【XVII】星 三星城攻略
「お~い佐久間殿。謀略行こうぜ~
城下町に放火するか?弱みを握って脅迫なんてのもいいな」
最近、宇喜多さんがしょっちゅう、俺の領地に遊びに来る。
まるで、野球にでも行くような気楽さでえげつないことを叫ぶからやるせない。
彼は、うちの医者が作った「良く効くクスリ」を服用したら、
すっかり病気が完治した。
復活した宇喜多直家は自領を蚕食していたプレイヤをあっという間に排除。
その手口たるや、腹痛に陥れる毒まんじゅうや、狙撃、暗殺、偽装兵によるプレイヤ連合の内部破壊、城下町への放火、その他、ありとあらゆるドギツイ手段を使ったらしい。
プレイヤの一部からは「あんまりだ」という声もあがったが、
「それが宇喜多直家だ」との意見で、一蹴されてしまった。
掲示板では、「悪人復活」「奴に触れるな」と話題になっている。
その宇喜多家と同盟を組んだわが連合は、彼の悪名で守られた。
一方で、「どう料理されるか静観しよう」という生暖かい眼で見られていた。
宇喜多直家と俺の活動はともかく、「真面目」な美作攻略として、
美作の南にある三星城への合戦準備が、ぽえると宇喜多家の家老の間でちゃくちゃくと進んでいた。
南と東から一気に挟撃するかたちで、後藤家の三星城を狙う。
そのまま三星城を橋頭堡として、高田城(勝山城)まで攻め込む予定だ。
美作は、以前は尼子家が守護を行っていた土地である。
尼子家の恩義を受けていた地侍も多く、「尼子家を助けた」というので、うちは結構人気がある。
事前の調略で、尼子勝久の一筆の威力もあって、
内通を申し出てくる武将が3人もでた。
ゲームで三星城は、本丸と二の丸がある中規模の山城である。
本丸は、3つの山の頂が各々廓として防御施設群となり、それらに囲まれた中心部に本城がある。
二の丸は本丸よりも下の中腹のなだらかな山肌を削って武家屋敷などの居住空間を兼ねた形で広がる。
この城の代々の城主後藤氏は、この城から、美作の南東部を掌握していた。
今、その山城を佐久間・江利津連合1万、宇喜多2万の兵が囲む。
宇喜多家は今後の戦に備えた後詰。俺とぽえるの手勢だけで城を攻略している。
佐久間家からは、上月城の兵力もあわせ、7000の兵が参加。
本陣1000が、俺、三毛村さん、信康。
それから情報伝達のために健太郎と忍者隊。
さらに、尼子家から客将として桃井太郎の介という配下武将を借りている。
ここは本陣と言いながら実際は後詰。
二番隊3000が、今回の主軸。元太を主将に、相馬姉弟。
三番隊、四番隊は各1500ずつで両翼を担う。ここは中原と八野、それから茂武兄弟におまかせ。
山城であるため、攻め口が限られている。
それがこの城の強みであるが、逆に言えばその場所さえ調略してしまえば、あっさり中に入れる。
大手門から攻撃勢が大音声で攻め込む。
まずは、中腹にある二の丸を目指す。
門前でしばらく戦闘をし、頃合いを計り、桃井に合図をする。
「我こそは、代々尼子に仕える武将、桃井太郎の介。
美作の国人たち、いまこそ、尼子への返り忠を見せる時ぞ!」
調略のために、尼子勝久の配下武将を客将として借り出している。
彼が叫ぶと、大手門の中で、一瞬の沈黙が流れる。
その沈黙を破るように、内側から門が大きく開いた。
「我は、犬飼一太!尼子の恩義に答え、開門いたす!」
「同じく、雉村三郎。桃井殿、櫓を手土産に返り忠じゃ!」
大手門のそばにあった櫓からも反応があり、櫓にあがっていた後藤家の旗が、全て白旗と取り換えられる。
「突き進めぇ!」
元太の大声が戦場に響き渡り、兵士たちは門の内側に飛び込んだ。
うち合わせていたので、犬飼、雉村の配下は腕に桃色の端切れをつけている。
敵方の混乱の中、かえでさんが槍を振り回しながら兵士を率いて突撃していく。
元太は、かえでさんがこじ開けた穴を埋めるように配下の兵士を配置し、犬飼と雉村の身元確保を急ぐ。
返り忠をしてくれた武将を討たれてしまうと、佐久間家は後々の信頼を失ってしまう。
彼らの安全はきっちりと確保しておかなければならない。
門の守将と櫓の守将が同時に寝返ったということもあり、元太の迅速な展開のおかげで最悪の事態は避ける事が出来た。
「桃井殿!」
「久方ぶりじゃ!犬飼、雉村ぁ!」
三人のおっさんが抱き合って、再会を喜び合う。
「元太も、なかなかやるようになったな。昔みたいに突撃すると思ってた」
「彼も和尚さんからいろいろと教わっているのじゃぁ」
三毛村さんが、毛づくろいをしながら応える。今回、元太を主将に推薦したのは三毛村さん。
我が家の構成上、元太にはもう少し武勲が欲しかったので認めたのだが、予想以上にやってくれた。
「お館さま、まだ二の丸をおとしただけじゃ」
「おっと、これからが本番だな」
山城は、良くも悪くも、自然の山の地形に左右される。
この三星城は、その名前の由来の通り、山の三つの頂きを防御陣地としているのだが、正確な三角形では無く、北側が大きく離れた、二等辺三角形になっている。
そして、二等辺三角形の重心部分にこの城の中心、本城が位置する。
