鬼が島3 反逆の魚介類
■「俺様の野望 第二回公式イベント情報掲示板」
良い子のおやくそく
・必ず難易度を明記すること
>俺、Hardなんだが、もう泣きそう
>何があった?
>海に行ったら、サメが泳いでた。
海水浴出来そうにねぇよ。
>まだまし。
ExHardなんて、海にガノOトスが居て、水流ブレス噴いて来るんだぜ?
砂浜全部危険地帯だよ。
>運営、ゲーム間違えてないか?
■翌日の夜8時。
まだ9時には早い時間だが、早めにログインした。
リアルで佐野と約束して待ち合わせしていたので、
佐野もほどなくして現れる。
「佐久間、わかったぞ。聞いてくれよ」
ログイン早々、佐野が興奮しながら話しかけてきた。
「おう、聞くぞ」
「ヒントは、縦読みにあったんだ。
ばしや いなか なそ きか はわう」
「それが、何か?」
「この島には、馬車が通るような田舎があるんだよ。
なそ、つまり「謎」の木が、はわう んだ」
「そうだったのか!じゃ、試しに、はわってくれ」
「……悪かった」
俺たちはそんな話をしながら、POP鬼を倒し、『勧誘』で配下を増やしていた。
「「「「「キー!」」」」」
赤鬼軍団が徐々に構築される。
「お、早いな」「おはよ~」
9時きっかりに、最後のほえもんさんがログインし、PTメンバが勢揃いした。
「さて、あの謎解きはどうみる?」
「バカは死ななきゃ可哀そう っていうのなら、一回、死んでみるとか?」
「あぁ、本当にその通りだと思うよ」
赤影さんの突っ込みにみんなが頷く。
佐野はあまり人の事を言えないと思うが。
「これ、斜め読みだよね?ばななの皮?」
さすがに、波野は見るところが違う。
「俺もそう思った。ばなな といえば、昨日の辛いやつ どうした?」
ほえもんさんも同意見。
「俺が持ってますよ」
アイテム袋から激辛ばななを取り出す。
アイテム袋にしまっておくと「腐る」ということが無いからありがたい。
昨日、ログアウトする前に激辛バナナを回収しておいたのだ。
取り出した激辛ばななを、波野に渡す。
「激辛なら、誰も最後まで食べない。きっと下のほうの皮に何かある」
波野が解説しながら、ばななの皮をむいていく。
だが、皮に変わったところは見当たらない。
赤影さんがにやにやしながら、その姿を見ている。
ふと、赤影さんと目があった。
赤影さんは俺の方を見て「お前言ってやれよ」とアイコンタクトしてきた。
俺もにやにやしていたらしい。
「あれれ?おかしいなぁ」
波野はバナナの皮をひっくり返したり、太陽にすかして見たりしている。
「波野、そっちじゃないよ。こっち」
俺は横から手を出して、捨てられたバナナの、白い実のほうを手で割る。
実の中から、黄色い、小さな鍵が出てきた。
「え!?なんで?」波野が驚く。
俺はどや顔で説明を始める。
「たぬきだから、「た」を抜くとこうだろ」
ば か は
しな
なき
や か
わ
い そ う
「右上側のほう、鍵はバナナ になってるだろ?」
「あ、ほんとだ。だから、バナナから鍵が出てきたのか」
「波野の言うとうり、最後まで食べないもんな」
「でも、残りはなんだ?」佐野が嫌な事を突っ込む
「かわうそは、癒し系なんだよ」
適当に言ってみた。正直、俺にもわからん。
「な、なんだって~~!」「じゃ、かわうそを見つければいいのね」
「確か、池があるんだよな」
みんながノリノリで出発準備をする。
「あーちょっと待て待て」
赤影さんが皆を引き留める。
「■のてかみ を忘れてるだろ?]
