KIYOSU会議 弐の宴
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CM明け、今度は青々として坊主頭の武将が画面に映し出された。
「上様亡き後を決めるKIYOSU会議。
もう間もなく始まります、豪族の皆さまはもうしばらくお待ちください。
実況はわたくし、世話役の前田玄以が勤めさせていただきます」
カメラが移動し、横に座るちょびひげの人物を映す。
「解説は、今や時の人、摂津を治める荒木村重殿に来ていただきました」
「荒木です。今や摂津は日本の中心。トップの俺は忙しいんだよね。
早目に終わらせてもらえる?御殿のチャンネーとシースー食いに行くから」
「解説の荒木さんでした。では、茶器の事なら何でもお任せ。
鑑定士RIQこと千宗易さ~ん。現場と繋がっていますか?」
場面が変わり、武将が円座になって座る大広間に切り変わる。
大広間にも巨大なディスプレイが上座に鎮座している。
部屋に居るのは、お髭の猛将 柴田権六。
その隣は、米五郎作こと、丹羽長秀がにょろっとしたなまず顔で座っている。
相対するように、秀吉と巨漢の池田恒興が並ぶ。
彼らの中心では、茶道具に囲まれた千宗易がゆうゆうとお茶を立てていた。
彼は、何処からか取り出した茶筅型のマイクで喋りだす。
「こちら、現場の千宗易です。
織田家宿老の柴田勝家様、丹羽長秀様、羽柴秀吉様、池田恒興様がそろっております」
宿老4人は選挙開票中の政治家のような、緊張した顔をしている。
「では、筆頭宿老の柴田どの、一言お願いします」
「儂が織田家筆頭、柴田権六である!」
「はい、ありがとうございました。
では、時間になりましたので、会議を始めましょう。スタジオにカメラ戻します」
■議題1『後継者は誰にするか?』
画面の向こうで前田玄以が話しだした。
「はい、まずは後継者を誰にするかですね。
織田家雑兵のみなさんが、必死でアンケートを集計しております」
画像が変わると、そこでは、陣傘胴丸の一般兵が何十人も机に向かって集計をしていた。
赤い陣笠と古ぼけた胴丸が、パイプ椅子と会議卓にうまくマッチングしている。
「手を抜いたらへし切りですから、死ぬ気で頑張ってくださいね」
「候補者の紹介にうつります。RIQさ~ん」
すると、画面が左右に分割され、右側の画面が実況スタジオ、左側には後継者の控室が映し出される。
「では、後継者候補の方々の控室を覗いてみましょう。
まずは、上様の御次男、安土の放火魔、信雄様です」
カメラが最初の部屋に入ると、間延びした顔の男が紹介される。
紹介されてもすぐに忘れそうな、印象の薄い顔立ちだ。
「安土城に火をかけられたそうですが?」
千宗易が彼にマイクを向ける。
「あれは、放火じゃなくて火攻めだから。炮烙だからね。
骨を切らせて肉を断つってやつ」
「はい、ありがとうございました」
あわてて弁明する彼を放置して、インタビューは次の候補者の控室に向かう。
「いやぁ、アレはダメでしょ。バカ殿だもん」
画面右側の実況席で、荒木村重が解説を交える。
左側の画面では、千宗易が次の控室に入って行った。
「続いて大本命、三男の三七信孝様です」
目鼻立ちのしっかりしたイケメンが紹介される。
「私が織田信孝です。三男ではありますが、兄と同い年です」
「そんな信孝様に、匿名でお便りが届いております」
千宗易が、ハートマークのシールが付いた手紙を取り出した。
「うれしいですね。早速ファンレターですか」
信孝はうれしげに眼を細める。
「では、読み上げます。
『信孝って、野ブタか みたいだよね。猪武者ってやつ?』」
「クソ兄ぃぃぃぃ!」
彼は、全速力で何処かに走っていった。
「やっぱり、猪は猪ですな」
「まだまだ続きます。
血統の正統性なら負けていない。嫡孫、三法師君」
母親の松姫に抱かれた幼児の写真が画面に映し出される。
まだ幼いせいか、直接のインタビューは無いようだ。
「いかがですか、荒木さん」
「俺としては、三法師君に跡継ぎになってほしいねぇ。
ほら、神輿は軽い方が良いって言うじゃない」
「本音が漏れてますよ?」
「おっと、いけねぇ」
「次は、出ても良いのか、上様の影武者、弟の織田三十郎信包殿……
あれ?信包殿??」
3番目の控室は空っぽ。人が居た気配すらない。
前田玄以に陣笠胴丸の兵士が駆け寄り、一枚の紙片を渡す。
「え~、三十郎殿は、茶の飲みすぎによるカテキン中毒とのことで緊急入院なされました」
前田玄以は、紙片をちらりと見てから真面目な顔で実況を行う。
「あぁ、やっぱり逃げたな」
「荒木殿、それは言いすぎです。
仮にも上様の弟君ですぞ。戦略的撤退かと思われます」
「つまり、逃げたんだろ?」
「後方に向かって前進しただけです」
「そして、次の候補者は、紅一点、お市さまです」
「わたくしが出てもよろしいのでしょうか?」
お市さま役は、テレビドラマで有名な長い黒髪の女優が行っている。
大河ドラマの経験もあり、和服の着こなしも戦国時代の演技も板についている。
「はい。お市さまにも継承権がございます」
「ありがとうございます」
そういって、ぺこりと頭を下げる。
「わたくしは、逃げ出した頼りない三十郎兄様とは違い、
さらに強い織田家を目指します!」
「あ、いえ、まだ逃げたと決まったわけでは」
「いいえ、逃げたにきまっております」
「解説の荒木さん、どう思いますか?」
「はぁ?お市さまって、もう(ピー)歳の年増だぜ?
もう(ピー)で(ピー)……」
そのとたん、画面が暗転した。
「ぎゃぁぁぁ!くぁwせdrftgyふじこlp!」
荒木村重の絶叫の後、しばらくしてから画面が元に戻る。
「え~、荒木さんは、急用とのことで席を外されました。
変わって解説は、麒麟児と呼ばれ、上様に愛された蒲生氏郷さんです」
「よろしくお願いします。お市さま、大人の魅力でお美しいですよね」
彼は、新入社員のようなフレッシュスマイルでそつなく応える。
さすがに、J系若手アイドルは一味違う。
「最後に、茶人の織田源五郎長益様となっております」
「TEA&PEACE~!」
次の控室は、全てが緑色をした世界だった。
床は畳敷き。壁と天井には青竹のすのこ。
緑の部屋の中心には、スキンヘッドの男が一人。
緑色のサングラスをかけ、濃茶色の小袖。薄緑の帯と、緑づくめの服装をしている。
「師匠、どうですか?戦国の世に、茶で平和」
「弟子よ。ちょっと方向性を考え直した方が良くは無いか?」
「WABI&SABI 略してWASABIとかの方が良かったですかね」
「え~、どう思いますか?蒲生さん」
「さすが、長益様です。私も負けては居られませんね」
目は笑っていない。
しかし、口元だけにこやかに、棒読み解説が入る。
「この6名のうち、最も得票率の高かった一人が次期当主として織田家を継ぐことになります。では、CMはいります」




