぶつかり合っている。
水竜はブレスを吐くが、男たちは敏捷な動きでブレスの射線を回避。
呼吸を整える水竜に向けて、トサカのような髪型をした男が火縄銃を撃つ。
その銃弾は、正確に水竜の眉間で弾けた。
水竜は衝撃で目を回し、足をもつれさせて転倒する。
一人の小男が駆け寄って手早く『火罠』をしかけた。
小男の撤収から一呼吸おいて放たれた火縄銃の射撃で罠は爆発。
至近距離からの爆風を受けた水竜は、ダメージで鱗がはがれおちる。
手なれた動きと、息の合った連携で男たちは水竜を追い詰めていく。
十数分後、哀しげな咆哮を残して水竜は地面に横たわった。
第二回公式イベント「鬼が島」の最優秀チーム『も~も~太郎』。
その戦闘風景は、どうみても違うゲームにしか思えない。
■
CMが開けると、画面はスタジオを映し出す。
「さぁ、集計が進んでいるようです」
傍らのパネルでは、各々の名前が書かれた棒グラフがどんどん伸びていく。
出だしで躓いている候補者もいるが、上位者数人がデッドヒートを繰り広げている。
「では、ここで叛乱以降の動きを彼の日記と共に追ってみましょう」
スタジオに大きなパネルボードが運び込まれた。
パネルボードには光秀の日記が書かれている。
6月2日 山城 平安京
俺は、第六天魔王を倒すつもりで挙兵したと思ったら、
気が付いたら平安京が大爆発していた。
放火とか炮烙とか、そんなチャチなもんじゃねぇ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……
6月3日 近江
やっぱり地元は良い。
疲れ切った心身を癒してくれる。
ここは、比叡山を焼いた功績で初めて手に入れた領地。
そう考えると、俺には放火が似合ってるのかもしれない。
6月4日 近江
地元は押さえた。
次は安土城に向かうことにした。
親友のほっそ~とつっち~に手紙を書いた。
彼らと一緒なら、俺はきっと天下を狙える。
6月5日 安土城
ヒャッハァァ。財宝だぁ。
安土城には金銀財宝が山のようにあった。
天守閣から下界を見ると、人がゴミのようだ。
6月6日 安土城
天守閣から南を眺めると、何故か廃墟となった平安京を思い出す。
こんなときは、ぽえむを書いてみよう。
僕は虹色の階段をのぼって、天使になりたかっただけなのに、
みんなが僕の事をいじめるんだ。
やっぱりいまの世の中はかえなきゃだめだ
KI・N・KA・N ぱわ~
6月7日 安土城
今日は、難波京から勅使が来た。
「都燃やすんじゃネェヨ、禿」と偉そうに言われたので、
「難波京も燃やすぞコラァ!」とすごんだら、帰っていった。
ほっそ~からもつっち~からも手紙の返事が無い。
6月8日 山城 平安京
ほっそ~からもつっち~からも連絡が無いので、心配になって、
平安京まで迎えに行った。
平安京は、完全に焼け跡になっていた。
センチな気分に浸っていたら、配下武将が
「お館さまにはもうついていけません!」
なんて言い出すから、SATSUGAIしちゃった。
やっぱり、俺には地獄のテロリストが似合ってる。
6月9日 山城 洞ヶ峠
ここは、難波京と平安京の中間地点。ここらで日和見。
どんな大名が、この明智光秀様のところにやってくるか、
高みの見物だ。
6月10日 山城 洞ヶ峠
なんか、最近兵士の脱走が多いんですけどぉ。
「この直後、明智日向守は行方不明となりました。
配下に討たれたとも、キャトルミューティレーションとも言われております。
どう思いますか?解説の蒲生さん」
「怖いですね、ぽえむを読まれるなんて。考えてもぞっとします」
「そっちですか。では、投票の方を見てみましょう」
パネルに表示される棒グラフは、候補者のうち3人が飛びぬけている。
「現在、信孝さま、三法師君、お市さま、お三方の競り合いになりました」
「これは、目が離せませんね」
蒲生氏郷が楽しげに拳を振り回す。
「では、ここでお便りを紹介しましょう。甲府在住のペンネームSINさんからです」
『初めまして。ワシはやはりお市さま推しだな』
「お市さまファンの方ですね」
『女は、金に弱いと決まっておるからのう、ゲハハ』
「どうも、成金趣味の親父のようですね。では次を見てみましょう。
越後からのお便りで、ペンネームkENさんからです」
『お初にお目にかかります。私は、血筋の点から見て、信孝さんが良いと思います』
「ほうほう。でも、お血筋ということなら二男の信雄様かと」
『バカは数には入らないので、彼が最適です』
「ほほう、深いですね」
他にも、何枚かのお便りが紹介され、時間稼ぎする前田玄以。
そして、投票の結果が発表される。
「では、投票の結果が出たようです。後継者は、お市様と決まりました!」
画面が切り替わり、満面の笑みを浮かべたお市様が映し出される。
「お市様、いや上様、ご感想は如何ですか?」
「皆さまありがとうございます。これも、ひとえに皆さまの応援のおかげです」
「ありがとうございました」
「あの、ひとつよろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」
お市様が千宗易を呼び止め、奪うようにマイクを取り上げる。
「皆様方に命じます。生死は問いません、荒木村重を引きずり出してきなさいっ!」
息を荒げて、一気に命令を下す。
そして、呼吸を整えてからにこやかに言を継ぐ。
「殊勲を挙げた者には、荒木の旧領、摂津の支配権を認めましょう」
首一つに一国、それも首都機能のある摂津の国主という破格の報酬に、清州城に集まったプレイヤやAI武将がどよめく。
それは、荒木村重が狩られる側になった瞬間であった。
「わたくしは、荒木の首……(ごほん)身柄さえ押さえられれば十分です。
そのあとは、三法師に跡を譲りましょう」
そう言い残し、お市様はかろやかに部屋を出ていった。