ば か は
しな
なき
や か
わ
い そ う
のてかみ
「アナグラムで続けていくと、川で海草、ヤシの実。
たぶん、右目の池に繋がる川に、ヤシの実があるんだろう。
そのヤシの実に、きっとこの鍵にあう鍵穴があるに違いない」
「おぉぉぉ!」
昨日の雨が嘘のように、外はからっぱれ。
俺たちは、配下の鬼で周囲を警戒しながら、鼻の穴(の洞窟)を出て、
右目池の方に向かう。
■
探索を開始してほどなく、右目川にぶつかった。
さらさらと流れる小川には、よく見ると、時折コンブらしい千切れた海草が流れている。
川を遡っていくと、川幅が広くなっているところがあり、
海草が水の中で、林のように群生していた。
海草の群生地のすみに、ヤシの実が一個、不似合に海草に引っ掛かっているのが見える。
「あれだよな」「あ~、あれだな」
俺たちはテンション低く、ヤシの実を見つめる。
「どうすっかなぁ」
さすがのほえもんさんも、腕をこまねいて考え込む。
テンションが低い理由は、海草の林のそばで巨大な赤いカニが居座り、
海草をかじっていることにある。
体長5mはある巨大カニ。
鋭い鋏、血のように真っ赤で、棘だらけの甲羅。
周囲をギョロギョロと見つめる複眼。
どう考えても、「モンスター」に分類される生き物だ。
いかに戦国時代といっても、あんな化け物は居るわけがない。
(そもそも、グリズリーもいないわけだが)
「ためしに、兵士に行ってこさせてみます」
鬼兵士の一人に「ヤシの実取ってこい」と指令を与える。
鬼兵士はカニを遠回りしながら、ヤシの実に近づいていく。
カニが鬼兵士に気が付き威嚇するが、鬼兵士は無視してヤシの実へと向かう。
カニがおもむろに巨体を持ちあげ、口から水流を噴射した。
幸い、こちらからは陰になってよく見えなかったが、
鬼兵士はどてっ腹を水流でぶち抜かれて即死した。
すっくと鷹目が立ち上がる。
「別に、アレを食べてしまっても構わんのだろう?」
うちのガンナーは、死亡フラグ建築にかけては一級品だ。
「んじゃ、ちょっと狙撃してくるわ~」
鷹目がお気楽に歩き始める。
「任せよう」
実際問題、あのカニの堅そうな甲羅に近接攻撃は効きそうにない。
銃撃で弱点を打ち抜くのが最適解かもしれない。
カニは相変わらず、のんびりと海草を食べている。
待つことおよそ10分。
タァァーーン!
穏やかな時間を銃声が終わらせた。
銃弾は、鮮やかにカニの飛び出た目玉を破壊する。
「部位破壊ゲットだ!」「すげぇな」
カニはその巨体を持ち上げ、鋭い鋏で当たりかまわず暴れ始める。
鋏に触れた海草が薙ぎ払われ、川原の岩が砕ける。
一通り暴れ回った後、カニは銃声の聞こえた方向に走って行った。
森の木がへし折られる音が聞こえる。
「いまだ!ヤシの実回収」
カニの居なくなった右目池に駆け寄り、投網でヤシの実を回収する。
回収したヤシの実には、予想通り鍵穴があった。
そして、打ち合わせ通り、洞窟まで駆け戻る。
ヤシの実の鍵穴に、バナナのカギを差し込んで捻ると、かちゃり と軽い音がして、ヤシの実が開いた。
中には、手のひらより少し小さいサイズの勾玉がひとつ。
緑とも青ともいえるような、複雑な色合いに光っている。
【おめでとうございます 八尺瓊の勾玉を発見しました】
神器一個目 ゲットだぜ!
『なんとか、カニを、撒いた』
鷹目からPT全体通信が入る。息切れしているのは、走り回ったからだろう。
『今どこだ?こっちは洞窟にいるぞ』
『砂浜。よくわかんないけど、カニは砂浜には入らないみたい』
砂浜?そこって確か……
『ギャー!デカい魚が……』
通信が途切れた。
きっと、今頃は、このエリアの初期地点、コテージのあたりに転送されているだろう。
彼女のために、グリズリーやコモドドラゴンが居ないことを祈る。
次話「鬼が島4 三本勝負!」
鬼との、異種2VS2の対決
三本勝負!




