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【Ⅳ】皇帝 ~第六天魔王~

三人そろって、妙な夢(?)を見たので、小浜海岸で心の洗濯。

色とりどりの水着を着た美女たちに囲まれて来た。

地元のAI村娘を雇った海の家。

かき氷に焼きそば、ラーメンまである。

食物系アイテムの充実は、味を求めて試行錯誤を重ねた調理人達の苦心の結果。

他の生産スキルと異なり、調理の場合、材料アイテムの味が「混ざる」事を利用している。

きゅうりとはちみつを混ぜてシロップにした「メロンかき氷」は、定番ながら美味かった。

ぶっちゃけ、ここまで来ると戦国時代じゃないよね。


「これはこれは、お暑い中、ようこそお越しになられました」

若狭の国に到着した俺たちは、羽柴家家老に歓迎された。

「おう、よく来たな、佐久間殿」

コネ効果で、奥まで案内されると、秀吉がいつもの地声で迎えてくれる。

「何だ?おなごの色香に酔った顔をしておるぞ」

何もかもお見通しのようだ。

「実は、毛利家からこのようなものが来たので、相談に来ました」

懐から、アイテム「毛利元就直筆の書状」を取り出す。

「ふぅむ、封をしたままとは、その心がけありがたし」

御目付け役の諸将を集めた中で、秀吉の家老の手で書状の封が解かれ、開かれる。

「え~、え~と……」

家老が書状を読み上げようとしたが、一字も読まないうちから困惑した顔で手元を見つめる。

「読めない漢字でもあったか?」

家老が言いにくそうにへどもどしているのを、秀吉が横から茶化す。

「つるさんはまるまるむし でする」

「は?」

「ご覧あれ」

家老がこちら側にむけて書状を広げると、墨痕鮮やかに「つるさんはまるまるむし」が描かれていた。

芸術には疎いが、名のある書道家が元を書いたものなのだろう、達筆で上手い。

単純な絵が、表情までわかるように生き生きと描かれている。

そして、ちゃんと毛利元就の花押付き。

「むぅ。こ、これは!?」

あきれ顔の武将達の中から、一人の青白い顔をした武将が身を乗りだす。

「知っているのか、半兵衛!?」

「はい。古事記の時代、貴族の間ではへのへのもへじの書き方ひとつで己の感情を伝えたといいます」

秀吉の謀臣の一人、竹中半兵衛が続ける。

「この「三」の墨痕の薄さは、彼が敗戦については気にしていない事を表わしています。

ですが、その下にある「ハ」の角度は深く、今後のあり方に悩んでいると思われます」

「ほほう、この絵ひとつからそこまで解るのか」

「これは、上様にお見せしたほうがよろしいかと」

「佐久間殿、すまぬが岐阜へ向かってもらえないか?こちらで手配をしておく」

「わ、わかりました」


【クエスト 「覇者との会見」 が開始されました】

勢いでクエストをうけてしまったが、古事記の時代って何だよ……

へのへのもへじも、つるさんはまるまるむしも、戦国時代ではまだ出来てねぇよ!


織田信長は、戦国時代を語るのに外せない超大物。

このゲーム内では、アカデミー賞を取ったこともある超大物俳優が演じている。

彼の動きや表情がゲームに取り込まれた、迫力のあるキャラクターだ。

秀吉や義輝さんにも役者がついているのだが、ネームバリューでも(演技の)迫力においても、正直なところ、信長を演じる超大物俳優にはかなり劣る。

織田信長という「ゲームキャラ」であるが、中身はガチのアカデミー俳優。

一般人なら、会っただけでも話題にできる大物だ。


転移を駆使して岐阜城下までたどり着くと、秀吉の家老が先駆していた。

彼と城門前で落ち合うと、すぐに織田信長に会える運びとなった。

岐阜城の城内を小姓に案内されながら歩く。

長い廊下を歩いているうちに、だんだん緊張してきた。

深呼吸してみても鼓動が収まらなかったので、気持ちを落ち着けるためにネットで転がっていた緊張緩和法を試してみることにした。

その方法とは、頭の中で信長の異名を思い浮かべるだけ。


『第六天魔王(自称)』


「ぷっ」

「佐久間殿、どうかなされましたか?」

思わず噴き出した俺を、先に立って先導する小姓が怪訝な顔で俺の方を見る。

「い、いや何でも無い」

この「厨二」風あふれる名前を使っていたとか……。

良い具合に緊張がほぐれた所で、書斎に到着した。


小姓が開いたふすまの奥に、一人の男が座っていた。

総髪を後ろにたらし、菖蒲柄の小袖を着流しにしている。

鋭い眼光でこちらを見つめる大物俳優。

殺陣のアクションに定評があり、彼抜きでは語れない映画が多数ある。

「こうやって話すのは初めてだな、両川返しの佐久間うじ。気楽にしてくれ」

「佐久間律人です。播磨の東端に城を構える小族です」

「ふふ、謙遜するな。

中国の雄、毛利元就が自慢の息子たちを、手玉に取ったその手腕、見事である!」

「ありがとうございます」

「時に、ひとつ頼みがあるのだが、良いか?何、難しいことではない」

「はい、なんなりと」

「知っての通り、武田家と近いうちに大きな戦が起こるであろう。

そこで、毛利という大大名を退けた汝に、戦の準備で手抜かりが無いか、見て来て欲しいのだ。

不備があればその場で城主に進言せよ。その権限を与えよう」


【クエスト 「戦目付け」 が開始されました】

【戦目付け権限(織田家)を入手しました(7日間)】


戦火の及ばぬ西方で、のんびりとやりすごすつもりであった「松平家VS武田家」の大合戦。

いつの間にか巻き込まれていくのだった。

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