二等辺三角形の各頂点は物見も兼ねた防衛拠点となっており、本城を含めた4拠点が連携した防御がこの城のキモである。
我々は槍隊の特性である「移動地形対応能力」を駆使して山肌を伝って進撃し、途中で隊を分散する。
元太とぽえるの本隊が本城を攻撃し、北郭は俺の本隊が相手どり、東西は三番隊四番隊が布陣して連携行動を阻害する。
■
北郭には、大きめの櫓があり、その銃眼からは無数の銃器がこちらを狙っていた。
櫓の前には、逆茂木が巡らされ、ざっと1000前後の敵兵がたむろしている。
「来たか、放火魔め。うちの城下町に放火をしたのはその方であろう!」
兵たちを率いる武将らしき男が、俺を指さして大音声をあげる。
「いや、それは断じて違う!そっちの火の用心が足りないのであろう」
俺は、一度たりとも放火をした事は無い。
無いはずなんだけれども、やけに悪名ばかり流れるのはなんとかしてほしい。
「そういえば、お館さま、宇喜多和泉守殿が、城下町でなにやらされておりましたぞ」
「えっ……」
空気を読まない健太郎の突っ込みに、その場が凍る。
「ほうれみろ。貴様の差し金だな」
「……、か、かかれぇ!やってしまえ」
言葉に詰まった俺は、悪役まるだしで突撃を指示する。
兵士たちの突撃の声が、いろいろな空気を押し流してくれた。
「弾幕薄いぞ、猿野!」
敵将の大声に答えて、櫓の窓から、もみあげの濃い、猿顔の男が顔を出した。
「うわぁ、火薬が雨にぬれて使い物にならんぞう」
彼はガチガチの棒読みで説明的なセリフを叫ぶ。
「いや、ここしばらく晴れてたぞ」
呆れた顔で敵将が突っ込む。
(やっぱり猿芝居だ)
(アイツ、昔からバカだからな)
(やめろよ、猿野はやるときにはやる子なんだよ!)
背後で、桃、犬、雉のひそひそ話がうるさい。
「そ、そうだ。昨日、酒を飲んでてこぼしちゃったんですよ~」
「嘘つけぇ!お前、下戸じゃねぇかよ」
「いや、昨日いきなり呑めるようになったんですよ」
「寝小便垂れが呑めるわけが無い!貴様、寝返ったな!」
「違います!寝返りはしましたが、寝小便はしてません!」
(アイツ、まだ寝小便してるのか?)
(戦の前は緊張してしちゃうみたいですよ。公然の秘密ですが)
(ぷぷ、やっぱり猿頭だな)
相変わらず、後ろの三人組がうるさい。お前らも突撃しろよ と言いたくなる。
「猿野殿、やつを撃て!やつを野放しにすると、お前の秘密がばれるぞ」
こんな場面でアホらしいが、俺は敵将を指さしながら『脅迫』スキルを使用して脅迫してみる。
「さ、佐久間殿ぉ……。こうなったら破れかぶれじゃ!」
こうして、北郭を預かる武将は、背後の味方からの銃撃でその幕を閉じた。
守将を失った兵たちを、信康が『勧誘』して取りまとめ、武装解除していく。
彼も和尚に学んでいるせいか、硬軟混ぜ合わせた対応が出来るようになってきた。
「も、桃井殿ぉ。おら、おらぁ」
「猿野!敵将を討ちとっての返り忠、みごとであった!」
「さすがは猿野。やるときにはやると思っていたぞ」
彼ら四人の友情(?)を尻目に、北郭を信康に任せ、俺は本城に向かった。
■
本城では、激戦が繰り広げられている。
佐久間家と江利津家の精鋭各3000が交互に城を叩くが、決め手に欠け、疲労が溜まっていく。
だが、それは数で劣る守備兵側も同じで、彼らの息は乱れ、弓を射る肩が上がっていない。
「ぽえる~、状況はどうだ?」
「順調というのもなんですが、予定通りに膠着しています」
ぽえるが腕組みをしながら、現れる。
「さすがに、しぶといですね」
「それはしょうがない。毛利にばれると困るから、攻城兵器はあまり持ってきてないからな」
「じゃ、うちが最後の突撃をします。後は任せましたよ」
「任せとけ」
ぽえるとわかれ、俺は自軍の兵士たちの前に立つ。
スキルリストから『鼓舞』を選択、使用。
「さぁて、北郭は落とした。やつらは孤軍!叩けぇ!」
このゲーム、兵たちの疲労も「士気」という数字で一本化されている。
『鼓舞』は魅力依存のスキルであるため、魅力特化の俺が使えば、通常成功で士気60もの上昇が見込まれる。
今朝からの激戦で減少した士気は、あっという間に初期値に戻った。
「既に、食糧はこちらで押えました。ここで踏ん張っても犬死にです!」
攻め口から引きながら、ぽえるが駄目押しにスキル『混乱』を仕掛け、敵の士気を削ぐ。
敵方の内部崩壊が始まり、その混乱に乗じて、士気最大値の部隊が突撃。
あっけなく、本城を制圧した。ときの声が城郭を震わす。
残された東西の城郭も本城の陥落を知って降服した。
■
事後処理を三毛村さんに任せて、一息ついていたら、山のふもとから宇喜多直家があがってきた。
「佐久間殿、まずは、めでたい、というところだが、我らが陣に、安国時恵瓊が来た。
我々両名と会合を持ちたい とのことだ。どうする?」
「行こう」
この展開も予想の範囲内にある。
だが、思ってた以上に早い。
ぽえるの予想では、もう数手先、三星城を拠点に、高山城に取りついた後になるはずであった。
不安を抱えながら、俺は宇喜多直家とともに、山を降りて行った。




