鬼が島6 剣と鬼
■easy
「負けないぞぉ。じゃ~んけん ほい!」
「ほい」
ゲーム紹介動画の中では、H&K G48の女の子たちと、
頭に小さな角の生えた、鬼の女の子たちがじゃんけんをしている。
行われているのは、3回勝負のじゃんけん。
勝ったら神器がもらえ、負けたら、顔に墨でいたずら書きをされる。
夏のまぶしい太陽の下、青い海と白い砂浜を背景に、ビキニ姿の女子たちが和気藹々と戯れていた。
年齢制限の無いゲームなので、ポロリは無いよ?
■ExHard
じめついた鍾乳洞の中、ヒカリゴケの怪しい光に照らし出されながら、
我々は鬼と激闘を繰り広げている。
3回勝負は、いまのところ一勝一敗。
幸い、双方にまだ死者は出ていない。
第一戦は、鷹目の機転で勝利
第二戦は、知能戦と化した鬼ごっこで敗退。
全く走った記憶がない。
ここまで、双方ギリギリの戦いを繰り広げている。
残った鬼は2人。こちらも出場していないのは2人。
「第三回戦。今回は真っ向勝負のガチ戦闘だ。
先に言っておくが、外野からの攻撃は無しだぞ」
黒鬼が力を込めると、体中の筋肉が肥大化し、体格が一回り大きくなる。
そしてもう一人、三つ目の鬼が一歩前に出る。
こいつも黒鬼に負けず劣らず、立派なガタイをしている。
こちらからは、ほえもんさんと赤影さんが競技台の上に登る。
鬼側からは、黒鬼と三つ目鬼が、反対側から台の上に飛び乗る。
心なしか、洞窟の中の空気が変わったような気がした。
「で、もう始めていいのか?」
ほえもんさんが、無造作に黒鬼に尋ねる。
「あぁ、そういえば何も言ってなかったな。
そっちが良いなら、こっちは何時でもいいぞ」
黒鬼は、何処からか取り出した金棒を握りしめ、ニヤリと笑いながら答える。
典型的な、いぼいぼのついた「鬼の金棒」だ。
三つ目鬼は素手。両の拳をガンガンと打ち付けてこっちを威圧しようとしている。
赤影さんは忍者らしく、真っ直ぐな忍刀が得物だ。
皆の視線を一身に受けながら、ほえもんさんがゆっくりと刀を抜く。
独特の刃紋を持つ、国宝級業物<三日月宗近>。
そして、もう一本。こちらもその輝きから、名のある業物に思える。
ほえもんさんが刀を抜いて構えると、焦れたように黒鬼が金棒を振りかざし走り寄ってくる。
体重の重さか気合いの入り方なのか、地響きが競技台を小刻みに揺らす。
横あいから赤影さんが手裏剣を投げるが、黒鬼の鋼のような皮膚にあっさりと弾かれる。
「堅いな」
「ま、鍛えてるんだろ」
「まかせた」
「おう、任された」
赤影さんは、突進してくる黒鬼を迂回して三つ目鬼の方へ向かった。
黒鬼は赤影さんを無視し、真っ直ぐにほえもんさんのもとへ駆け寄り、金棒を振り下ろす。
地面が砕けるかのような轟音が洞窟に響き渡る。
金棒がぶつかった場所は地面が大きく窪み、鬼の怪力を物語っている。
ほえもんさんが、一撃をかわした勢いを利用して斬りかかるが、黒鬼は腕一本で軽々と金棒を持ち上げ、その斬撃を受け止める。
そして、空いた片手でほえもんさんの顔面を握りつぶそうと手を伸ばすが、軽々とかわされ、ほえもんさんの後ろにあった石筍が鬼の「握力」で粉々に握りつぶされた。
「人間のくせに、なかなかやるな」
抉り取った石筍のかけらを、手の中でさらに細かく砕きながら黒鬼が笑う。
「どういたしまして」
ほえもんさんが軽く受け流す。
■
赤影さんは三つ目鬼に駆け寄ると、先手を取っていきなり三つ目鬼に目つぶしを食らわせた。
意表を突かれた三つ目鬼は、もろに目つぶしを顔面に喰らい、派手にのた打ち回っている。
目つぶしの材料は、唐辛子などの刺激物の粉末。
なまじ目が三つもあるだけに、普通の人の1.5倍痛そうだ。
「卑怯だぞ!」
目の見えない三つ目鬼は滅茶苦茶に腕を振り回すが、赤影さんには当たらない。
「鷹目!すまんが、銃貸してくれ」
「いいよ。いくついる?それとも、いっそ、私が撃っとく?」
「いや、それはさすがに反則だろ」
目つぶししておいて銃撃かぁ、さすが赤影さん、やることがえげつない。
「やらせるか!神通力『手の目』!」
