【XXI】世界 謀神復活
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三星城の山道を宇喜多直家とぽえると共にくだっていく途中で、健太郎があわてて走ってきた。
歩きながら、彼の報告を聞く。
「お館さま、高田城に毛利の援軍が入った模様」
俺は宇喜多直家と顔を見合わせる。
毛利家の動きが速すぎる。
「旗指物と兵数は?」
「一文字三星、三匹両、三つ巴他、毛利家の主要な武将が揃っております」
「佐久間さん。それって、毛利の御三家が揃ってるってことじゃ……」
俺が同席を頼んだぽえるが顔色を変える。
小早川(三つ巴)が来る事は予想していた。
だが、この段階で毛利本家(一文字三星)、吉川(三匹両)とそろって来ているのは予想外。
「兵数は未だ2万程度ですが、続々と集結しているようです。
それと……、配下が妙なうわさを耳にしました」
「何だ?」
「毛利元就が出陣しているそうです」
「なんだと!?あの死にぞこないが出てきただと?」
健太郎の報告に、直家が顔色を変える。
お前が言うな と言いたいが、毛利元就は既に80歳を超える。
現在のステージは1570年代を背景としているので、1570年に生きていた武将は全て存命している設定。
とはいえ、ゲームなので死んでいないだけで、隠居武将と化していたはずだ。
隠居武将とはゲームにおいて、年齢や性別、病気等の理由で歴史の前面に立てない人材を指す。
特定の居城から出る事は出来ず、居城の防衛戦でしか参戦できない。
さらに内政面でも、大半のコマンドが使えない。
佐久間家では和尚や、嫁のそのちゃんが該当する。
「いや、佐久間殿のクスリの件もある……」
直家は腕組みをして考え込み始めた。
他のプレイヤが、医療技術でうちより先に進んでいる可能性は否定できない。
毛利家の動きの速さも、あの謀神が復活したのならありうる。
冷や汗がにじむのを感じながら、山のふもとに陣取った宇喜多陣に到着した。
通された先には、イケメン恵瓊が居た。自爆しろ。
「お見事ですね。佐久間殿、宇喜多殿、江利津殿。
まさか、ここまで早く三星城を落とされるとは予想外でした」
彼はにこにこしながら、俺たちを讃える。
「そんなことより、ずいぶん、来るのが速いな」
「あるお方のご指示ですよ。本当は落城前に到着したかったのですがね」
袈裟の中に両手を隠しながら、恵瓊が答える。
「ふざけんな。手の者からの報告では、のんびり歩いてきたと聞いたぞ」
「そうですよ。
私は僧侶なので、武家の方々と違って急いでいても騎乗はしませんし」
直家の突っ込みをさらりとかわす、元武家出身の安国寺恵瓊。
「我が殿は、宇喜多和泉殿に快気祝いとして、高田城をお譲りするそうです。
良かったですねぇ」
恵瓊は、懐から一枚の紙を出して、うやうやしく宇喜多直家に渡す。
その紙には、高田城を直家に渡すということが書いてあり、毛利輝元の花押がついている。
「信じられんな」
「おやおや、良い話だと思いますよ~。
三星城に高田城を加えれば、美作半国を押さえたようなものですし」
「安国寺さん、この書状も、あるお方とやらの指示ですか?」
ぽえるが彼に突っ込む。
俺も、「あるお方」と「我が殿」で使い分けているのが気になった。
「そうですよ」
「なら、受け取っておいても良いと思います、宇喜多さん」
「ふぅむ……」
よほど過去に苦い目にあったのか、宇喜多直家は白い目でじとじとと書状と恵瓊を見比べる。
「どうせ、世間には、落城と譲渡の順番は逆で流れるのでしょう?
毛利家は自領を削ってでも、三星城の後藤家を守るべく宇喜多家と交渉した。
でも、宇喜多家は交渉に応じたふりをして時間を引き延ばし後藤家を潰した と」
「そんな事をしても、毛利家に得は無いと思いますが?」
ぽえるの発言に、恵瓊はとぼけた表情で答える。
「毛利家から離れたがっていた後藤家を消し、
さらに配下の国人衆に毛利家の律儀さを見せる事が出来ます」
ぽえるの言うとおり、この辺りに地縁のある後藤家に裏切られるくらいなら、
地縁の無い我々に取られた方が取り返しやすい。
それも、「領地を削ってでも後藤家を助けようとした」という泣ける話付き。
どうして、安国寺恵瓊の持ってくる話には変なのが多いんだろう……
「わかった。受け取ろう。佐久間殿、高田城と美作、お任せする」
ニヤリと笑って、直家は受け取った書状を俺の方へ滑らせる。
「えっ……、いや、貰ったの宇喜多殿だし?」
「いやいや、うちは何もしとらん。こないだのクスリ代として受け取ってくれ」
援軍を求めるときの常識として、兵糧等の費用は既に渡してあるので宇喜多家は赤字では無い。
本人は自覚していないのだろうが、にこにこと笑みを浮かべる直家は、機嫌が良い時の極道さんにしか見えない。
「うっ、解りました、いただきます」
「おやおや、佐久間殿。そんなあなたに、あるお方からお手紙があります」
俺たちを見ていた恵瓊が、懐からさらに一通の書簡を出して俺に渡す。
そこには、簡潔に一行だけ文字が書かれていた。
『宇喜多を信じるべからず。両城を渡すは、三城を得るための布石なり』
俺は鼻で笑って、宇喜多直家に書簡を渡す。
書状を読んだ直家の顔色が赤くなる。
「なんと書いてありました?」
すっとぼけた顔で恵瓊が俺に尋ねたので、書いてあった通りに、彼に伝える。
「さすがは、あのお方です。
宇喜多殿が高田城を佐久間殿にお渡しする所まで読んでいるとは」
恵瓊は腕組みをして、うんうんと深く頷く。
「嘘つけ。どうせ、何枚も書いておいて、場にあわせて取り出したんだろ」
「あら、バレてます?」
昔、親父の手品独演会に付き合わされたので、俺はその手の手品に詳しい。
だぶだぶとして特殊な色合いの袈裟は、意外と手品向きの服装なのである。
直家は隣で目を白黒させている。
「まぁ、いいや。城を受け取りに行く。さっさと兵たちを退去させてくれ」
「これはこれは、お速いことで」
高田城を受け取りに行くと、予想通り陣山に堅固な砦が建てられていた。
そこには毛利家の兵たちが籠る。
「やっぱり復活したのかなぁ」
本城から陣山の立派な砦をみながら独り言をもらす。
上月城、三星城、高田城(後の勝山城)が一気に俺たちの所属に入った。
領土としては、播磨国の西側と美作国の南。
あわせれば、おおよそ1国の主と言える。
とはいえ、わりと細長い領地になったので、これからの経営が大変そうだ。
周辺では、西に毛利家と接し、南では宇喜多家と接する。
北は織田家の先鋒として尼子家が旧領復活に向けて奮闘している。
「さぁて!どこから攻めましょうか、佐久間さん」
背後では、ぽえるが地図を開いて、配下武将と軍議を始めていた。
前途多難な中国地方攻略が始まった。
次回からは、イベントの新章になります。
「歴史の変わる日」




