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謀神様のメモ帳

■数日後。

三毛村さんの推察通りだった。

吉川元春は、豪族(プレイヤ)の兵力を統合し、高田城に攻め込んできた。

その兵数は、なんと5万4千。後続部隊はまだ山の向こう側。

正々堂々と考えているのか、彼は布陣を終えると、2人のプレイヤを引き連れて城門の前に向かってくる。

俺も、その礼儀に応えて、城から出て対峙した。

「佐久間内膳!高田城、返してもらうぞ」

響き渡るような大音声で、吉川元春が叫ぶ。

「吉川元春殿。この高田城は毛利元就公から受け取ったものだ。

お前が口を出す筋合いは無いと思うが?」

「はん!相変わらず口数の減らない男だな。

その強気もそこまでだ。うちの軍師を紹介しよう」

後ろから現れた2人のプレイヤが口を開く。

「連合『松下村塾』を率いる坂田です。よろしく」

「同じく、『松下村塾』の杉村だ。俺たち、毛利推しだからさ、

プレイヤどうしで悪いけど、やらせてもらうぜ!」

坂田は眼鏡をかけた腹黒そうな男。杉村は佐野に似た脳筋タイプ。

二人とも、良い意味でゲーマーに見える。

「彼ら、豪族たちの助力もあり、こちらの兵力は5万を超えている。

真正面から高田城を攻めさせてもらおう。

佐久間、貴様の腕前を見せてもらうぞ」

そう言って、吉川元春は馬に乗った。


「戦いになるかどうかは、アレを見てからにしてもらおうか!」

俺はそう言って、高田城に新設した櫓を指差す。

姫路城を真似た、白漆喰の頑丈な造り。

その大きめの銃眼から、巨大な鉄の筒が引き出されてくる。

「まさか、大友秘蔵の『国崩』!?」

驚愕する吉川たちをよそに、その大砲が火を吹いた。

轟音がして近くの丘陵が吹き飛び、盛大な土煙を上げる。

大砲系武器は、罠と同様の士気減少効果を持つ。

着弾点付近に布陣する部隊の士気が揺らぎ、陣形が乱れる。


大友家は、北九州の覇者。

毛利家とは、海峡を挟んで長い間戦闘を繰り広げる犬猿の仲である。

その大友家の特色としては、南蛮貿易による南蛮技術の充実。

今回のバージョンアップで大友家は固有スキル『国崩』を獲得した。

いわゆるフランキー砲である。

俺は、織田家に援軍要請に来た大友宗麟と直談判をし、『国崩』の技術を教えてもらった。

始めは渋っていた大友宗麟だったが、うちの領地に招待した時に和尚に会うと、ころりと態度を変えた。

元将軍の影響力半端ないです。

波野に、(弱体化されたレプリカでだが)『国崩』を製造してもらい、鷹目が砲撃している。



「吉川公、あんなものははったりにすぎない。

国崩は強力だが、連射が出来ぬ上精度も乏しい。

たった一門あったところで、多勢に無勢は変わらない」

吉川元春の傍らで、坂田が眼鏡をくいくい弄りながら分析する。

さすが、野望プレイヤーだけあって、戦国時代の造詣が深い。

「そ、そうだな。たかが一門の大砲で退いたとあっては武門の名折れ」

俺は片手を挙げて、城内の元太に合図をする。

元太の指示で、他の櫓の銃眼からも国崩の砲口が出てきた。

その数、ざっと30門。

「では、お見せしよう。我が連合必殺の超長距離精密射撃だ!」

そういって、俺は陣山の上でこちらを監視している砦を指差す。

砲門の多さに度肝を抜かれていた3人が、あわてて俺の指差す方向に視線を向ける。

その瞬間、背後で国崩の砲撃音がとどろいた。


砲撃音がやまびこで返ってくる。

遠目に見える陣山の櫓が、爆炎をあげて崩れ落ちた。

「そんなバカな!国崩の有効射程はせいぜい500mのはず……」

愕然とした表情で坂田が叫ぶ。

あわてて眼鏡を拭いてかけなおし、陣山の砦を見直す。

「純正品の国崩ならそうなんだろうな。

だが、忘れたか?うちが与力している織田家にも、

固有スキル『新技術』がある」



織田家は、鉄甲船や楽市楽座に代表されるように、

他国のいろいろな技術を積極的に取り込み、改良する能力に優れる。

それを現した固有スキルが『新技術』。

既存の技術を都合よく改良することができるスキル。

信長こそ居なくなったが、スキル保持者は織田勢力下に幾人も残る。



「国崩を改良したか……」

「あぁ。あれは射程改良だが、精度をいじったものもある」

「あはは、こっちの負けだな。坂田」

杉村が、坂田の肩をバンバンと叩く。

坂田はひとつため息をつくと、吉川元春に進言した。

「吉川公、ここは引かれるべきかと。無様な戦しかイメージ出来ません」

「くっ!父上に無断で兵を動かしている以上、無様な戦は行えぬ。

手の内を晒させただけでも収穫か。引くぞ」

悔しそうな表情をしながら、吉川元春は馬を駆ってその場を離れていった。



