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鬼が島4 呪いの首無し人形

イベント3日目。


情報板に、数多くの神器発見報告が上がっている。

だが、今回のイベントはランダム性が高く、他人の状況はあまり参考にならない。

「コテージの戸棚の中にあった」「ヤシの実を割ったら入っていた」という報告まであり、

神器を隠した鬼(というか、運営)の気がしれない。


いつものように、鼻の孔洞窟に集合。

「情報板見た?コテージの戸棚にあった ってやつ」

「見た見た。コテージに戻ってみるか?」

自動帰還(リタイア)のついでに見てきたけど、何もなかったよ」

じつは、コテージには新アイテム「水着」が置いてある。

H&K(へいあんきょう) G48が水着姿でバカンスしている動画が、何本もアップされている。

波野や鷹目の水着姿に興味が無いわけではないが、砂浜が最高危険地帯である現在、水着の話は切り出すことができない。

難易度ExHardの鬼が島では、海岸に巨大な海竜が出没する。

その口から吹き出す「ウォーターブレス」は、直撃すると武力80未満のキャラを一撃で自動撤退(リタイア)に追い込むという。

そんな状況下では、水着は「死に装束」浜辺は「賽の河原」。

「じゃ、みんなで泳ごう」と言われると、泣きが入りそうだ。


「そういえば、この洞窟って右穴?左穴?」

佐野に言われるまで、まったく失念していた。

鼻の孔なら2つあるはずじゃないか。


全員がそろってから、洞窟を出て鼻の山を注意しながら回ってみる。

我々の居たのは右の孔。よくよく探してみると、ちゃんと左の孔もあった。

何故、今まで気が付かなかったか というと、左の孔は生い茂る藪と蔦によって、

巧妙に隠されていたからだ。

場所のアタリをつけ、藪と蔦を切り開いていくと、洞窟を見つけることが出来た。

洞窟の中を覗いて見ると右の孔のようにすぐに行き止まりになっているわけではなく、

下の方に向かって、階段のように石が切りこまれた洞窟が長々と続いている。

「入ってみよう」

誰が言うともなく提案し、我々は洞窟に入っていく。

洞窟の中は、「ヒカリゴケ」が常備されており、照明に困らないのがありがたい。

正直なところ、「明り」でどうこう怒られる電源系ゲームって、あんまり無いよなぁ。

稀に、鬼畜なゲームで松明などの「明り」枠で貴重なインベントリを奪っていくのもあるが、

たいていのダンジョンでは、何故か明るいように思える。

洞窟は、途中から鍾乳石がぶら下がっていた。

頭上と足元に注意をしながら進む。

ここが「鼻の孔」であることを思うと、天井からぶら下がる鍾乳石は

なんとなく意味深だが、気にしないことにした。


周囲に気を付けながら、鍾乳洞をしばらく進む。

15分ほど歩いたところで、開けた場所に出た。

その場所は鍾乳石も石筍も無く、直径10mほどの丸い部屋。

そして、中央に直径5mほど、高さ50センチほどに盛り上がっている、

平たい円形の台があった。

実もふたもない言い方をすれば、天下一武闘会の「コロシアム」的な空間。

そして、その台の向こう側に、奥へと続く道がある。

「これは、もしかすると、アレかな?」

「たぶん、アレだよね」


案の定、その部屋の中に我々全員が入ると、逆側の道から鬼たちがぞろぞろと現れる。

先頭に立つのは、筋骨隆々とした野性味を帯びた、黒い肌の鬼。

彼の後ろには、赤や青などのさまざまな肌の色をした、5人の鬼たちが立ち並ぶ。

いっちゃあ悪いが、ぱっと見「戦隊もの」的な集団にしか見えない。


「やれやれ。こんな所まで追ってくるとはご苦労な事だ」

黒い鬼は、呆れたように首をすくめる。

「追い詰めたぜ!さっさと神器を返してもらおう」

佐野が詰め寄る。

「まぁ、そう青筋立てなさんな。面白い趣向をしよう。

我々は6人、貴様らも6人。2人ずつ組んで3回勝負だ。

2回以上勝てた方の勝ち。クールなゲームだろう?」

「何を賭ける?」

「お前らが勝ったら、この八咫の鏡を持って行け。

俺達が勝ったら、銀1万枚もらうぞ」

「いいだろう」

ま、銀さえ払えば、何回でも挑戦できる ってことか。



黒い鬼が言葉を続ける。

「第一勝負は、芸術比べ。

どちらが優れた人形(フィギュア)を作れるか、勝負だ!」

鬼たちの中から、2人の鬼が待っていたかのように、前に出てくる。

「こちらは、青鬼と赤鬼がでる」

でっぷり太って、眼鏡をかけた青鬼。

がりがりにやせて、かくかくした動きの赤鬼。

インドア派の鬼が2人出てきたようだ。


「誰がでる?」

一応みんなで確認するが、生産といえば、波野はほぼ確定。

あともう一人。

「じゃ、愛香と私ね」

鷹目が自薦する。

手先の器用さを現す「技術」の能力値なら、この2人が我々の中で最も高い。

「こっちは、この2人だ」

ほえもんさんが、鷹目と波野を指さす。

2人が、前に出る。

「ふん、人形遊びじゃ無いってことを、教えてやれ。

赤鬼、青鬼!制限時間は30分。はじめぇい!」

黒鬼の号令で勝負が始まった!


