歴史の変わる日 午前中
ついに、公式イベントの日がやってきた。
平安京は、参加しようとするプレイヤでごった返している。
今回のイベントは1週間。
その1週間の間、信長を守り切れれば、織田側の勝ち。
倒されれば、明智側の勝ち。
だが、信長を初めとする諸将に出会うには、何らかの方法で「鍵」を手に入れて、
イベントエリアに入る必要がある。
「鍵」の入手方法は明かされていない。
発見方法を模索することもイベントのうち ということだ。
ネット上での予想では、明智の武将を倒す、織田家の武将を倒す、『捜索』で見つける等、いくつかの方法で見つけられるのではないか と言われていた。
大半のプレイヤたちのお目当ては、織田上総介信長。
彼のゲーム上モデルは、ハリウッドで有名な日本人俳優が起用されている。
202X年に、日本人初のアカデミー主演男優賞を受賞した超大物。
彼が演じる信長は、仮想世界ですら気迫を感じた。
本能寺の周りは、彼の姿を一目見ようというファンの女性と、ガチでゲームをやっているゲーマーたちがひしめいていた。
今はまだ本能寺には入れないので、まるで空港でのアイドル出待ちのような状態。
イベント開始してから本能寺に乗り込むことができるようになる。
ファンの女性たちが文字通り「親衛隊」として明智勢のカベになってくれるのか、過激なファンのように明智勢と共に突撃していくのか、読みようがない。
ガチゲーマーにとっては、不確定要素となる恐ろしい集団だ。
彼らを横目に見ながら、俺はお隣の妙覚寺を目指す。
ここに信忠が宿泊しており、彼の「スタート地点」がここになる。
妙覚寺の周囲には、幾人かのプレイヤがぶらぶらしていた。
「佐久間~」
「お、鷹目に波野。ひさしぶり」
プレイヤの中から、金髪の鷹目と、彼女に引きずられた形で波野がやってくる。
鷹目は、弁慶が如く何本もの火縄銃を抱えていた。
「すげぇ恰好だな」
「ジャム(排莢不良)が怖いからねぇ」
「ジャム?」
「ジャムというより、連射加熱による精度不良と誘爆ね」
火縄銃でジャム(排莢不良)なんてあるのか?と悩んでいたら、横から波野がフォローしてくれた。
「それそれ。こないだは、それで武田信玄をやり損ねた」
銃器系武器は、暴発率という数字が設定されている。
この数字は、連射を行うと加熱により増加していき、精度が落ち、誘爆確率が跳ね上がっていく。
先日の武田家上洛では、鷹目は野田城で、信玄を狙撃すると息巻いていた。
プレイヤで1,2を争う腕前の彼女でも狙撃できないとは、さすがは甲斐の虎。
『危険感知』といったスキルに秀でているのだろう。
「影武者を47体まで倒したんだけど、そこで銃が誘爆しちゃってさぁ」
「おい、ちょっと待て。なんだその影武者の数」
「どうも、大名スキル『風林火山』が、試験的に使われたみたい」
再度、波野が解説してくれた。
「いや、風林火山って、軍の進退に関することだろ?
それに影武者なんて関係ない……あ!」
武田信玄の「風林火山」は、もとは孫子の名句。
風林火山の続きには「知りがたきこと陰の如く、動くこと雷の震うが如し」と、陰と雷が続く。
「まさか、陰イコール影武者召喚?」
「そう。それみたい……。なんか、信玄公が100人に分裂したんだって」
大名スキルは「騎馬隊の攻撃力+10%」といったモノだといつの間にか思いこんでいた。
だが、まさかの無双奥義だったらしい。
やはり、このゲーム会社は奥が深い……
アホかと突っ込みたくなる感情と、他の大名スキルはどんなのだろうというわくわくする感情が交錯する。
「今回は愛香も連れてきたし、100人撃っても大丈夫!」
そんな俺を無視して、鷹目は嬉しそうに銃をなでる。
「妙覚寺から、本能寺を狙撃するんだって」
波野がうんざりした顔をしている理由がなんとなくわかった。
どこぞの魔法少女の如く、火縄銃を使い潰しながら連射する気なのだろう。
隣で銃の修理と整備をさせられるのが波野というわけだ。
「頑張れよ~」
彼女たちを激励して、その場を離れた。
今回のお伴は、相馬と八野。
期せずして、前の平安京イベントと同じメンバになってしまった。
現状、元太と三毛村さんをはじめとする諸将が高田城と三星城に詰めている。
自領は、和尚と信康くんに頼んである。
そして、上月城はぽえるに丸投げ。佐野が来たら、三星城を丸投げする予定。
近辺の小さな砦には、国侍が割拠しているが、手が回っていない。
攻め込まれる事は無いだろうが、防御軽視はできない。
その結果、前線から引き抜いてもダメージが少ない武将を引き連れてきた。
「お館さま、今回はこれですか、これ」
八野が、指をカギ字に曲げて泥棒を示唆する。
「文化財の保護といえ、保護と。
歴史ある文物が、戦火で喪失するのを防ぐのだよ」
野盗上がりで『捜索』スキルを持つ八野と、政治能力で値踏みができる相馬。
そして、俺が『勧誘』で人夫を現地調達。
「最近、急に領地が広くなって、いろいろ物入りですからねぇ」
「そうなんだよなぁ。活きの良い武将も必要になってきたし。
また、武将探索でもやるか?」
「イイっすね。俺、知り合い多いですよ」
八野の成績は、木こりの与作と舞蹴。一勝一負。
「お館もほぼ一国の主。
今後、周辺の砦の守備も考えると、急務と言えるでしょう」
相馬は、不戦敗と姉のかえでさんの一勝一負。
現在、和尚と信康くんもあわせると、うちの配下武将は15人。
といっても、山師の源三と歌舞伎町の舞蹴、和尚は外部には出せない。
工場長の阿部も動かせないので、実質10人。
「ま、イベント終わったら考えるか~」
そして、イベントの開始がアナウンスされた。
【只今より、公式イベント「歴史の変わる日」が開始されます】
【平安京内部はPVP可能エリアとなりますのでご注意ください】