「夜襲という手もあるが……」

まだ未練があるのか、残った坂田がこちらを睨みながら言う。

「せっかく見逃してくれてるのに、後ろからぱかぱか撃たれたいんかぁ!」

杉村が坂田にいい角度で突っ込むと、眼鏡が外れて遠くに吹っ飛んだ。

「あの数を用意するなんてすげぇよ。

噂には聞いていたけど、魅力極っていろいろできるんだな。

正直、ネタジョブだと思ってた」

高田城のそこかしこに見える砲口を眺めながら、杉村が感嘆の声を挙げる。

「お前の脳筋じゃ無理だ」

眼鏡を回収した坂田が、眼鏡を拭きながら戻ってきた。

「うるせぇ!」

杉村が坂田の手元に蹴りを入れると、また眼鏡が飛んで行った。

「佐久間、今日は負けたけどさ、今度は合戦場で合戦しようぜ。

来週、毛利vs島津のスペシャルマッチがあるんだ。

毛利についてくれるとうれしいけど、島津側でもいいぜ~」

屈託なく笑う杉村に引き込まれて、ひとつ尋ねてみる。

「どうして宇喜多の方に行かなかったんだ?

一斉蜂起と連動させて攻め込めば良かったんじゃないか?」

「あれは、好かん!引っ越し前提の嫌がらせなど、武将らしくない」

泥だらけで犬のように這いつくばり、眼鏡を探している坂田が言い放つ。

何処から突っ込めばいいのか悩んでいるうちに、二人は帰っていった。



2人の姿が見えなくなってから、赤影さんのコール音が鳴る。

「佐久間、爆破のタイミングどうだった?」

「完璧っす」

坂田が言うように、『国崩』の射程は短い。

レプリカだともっとひどい。

有効射程どころか、最大射程でも陣山まで砲弾が届くか怪しいもんだ。

『射程拡張』『精度向上』スキルを持つ鷹目の腕前を持ってしても、櫓に当てるのは不可能。

赤影さんに頼んで、事前に罠を配置し、空砲のタイミングとあわせて爆破してもらったのだ。

30門の国崩も、その大半が偽物。ちゃんと撃てるのは2門だけ。

「しかし、彼らころっと引っ掛かったな」

「毛利と大友が犬猿の仲ってのは有名ですしね。

合戦とかで国崩の実物を見たことがあったのかもしれません」

レプリカの性能はともかく、外観は実物そっくりだ。

とりあえず、一連のごたごたは一区切りついた。


吉川の撤退と前後するように、ぽえるから備前の鎮圧終了の連絡が届く。

佐野やその配下の損害は大きく無いが、宇喜多領内は、結構荒らされてしまったそうだ。

一番痛いのが、蜂起に巻き込まれて整備中だった私掠船が全滅したこと。

将来的には水軍として対毛利用にと考え、投資していたのに残念だった。


ダミーに使った国崩(砲口のみ)を片付けている最中、健太郎が最新情報を届けて来た。

「お館様、伯耆(鳥取県)に毛利元就が進軍、尼子勢を駆逐した模様!

幸い、尼子勝久殿、山中鹿之助殿、主だった武将は無事。因幡に退却されたようです」

「なんだと!?一体何処から出撃したのか」

尼子家は、上月城の勝利のあと、山陰方面に回され、そちらから毛利の切り崩しを行っていた。

織田家の後押しもあって、好調に伯耆(鳥取県)まで到達していたのに。

「遅着したと思われた吉川の一隊が、突如本隊から離脱。

目的地を探っているうちに、急速に伯耆(鳥取県)へと侵攻し……」

健太郎が申し訳なさそうに頭を下げる。

その報告から推測するに、尼子家は、吉川に攻撃されたうちのために援軍を出してくれたらしい。

だが、それを見越した毛利元就は、吉川元春の後詰に来た部隊の指揮を奪って直属部隊を編成、

美作(岡山)と見せかけて、手薄になった伯耆(鳥取)に突っ込んだ。

その想定外の電撃戦に、尼子家は不意を突かれ総崩れとなった。


「一体、どこからどこまでが陰謀なのやら……」


プレイヤの暴走から始まり、

中国地方を南北に貫いた戦乱は、毛利元就の一人勝ちで終わった。



■ ■

毛利家の家紋、一文字三星を背に、白髪を総髪にした老人が銀キセルで煙草をふかす。

煙管には、緻密な細工が施されている。

彼の前には、三人の男が小さくなって座っていた。

「ふふ、扱いやすいのう。暴れるしか能のない輩は」

老人が煙草盆を叩く音に、吉川元春が怯えたように首をすくめる。

「隆景。宇喜多の船は?」

「は。混乱に乗じて、偽装した手の者が、すべての軍船を破壊しました」

「宇喜多直家め。水軍を持とうなど100年早いわ。

当然、港も焼き払ったのであろうな?」

「は?父上のお指図に、港の焼き討ちまでは……」

老人が、ギロリと小早川隆景を睨む。

「臨機応変の才の無いやつだ。

ま、そういうヤツが居るからこそ、ワシも動きやすいがの」

『謀神』毛利元就は、煙草の煙を吉川元春の顔面に吹き付けた。


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