(合戦イベント) 毛利家 vs 島津家
毛利元就に完敗した。
腕力で押し切られたわけではなく、巧妙な罠にしてやられたわけでもなく、
大規模な兵力で蹂躙されたわけでもない。
織田家が展開していた伯耆(鳥取)、美作、備前(岡山)を結ぶラインが、一気に覆った。
何が理由で負けたのか、どうすればよかったのか、
一晩考えても答えが見つからない。
打開策が見当たらないときは、いっそ敵の懐に飛び込んでみる。
そんな秀吉流のやりかたを、真似してみることにした。
幸い、「毛利VS島津」というスペシャルマッチが行われる。
合戦イベントは以前から行われており、合戦エリアと呼ばれる特殊エリアでガチ戦争を行う。
合戦エリアでの被害は通常エリアでの被害と連動していないため、
ここで兵士が全滅しても、通常エリアでは些細な問題でしかない。
元太を留守役として城に残し、配下武将たちを引き連れて、兵士を伴って出陣した。
■
今回の合戦は、今月の超目玉合戦のひとつ。
毛利と島津という、二大人気大名の激突。
東の「川中島」と並んで集客力がある。
毛利側の見所は、何と言っても毛利元就の復活。
今回、初めて『三矢訓』所持者が一同に揃うので、その本領が発揮される。
先日の合戦イベントでは、吉川元春+小早川隆景の両川だけで、配下の攻撃力は3割増し。
毛利本家の2人が加わることで、どこまで伸びるのかが注目されている。
対する島津側。
チート4兄弟は、無敵無敗。
兄弟全員が出陣・連携すると九州諸国の大名では相手にならないので、
運営側から各種の「縛り」をさせられている大名。
彼らが、『猿叫』『捨てかまり』をひっさげて、4人そろって出陣する。
■
合戦場所は、架空の場所が設置されている。
どことなく一言坂に似ていて、三角帽子の農民に追い回された悪夢を思い出した。
平地に丘陵、森に湿地と、一通りの地形が揃っている。
参加者は、大雑把な地図を自動的に入手できる。
銀を投入することで、より詳細な情報を得られるしくみだ。
合戦エリアに入ると、まずは陣借りの登録のために毛利家の曼幕に向かう。
今回の主目的は、毛利元就を直に見ておきたいということ。
しかし、受け付け開始早々、曼幕には黒山の人だかりができていた。
毛利家側の登録状況を確認すると、元就直轄は早速満員で登録できない。
毛利輝元、吉川元春、小早川隆景の3部隊のうちの誰かの選択だが、迷わず輝元を選んだ。
他の2人の元では少し気まずいし。
毛利輝元の本陣に挨拶に行くと、配下武将が挨拶をしてくれた。
毛利家における「貢献度」は無く、有力なコネも無いので、ここでは特別扱いはされない。
そのため、本陣で行われる軍議にも参加できない。
「来ては見たものの、謀神には会えそうにないな」
「大将首を取ってくればいいさぁ」
三毛村さんがしれっとした顔でアドバイスをくれる
「島津4兄弟の誰かを狙ってみるか~」
そんな軽口を叩きながら、合戦の開始時刻を待つ。
■
【毛利・島津合戦、只今より開始されます】
合戦開始のアナウンスが流れ、合図のほら貝が鳴り響く。
毛利方は、鶴翼の陣を敷いている。
吉川が右翼、小早川は左翼、頭の部分に毛利輝元、胴体に毛利元就。
対する島津は魚鱗。
意気揚々と正面から襲いかかる構えを見せている。
開始後しばらくは、双方がゆるゆると前進を続ける。
ほどなくして、島津家の先鋒にあたる家久部隊が単独行動。
輝元部隊を回避して鶴翼の胴体に突っ込んでいく。
周囲のプレイヤが、進むべきか、追撃すべきか悩んでいるが、輝元本隊は無視して前進している。
大半の豪族がつられて前進する中、俺は迷わず追撃を始めた。
島津先鋒の追撃を行っていると、一部の部隊が回頭し、追撃を喰いとめる姿勢を見せる。
俺たちの前に立ちふさがった部隊からは、太刀を握った武将が一人、前に出てきた。
南国人特有の浅黒い肌、太い眉。
筋骨は隆々と盛り上がり、豪傑というに相応しい。
「オイは、東郷藤兵衛重位。
剣以外にモノ知らぬ田舎モンだげ、両川返しの佐久間サァ、一手指南を!」
魅力特化相手に一騎打ちとは、嫌がらせ以外の何物でもない。
対応に困っていると、それを見かねたかえでさんが割って入ってくれた。
「わたしが相手になろう」
十字槍を振り回しながら、前に出ていく。
「オマンサァ、宝蔵院だな、ヨガド」
東郷は彼女にあわせるように、太刀を軽々と振り回す。
槍の間合いの外側で、2人が得物を構えて相対した。
東郷が深呼吸をして、ゆっくりと気合を矯める。
そして次の瞬間、猛烈な速度で走りだした。
「キェーーーーーーイッ!」
裂帛の気合声とともに、大きく振りかぶった太刀が振り下ろされる。
十字槍がガキンと、鈍い音をたてて太刀を受けとめた。
「キィァッ!ヤッ!」
かえでさんは、続く連撃も槍の穂先で受けとめ、その勢いを横に流す。
だが、現代風に言えば、インナーマッスルをよほど鍛えているのか、
