軍師 江利津ぽえる
秀吉の来訪の翌々日。
来たる毛利の来襲に備え、(プレイヤの)お隣さんに挨拶に行くことにした。
敵は大軍。少しでも味方を増やしておきたい。
甘栗忍者隊による諜報活動の結果、上月城に短期間で進軍可能なプレイヤが、俺の他にもいた。
他のプレイヤ達は、もっと離れたところに出入り口があり、何れも部隊連れなら数日はかかる距離だ。
このゲームでは、他のプレイヤの出入り口は、探し当てないと何処にあるのかすらもわからない。
「発見」して初めて、地図に記されることになるので、赤影さんチのように「忍者の隠れ里」と化していると、見つけることすらできない。
流水斎の調査の結果、お隣さんプレイヤの名は「江利津 ぽえる」とわかった。
ネットに転がる情報では、罠を得意とする知力特化のプレイヤである。
戦闘が大規模になればなるほど、知力特化の武将の出番。
「知力特化」の武将は、「策」や「罠」を使い、部隊単位で敵の士気を削る。
士気が低下すれば、敵部隊は攻撃力や防御力、移動力が低下し、脱走兵が発生する。
そして、最後には部隊が空中分解してしまう。
俺は、馬に乗って高倉山を越えていく。
所詮は数百m級の高さなので、なだらかな山道。
これから戦火に包まれる土地ではあるが、今はまだ静かなものだ。
白旗山に入り、山道を歩くと「ここから、江利津家領地」の立札を見つけた。
悔しいが、白旗山はうちの高倉山よりちょっと高いな。
実際に行き来してみると、うちから数キロ圏内のお隣さん。
ここまで近くだと、ちゃんと仲良くしておかねば、今後の活動に支障が出る。
今回のお供は、三毛村さんと流水斎。
「楽しみだ。楽しみだ。どんな策士なのだろうかぁ」
「敵中視察とは腕がなりまする」
今回は能力値で選んでみたのだが、ぱっと見は、三毛猫と白髪の老人を従えた豪族。
多少は怪しいが、警戒心を抱かせないための構成だ。
「お館さま、足に泥がついておりますぞ」
流水斎が近寄ってきて、俺の靴の泥を落とすふりをしながら囁く。
(忍び5人ほどに囲まれております)
「ありがとう、流水斎。また気が付いたら言ってくれ」
周囲の忍者を気にしないようにしながら、江利津家領地への入口をくぐった。
■
軽い浮遊感ののち、江利津家領地へと転送される。
プレイヤの領地は、何処も基本的つくりは同じ。
山に囲まれた盆地の中に、城や城下町が広がっている。
緩やかな川も流れているので、場所を選べば釣りや、泳ぐこともできる。
城下町へと繋がる道を歩いていくと、途中で森が途切れ、眼下に町が一望できる。
この領地では、城を中心にして、周囲を囲むように城下町が広がっていた。
城下町は、向かって左手に食糧生産区域、右手に商業区域、左手奥に兵士詰所や訓練所、右手奥に鍛冶屋や鉄砲鍛冶と、各施設の性格にあわせてきっちりと区画整理がなされている。
ここの豪族はかなり几帳面な性格であるらしい。
さらに、うちの領地ではまだ建設していない、「防衛系施設」(櫓など)が要所要所に散見される。
防衛系施設が設置されていると、自領地で防戦をする時にボーナスが付く。
さらに、防衛系施設に隣接して森林が設置され、伏兵を置きやすくしてある。
この江利津領、城下町そのものが、防衛の意志を持って城塞化されている。
「むむぅ、これは堅い領地ぞなぁ。うちとは大違いじゃ」
流水斎に抱かれながら、三毛村さんも猫舌を巻いている。
予めメールしておいたので、一人の配下武将が城下町の入口付近で待っていてくれた。
「佐久間内膳正様と配下の方々ですね。ようこそ、江利津領へいらっしゃました」
年のころは30代くらい。狩衣を着こなした、見栄えのいい武将だ。
今回は相馬を連れてきていないので能力値の看破は大雑把にしかできないが、かなり優秀な武将だ。
「お館さまがお待ちです」
彼は我々に一礼すると、すたすたと城下町を歩いていく。
城下町の人々は、皆てきぱきと活動している。
雰囲気としては、尾張の派手さではなく三河か甲府の質実さに近い。
■
城下町を通り抜け、城に向かう。
そして、城の中心部にある、大広間に通される。
上座には水干に烏帽子、羽毛扇を持った、中学生くらいの少女が座っていた。
烏帽子からは、広めのおでこと三つ編みのおさげが2本はみ出ている。
「初めまして、佐久間さん。私が江利津ぽえるです」
彼女は外見通りの幼い声で迎えてくれる。
「初めまして。佐久間律人です」
「本日は、どのようなご用件でしょうか?」
「単刀直入にいうと、もうすぐ、毛利家の大軍がこの辺りに進撃して来る。
それを撃退しようと思っているんだが、手を貸してくれないかな?」
「第二次上月城の戦いですね。どのように対峙されるおつもりですか?」
「上月城の尼子家とはコネを結んである。向こうの兵力は3千程度。
うちは4千。江利津さんとこも似たようなもんだろ?3つ合わせれば万を超える」
「籠城戦であれば、4万対1万で守り抜けるかもしれませんがねぇ」
彼女は、不満げに頬を膨らませながら考え込む。
長期間拘束され、いつ終わるかわからない籠城戦は、プレイヤにとって面白い物ではない。
「じつは、ちょっと考えていることがあるんだ。
でも、それを行うには、知力特化の武将が必要になる」
俺は、彼女に今回考えている策戦を語った。
どう考えても詐欺のようなものであるし、本当にうまくいくのか、確証はない。
彼女は、聞き終わった後、いきなり大爆笑を始めた。
「あははは、これはツボに入りました 苦しい……
でも、本当に成功しますかねぇ?」
「わからない。でも、派手な方が面白いだろ?」
「確かに、とってもおもしろそうです。
流石は、甲府の放火魔さんです。是非、参加させてください」
彼女はにこりと笑って即答する。
「といっても、ご覧のとおり私は中学生なので、門限というか、ゲーム時間が限られています。
どこまでお力になれるかわかりませんが」
中学生というわりには、受け答えがしっかりしていて、大人びた印象を受ける。
「いやいや、それでもありがたいよ。今回の策戦、君がいないとうまくいかないからね」
「そう言われると、少し照れちゃいますね。
至らぬところもあるかと思いますが、よろしくお願いします」
毛利方が上月城に到着するまで、あと5日。
こちらも、強力な味方が参戦した。




