表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/125

宇喜多家受難

「宇喜多ムカつく。みんなで一斉に蜂起しないか?」

そんな内容の一文が、公式掲示板に書き込まれた。


宇喜多直家くんは『悪人』スキルを得て大活躍している。

大方の予想通り、『悪人』スキルは、放火力アップ、毒効果増強などタチの悪さで折り紙つき。

最大の効果は「他AI大名家との関係が嫌悪で固定」というもの。


外交における関係は、親愛、友好、中立、嫌悪、敵対の5段階からなる。

関係は、先方がこちらをどう思っているか?を表わす。

「敵対」は、多少の被害が出てもブチ殺しに行こうと思っている関係。

「嫌悪」は、嫌われている関係。

「友好」は、余裕があれば助けに行く関係。

「親愛」は、多少被害を被っても、相手を助けようとする関係。

うちの連合の場合、毛利家とは嫌悪。

秀吉とは友好、宇喜多家と尼子家は親愛。

武田家には個人的には嫌悪されているが、連合としては中立。


宇喜多くんは、周辺に全く信用されない反面、

「敵対」に落ちないというメリットを持っている。

その上、既に秀吉と同盟を組んでいるため、秀吉は彼を攻撃できない。

毛利家が宇喜多家を攻撃したとしても、秀吉は「毛利との宇喜多領の分けどり」が出来ないので、しぶしぶであっても、緩衝地域である宇喜多家を助けるしか無い。

こんな情勢であるので、宇喜多くんは、周辺の邪魔者相手に、毒で腹痛を巻き起こしたり、放火で各地を火に巻いたり、船団を率いて瀬戸内海で海賊をしたりと、

悪人プレイを満喫していた。


『そんな悪人にも、ついに正義の鉄鎚が下る!』


と言えば格好いいが、連合を組んで宇喜多家と決戦しよう というわけではなく、

やられた腹いせに「派手に暴れて引っ越し逃げ」のお祭り騒ぎでしかない。

第一、打ち合わせ場所が公式の掲示板。

ゲーム世界で宇喜多家と繋がりのあるプレイヤはうちだけでなく、「そこに痺れる憧れるぅ」という宇喜多推しプレイヤも多い。

敵対側の人間の目に着く場所で、一斉蜂起の打ち合わせを行っているのだから、呆れるにもほどがある。

極秘に進められた「難波京遷都計画」に比べると、あまりに杜撰。

だが、それなりの人数が集まってきているし、蜂起場所は備前(岡山県)各地に散らばるので、真面目な対応が必要そうである。

俺たちは相談の上、佐野と彼の率いる騎馬部隊に加え、軍師としてぽえるを派遣することに決めた。

彼らは、現地の親宇喜多派プレイヤの集まる「岡山極悪連合」と合流し、宇喜多家本隊と足並みを揃えて一斉蜂起に備える。



彼らが留守の間、俺は毛利家に備えて高田城に詰めていた。

ここは、至近距離の陣山に毛利方の砦がある。

陣山の砦は、防御施設としては、本丸代わりの平屋と、櫓が数個ある程度。

詰めている兵は多くないが、物資集積場所として毛利方には重要な拠点。

攻め込んでもいいのだが、無用な軋轢を避けるため放置していた。

その砦の動きが、最近慌ただしくなってきた。


忍者頭の健太郎に情報収集を命じた次の日、彼が足元に跪き報告を始める。

「お館さま、吉川元春が出陣を画策しているようです」

「ふぅむ。毛利本家や小早川の動きは?」

「毛利本家に動きはありません。

小早川は、山陰の備前宇喜多領に向けて密偵を放っているようですが、

部隊を動かすつもりは無いようです」


今回のバージョンアップで追加された固有スキル。

日が経つにつれて、各家のスキルの内容が明らかになってきた。

毛利家は『三矢訓』。

毛利元就、毛利輝元、吉川元春、小早川隆景の4名が初期保持者。

スキル保持者が同一の戦場に居る場合、兵士の攻撃力が増強される。

毛利兄弟+パパ(毛利元就)が揃うと、ダブル役満並みの破壊力と言われている。

だが、吉川元春しか動かないのであれば、スキルは発動しない。


「吉川元春だけなら、動員できるのは4万というところか」

「はい。ですが、どうも毛利本家に知られぬように動いていると見えて、

実質動員は2万程度ではないかと」

「毛利元就の許可を得られないのか。でも、ひと暴れしたいんだろう」

「きっと、ここに来るぞなぁ」

いつの間にか、足元に三毛村さんが来ていた。

「混乱が見込まれる備前では無く?」

「備前は小早川隆景の担当だよぉ。

それに、ここが手薄になってるのは事実だぞな」

確かに、佐野とぽえるに加え、かなりの兵士を備前に回している。

「この城は毛利元就直々に貰ったものだぜ?

上月城でごたついていたころの俺たちみたいな弱小なら兎も角、

大大名が策略で城を与えるなんてしたら、後で信頼されなくなるよな?」

「だから、毛利本家には内緒なのにゃ」

吉川元春の暴走か。ちょっといじめ過ぎたかもしれない。

「相馬!八野!籠城準備だ。食糧弾薬その他、調達しておけ。

かえでさんと中原は、兵士の士気上げを頼む」

「元太!例の件、配備を進めておけ」

俺は手早く配下武将たちに命令を下す。

「はっ!」「了解!」

配下武将たちが、俺の命令に従って、四方に散っていく。

「しかし、三毛村さん。この城には1万の防衛兵がいるぜ?

ごたごたしているけど、北には尼子、南には宇喜多。

援軍には事欠かない。2万の兵で本当に来るのかな?」

「お館さま、毛利家に与する兵士は、たくさん居るぞぉ」

三毛村さんが意味ありげにウィンクする。

腕組みをして考えると、すぐに思い至った。

宇喜多に「岡山極悪連合」、尼子に「尼子復興協会」があるように、

毛利にも親毛利派のプレイヤ連合がある。

豪族(プレイヤ)の兵力か」

「きっと、お館さまのような有力な地主が、吉川元春を焚きつけたんだぞぉ」

敵国の混乱に乗じて兵を進めるのは戦国では世の常。

俺自身、そうやって三星城を手に入れたので、きちんと迎え撃つのがゲーマーとしての礼儀。

しかし、三毛村さんの話を聞きながら、少しだけ疑問が残る。

プレイヤが毛利の兵と共に攻めるのであれば、やはり混乱が予想される備前の方が得な気がする。

混乱の後に、「漁夫の利」を得ればいいからだ。

小早川隆景を説得するよりも、吉川元春の方が与し易かったのだろうか?

そんな疑問を抱きながら、俺は籠城戦の準備を進めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