顔面を涙と鼻水まみれにしながら、三つ目鬼が両手を軽く打ち合わせ、手のひらをこちらに向ける。
手のひらにざっくりと切れ目ができたかと思うと、みるみる大きく割れて、切れ目からギョロリとこちらを睨む目玉が現れた。
「うわ!」「キモイ……」
三つ目鬼は雄叫びをあげながら、目玉のついた手で、関取のように激しい突っ張りをしてくる。
「ちっ」
赤影さんはひとつ舌打ちをすると、ひらひらと回避に専念しながら、再度の目つぶしの機会を伺う。
■
「神通力『如意棍』!」
黒鬼が叫ぶと、金棒が一気に5mほどにまで伸長した。
黒鬼は伸びたままの金棒を力任せに薙ぎ払い、石筍を砕く。
「伸縮自在の金棒、どこまで捌き切れるか、見せてもらおう」
金棒を元の大きさに戻しながら、黒鬼が吠える。
「不意打ちで使えば良いものを、ずいぶん正直だな」
「鬼は、嘘をつかないのさ」
「そうか。それはありがたい」
ほえもんさんのガチ戦闘を見るのはこれで二度目だ。
一度目は、剣豪将軍足利義輝との戦闘。
義輝とほえもんさんは、激しく刀を打ちつけ合っていた。
業物で無ければ、折れていたであろうほどの剛剣の応酬。
剣の鬼と鬼がぶつかり合っているような勝負だった。
そして、義輝は片腕を失い、お互いの心身を削りあった形で勝敗がついた。
だが、あのときと比べると、ほえもんさんの動きに、「軽い」ものを感じる。
悪い意味で無く、良い意味での「軽さ」。
柔かさと言った方がしっくりする。
全身の力がいい感じに抜けている というような……
まるで、佐野の特訓のときの上泉伊勢守のようだ。
■
三つ目鬼は、巨体でありながら俊敏に動く。
その姿は熟練した横綱のように、対峙する赤影さんを土俵際に追い詰めていく。
顔の三つ目もようやく目つぶしが薄れてきたのか、うすく目を開けている。
だが、その三つ目鬼が突如動きを止め、地面に座り込んだ。
「うぅ、よ、酔った……気持ち悪い」
手に目があって、その手を振り回しているんだから、
手ブレ補正機能でもない限り、いつかそうなるわなぁ。
赤影さんは、これを狙っていたのか!
その隙を逃さず、赤影さんが顔面に再度の目つぶしをぶつける。
「ぐっ」
三つ目鬼は直撃した唐辛子の粉の痛みに耐えきれず、手で目をこすった。
「うぎゃぁぁぁ!!」
今度は目が5個だから、普通の人の2.5倍の痛みだ。
いろいろと忙しい鬼だな。
■
黒鬼は強い。
そのバカげた膂力といい、金棒捌きといい、人外も甚だしい。
下手に獲物を打ち合わせようものなら、刀が折れかねない。
だが、ほえもんさんは、最低限の接触で金棒の方向をずらしている。
それは、金棒の動きをけん制し、黒鬼に行動の自由を与えない。
黒鬼は金棒を特定の場所に打ち込むしかなく、あっけなくかわされる。
一撃で相手を倒せる金棒と、黒金の皮膚を備えた黒鬼。
金棒の豪快な空振りが何合か続いた後、ほえもんさんが無造作に黒鬼の首筋に刀を突きいれる。
その一刀は、黒鬼の首筋を浅く切り裂き、血がだらだらと流れ落ちる。
黒鬼がひるんだ隙に、ほえもんさんは刀を振りかぶり、渾身の一撃を黒鬼の正面から撃ちこむ。
黒鬼は金棒でその一撃を受け止めるが、金棒は真っ二つに両断された。
「ふぅ、勝機が見えんな。こっちの負けだ」
黒鬼は、諦め顔で両断された金棒をガラリと地面に放り出した。
「やけに、諦めが良いな?」
「そりゃ、鬼だからな。人間と違って引き時くらいはおさえているさ
一撃当てれば と思っていたが、あんた強いな」
黒鬼は、懐から1枚の円形の鏡を取り出し、ほえもんさんに投げる。
「約束の神器だ。持って行け。楽しかったぜ お前ら」
黄色鬼が、俺の方を見ながら手を振っている。
あんな鬼ごっこは初めてだったが、楽しかった。
【おめでとうございます 八咫の鏡を入手しました】
そして、黒鬼たちは、洞窟の出入り口から帰っていった。
これで、神器は2つ目。
残すところは、最後のひとつ、草薙の剣こと天叢雲剣。
伝説だと、ヤマタノオロチの尻尾から出てきた と言われているが……
以前のドラゴン戦をふと思い出す。えげつないドラゴンだったな。
海竜退治は勘弁だ。
次回「鬼が島7 鬼人狼ゲーム」