東郷は、即座に体勢を整え、隙を見せない。
20合ほど激しく撃ちあったところで、十字槍の穂先が折れた。
あれは、波野に作ってもらったレベル2の業物。
強度も向上しているので、そうそう破壊されるような代物では無い。
だが、十字槍は左右にも三日月型の刃のある槍だ。
穂先破壊で隙を見せた東郷に、巻き込むような突きが繰り出される。
東郷は直撃は回避するが、三日月の刃が腕を深々と切り裂き、血が噴き出してくる。
「つよかぁ」
距離を取ろうとする東郷を、かえでさんが一歩踏み込んで追撃する。
その瞬間、東郷は取り落としたように見えた太刀を勢いよく切り上げた。
かえでさんは咄嗟に踏みとどまって槍の柄で受けとめたが、槍の柄が両断される。
あれは、波野に(以下略)
業物武器は、そうそう壊れない筈なんですケド……。
おおかた、島津家固有スキル『猿叫』のせいだ。
攻撃力を増大させるスキルだったはずだが、武器破壊にも効果があるのかもしれない。
そんな事を考えているうちに、一騎打ちは終盤に入ってきた。
2人ともスタミナが枯渇し始め、肩で息をしている。
素の武力が低いかえでさんの方が、スタミナでは分が悪い。
だが、失血による継続ダメージで、東郷も顔色が青い。
続く数度の打ち合いで、今度は東郷の太刀が半ばから折れた。
十字槍に残された三日月も同時に砕ける。
東郷は、折れた太刀を裂けた腕で掴み、最後の一撃を繰り出した。
「チェストォォォーーーー!」
斬撃は、防ごうとした槍ごとかえでさんを袈裟がけに斬りおろした。
鮮血が噴き出し、かえでさんが地面に倒れ伏す。
東郷は折れた太刀を杖代わりに、ゆっくりと距離を取る。
俺と三毛村さんは、あわててかえでさんに駆け寄って抱き起こす。
「不覚をとりました」
血が結構流れているが、意識はしっかりしている。
「東郷とやら、こちらの負けだ」
東郷も満身創痍の姿。肩で息をしている。
傷からの流血で、鎧が赤く染まっている。
「俺たちは逃げるよ。勝ちの印に旗指物でも、奪っていけ」
「あいがとっ!」
彼は、満面の笑みを浮かべて、ひとつ頭を下げると、
三毛村さんに渡された旗指物を握って、よろよろと自部隊のほうへと戻っていった。
こっちは、かえでさんをリタイア扱いにして自領に戻す。
病院で入院が必要そうだが、近いうちに復帰できるだろう。
「強い奴は居るもんだなぁ」
「うちも、豪傑が必要だにゃ」
「そうだな、今までは元太が先鋒だったけど、
軽々しく動かせなくなったもんな」
「栗ちゃんが元服するまでは、元太殿は佐久間家№2だものにゃ」
東郷の全身から迸る覇気のようなものに、兵士たちは撃たれていた。
さすがに三毛村さんのような武将クラスともなると平然としているが、
兵士たちは一騎打ちを恍惚とした様子で眺めていた。
当然、敗北した影響は、士気の減少として表面化している。
MMORPG的に言えば、前面に立って敵のヘイトを集める、
「タンク」にあたるような人材が不足しているのを痛感した。
東郷の部隊が転進し、去っていくのを見送る。
戦場の隅っこに移動して、様子を見ることにした。
■ ■合戦だいじぇすと
合戦は、初手で島津家久の部隊が先行。
「釣り」を警戒した各部隊が躊躇するうちに、家久は戦場を駆け抜け、
毛利元就の本陣に斜めから切り込んだ。
だが、毛利元就は配置しておいた重装槍兵でその勢いを食い止める。
矢継ぎ早に繰り出される毛利元就の『策』の前に、家久はピンチに陥る。
進退きわまった家久を救おうと、他の3兄弟も急速前進し、毛利家と正面から激突。
ここで、「鬼島津」こと島津義弘がその本領を発揮して大奮闘を見せる。
手勢を引き連れて、毛利輝元の部隊を穿ち抜き、正面突破に成功。
そして、島津義弘、家久が合流に成功した。
両川の部隊は義久、歳久兄弟が押えこんでいる。
毛利輝元の部隊は中央を抜かれて半壊。
島津家の勝利ムードが漂った中、毛利元就直々の『三矢訓』が発動された。
戦場の空気が変わり、毛利兵の士気が回復し、猛攻状態へと変わる。
毛利方の部隊は神速で陣を組み直し、島津義弘の退路を断つ。
分断された島津4兄弟は、毛利家の連携の取れた攻撃の前に、包囲殲滅されていく。
しかし、島津側もこの程度で折れるほど脆くは無い。
義弘、家久は、『釣り野伏せ』『捨てかまり』の二段構えで、毛利元就の追撃を断ち切り、再度毛利輝元の布陣を突破。
島津兄弟は合流して体勢を立て直す。
いざ、反撃というところで、合戦終了の合図が響き渡った。
結果は、毛利家の判定勝利。
「あと1時間あったら島津が勝っていた!」
「時間制限も想定した戦術だ」
参加したプレイヤたちの感想はさまざまだ。
俺は、おぼろげながら、毛利家の打倒方法を思いついた。
だが、それを実現するには、武将も兵も、まだまだ足りない。
しばらくは、雌伏の日々。
とりあえずは、美作の制圧から始めよう。




