宇喜多家受難
「宇喜多ムカつく。みんなで一斉に蜂起しないか?」
そんな内容の一文が、公式掲示板に書き込まれた。
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宇喜多直家くんは『悪人』スキルを得て大活躍している。
大方の予想通り、『悪人』スキルは、放火力アップ、毒効果増強などタチの悪さで折り紙つき。
最大の効果は「他AI大名家との関係が嫌悪で固定」というもの。
外交における関係は、親愛、友好、中立、嫌悪、敵対の5段階からなる。
関係は、先方がこちらをどう思っているか?を表わす。
「敵対」は、多少の被害が出てもブチ殺しに行こうと思っている関係。
「嫌悪」は、嫌われている関係。
「友好」は、余裕があれば助けに行く関係。
「親愛」は、多少被害を被っても、相手を助けようとする関係。
うちの連合の場合、毛利家とは嫌悪。
秀吉とは友好、宇喜多家と尼子家は親愛。
武田家には個人的には嫌悪されているが、連合としては中立。
宇喜多くんは、周辺に全く信用されない反面、
「敵対」に落ちないというメリットを持っている。
その上、既に秀吉と同盟を組んでいるため、秀吉は彼を攻撃できない。
毛利家が宇喜多家を攻撃したとしても、秀吉は「毛利との宇喜多領の分けどり」が出来ないので、しぶしぶであっても、緩衝地域である宇喜多家を助けるしか無い。
こんな情勢であるので、宇喜多くんは、周辺の邪魔者相手に、毒で腹痛を巻き起こしたり、放火で各地を火に巻いたり、船団を率いて瀬戸内海で海賊をしたりと、
悪人プレイを満喫していた。
『そんな悪人にも、ついに正義の鉄鎚が下る!』
と言えば格好いいが、連合を組んで宇喜多家と決戦しよう というわけではなく、
やられた腹いせに「派手に暴れて引っ越し逃げ」のお祭り騒ぎでしかない。
第一、打ち合わせ場所が公式の掲示板。
ゲーム世界で宇喜多家と繋がりのあるプレイヤはうちだけでなく、「そこに痺れる憧れるぅ」という宇喜多推しプレイヤも多い。
敵対側の人間の目に着く場所で、一斉蜂起の打ち合わせを行っているのだから、呆れるにもほどがある。
極秘に進められた「難波京遷都計画」に比べると、あまりに杜撰。
だが、それなりの人数が集まってきているし、蜂起場所は備前(岡山県)各地に散らばるので、真面目な対応が必要そうである。
俺たちは相談の上、佐野と彼の率いる騎馬部隊に加え、軍師としてぽえるを派遣することに決めた。
彼らは、現地の親宇喜多派プレイヤの集まる「岡山極悪連合」と合流し、宇喜多家本隊と足並みを揃えて一斉蜂起に備える。
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彼らが留守の間、俺は毛利家に備えて高田城に詰めていた。
ここは、至近距離の陣山に毛利方の砦がある。
陣山の砦は、防御施設としては、本丸代わりの平屋と、櫓が数個ある程度。
詰めている兵は多くないが、物資集積場所として毛利方には重要な拠点。
攻め込んでもいいのだが、無用な軋轢を避けるため放置していた。
その砦の動きが、最近慌ただしくなってきた。
忍者頭の健太郎に情報収集を命じた次の日、彼が足元に跪き報告を始める。
「お館さま、吉川元春が出陣を画策しているようです」
「ふぅむ。毛利本家や小早川の動きは?」
「毛利本家に動きはありません。
小早川は、山陰の備前宇喜多領に向けて密偵を放っているようですが、
部隊を動かすつもりは無いようです」
今回のバージョンアップで追加された固有スキル。
日が経つにつれて、各家のスキルの内容が明らかになってきた。
毛利家は『三矢訓』。
毛利元就、毛利輝元、吉川元春、小早川隆景の4名が初期保持者。
スキル保持者が同一の戦場に居る場合、兵士の攻撃力が増強される。
毛利兄弟+パパ(毛利元就)が揃うと、ダブル役満並みの破壊力と言われている。
だが、吉川元春しか動かないのであれば、スキルは発動しない。
「吉川元春だけなら、動員できるのは4万というところか」
「はい。ですが、どうも毛利本家に知られぬように動いていると見えて、
実質動員は2万程度ではないかと」
「毛利元就の許可を得られないのか。でも、ひと暴れしたいんだろう」
「きっと、ここに来るぞなぁ」
いつの間にか、足元に三毛村さんが来ていた。
「混乱が見込まれる備前では無く?」
「備前は小早川隆景の担当だよぉ。
それに、ここが手薄になってるのは事実だぞな」
確かに、佐野とぽえるに加え、かなりの兵士を備前に回している。
「この城は毛利元就直々に貰ったものだぜ?
上月城でごたついていたころの俺たちみたいな弱小なら兎も角、
大大名が策略で城を与えるなんてしたら、後で信頼されなくなるよな?」
「だから、毛利本家には内緒なのにゃ」
吉川元春の暴走か。ちょっといじめ過ぎたかもしれない。
「相馬!八野!籠城準備だ。食糧弾薬その他、調達しておけ。
かえでさんと中原は、兵士の士気上げを頼む」
「元太!例の件、配備を進めておけ」
俺は手早く配下武将たちに命令を下す。
「はっ!」「了解!」
配下武将たちが、俺の命令に従って、四方に散っていく。
「しかし、三毛村さん。この城には1万の防衛兵がいるぜ?
ごたごたしているけど、北には尼子、南には宇喜多。
援軍には事欠かない。2万の兵で本当に来るのかな?」
「お館さま、毛利家に与する兵士は、たくさん居るぞぉ」
三毛村さんが意味ありげにウィンクする。
腕組みをして考えると、すぐに思い至った。
宇喜多に「岡山極悪連合」、尼子に「尼子復興協会」があるように、
毛利にも親毛利派のプレイヤ連合がある。
「豪族の兵力か」
「きっと、お館さまのような有力な地主が、吉川元春を焚きつけたんだぞぉ」
敵国の混乱に乗じて兵を進めるのは戦国では世の常。
俺自身、そうやって三星城を手に入れたので、きちんと迎え撃つのがゲーマーとしての礼儀。
しかし、三毛村さんの話を聞きながら、少しだけ疑問が残る。
プレイヤが毛利の兵と共に攻めるのであれば、やはり混乱が予想される備前の方が得な気がする。
混乱の後に、「漁夫の利」を得ればいいからだ。
小早川隆景を説得するよりも、吉川元春の方が与し易かったのだろうか?
そんな疑問を抱きながら、俺は籠城戦の準備を進めた。