いつの間にか、洞窟の中央に2卓のテーブルが置かれている。

我々が相談している間に、鬼たちが頑張って準備をしてくれたらしい。

テーブルの上には各種の細工工具や、木切れ、いろんな色の布切れ、

その他、人形作りに使いそうな材料が並ぶ。

波野と鷹目は、手じかなテーブルに駆け寄り、製作に取りかかる。

鬼コンビもテーブルに駆け寄り、赤鬼は布を裁断して人形の服を作り、

青鬼は木を削って人形の型を作る。


「製作」というのは、基本的に粘土細工のような一面がある。

一般人が鍛冶や木工などを習得しているはずはない。

メニューから製作画面を呼び出すと、どんな材料を使うのかの指定ができる。

そして、「粘土細工」で形を調整し、材料の素材に「変換」を行う。

例えば、「槍」を作るのなら、まずは、穂先の部分(材料:鋼)を作る。

材料を設定すると、粘土が「出て」くるので、これを捏ね上げて望みの穂先の形に成型する。

次に、柄の部分(材料:XXの木)を細工して作り上げ、穂先と合体させる。

多少のでこぼこ程度なら、あとで補正される。

そして、くっ付けたあとに「変換」とすると、粘土の部分部分が、予め指定された材料に変換され、

完成品の出来上がり となる。

変換のとき、補正が入るので「ヘタ」な小刀は、包丁に自動補正されてしまうこともありうる。

もっと下手な小刀だと、工芸品という名の、お飾りになることすらありうる。

武器や鎧などを目的とした、鍛冶スキルであれば、いくつかの金属等を混ぜ合わせた「合金」も可能。


だが、今回は人形なので(さすがにプラスチック系素材は無いので)材料は木がメイン。

それを成形、着色し、衣服を着せるような形になる。

波野は手早く人形を作っていく。

頭、腕、脚などのパーツごとに木切れを仕上げていき、その傍ら、彩色を行ったり、服を仕上げたり、

まるで千手観音のような勢いで製作に取り掛かっている。

さすがに、製作にかけてはこのゲーム屈指 といわれる生産の凄腕は違う。

一方で、鷹目はアイテム袋から銃を取出し、照準を調整したり、

いつでも撃てるように弾込めをしたりしている。


「25分経過!」

黒鬼が、何処から取り出したのか、懐中時計を見ながら叫ぶ。

こっちも、「メニュー画面」の端に表示される、デジタル時計で確認できる。


「出来たぞ!」

赤鬼が、勝利の雄叫びともいえるような大声で、自分たちが作った人形(フィギュア)を天高く掲げる。

遠目ではあるが、かなり手の凝ったつくりのようだ。

金髪にくるくるのお嬢様パーマ、巨乳と、誰かが喜びそうな要素が盛りだくさんに含まれている。

さらに服装も、普通に着ている人は絶対に無さそうな、どこかの魔法少女的なものだ。

運営は何を考えて、このAIを持ってきたのやら。

一方、こちらの人形は、まだ製作途中。

長い黒髪にきらびやかな小袖をまとった、和風美人。

形には成ってはいるけれど、やはり時間が足りず、造形が甘いような気がする。


赤鬼がこれ見よがしに、こちらに人形を見せつけたとき。

この勝負を通じて、初めて鷹目が大きく動いた。

彼女は無造作に銃を構え、赤鬼が頭上高く掲げた人形を打ち抜いた。

銃弾は、正確に人形の首から上を吹き飛ばす。

まるでホラー映画のように、「首から下だけ」の人形が、赤鬼の手の中でぶらぶらと揺れている。

赤鬼の顔は真っ青になっている。青鬼も(わかりにくいが)青くなっている。

そういう勝負だったっけ??


「よ~し、愛香、ちゃっちゃと作っちゃいなさい」

「う、うん」銃声に驚いて手を止めた波野が、フィギュア製作に戻る。

「おい、ちょっと待て!なんだ今のは?」

外野から黒鬼が鷹目に突っ込む。

「知らないの?爆発成形っていう手法よ。ちょっと残念な事故があったけど」

「そ、そんなのがあるのか?」黒鬼が困って、こっちに問いかける。

「アルヨ」「アルネ」「アルアル」「アル~」

困っているのは俺たちも同じだ。

相手が鬼(NPC)でよかった。


第一回戦、(ほぼ)不戦勝

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