嫁取り合戦!
【】は、ゲームのシステムメッセージです。
佐久間領 人口350人
ゲームの正式リリースから1週間が過ぎた。
俺のゲーム経験も同じく1週間だ。
佐久間領は絶賛展開中。最近、鍛冶屋を作った。
兵士用の、武器防具を作る施設だ。
山賊退治の際に投降した山賊を材料に、人体錬成を行った結果、
兵士が20人手に入った。
等価交換の法則?そんなもん関係無いね。
今は、鍛冶屋で彼らの装備を順次整えている。
初期装備のぼろ服 とかでも良いんだけど、見栄えも大事だもんな。
彼らの鍛錬を兼ねて、兵士を八野に所属させ、領地の巡回。
治安向上させている。
八野は「狩人」のスキルがあるらしく、巡回ついでに森から多少の食糧や銭を拾ってくる。
良い武将を見つけたもんだ。
いつもと同じように、ログイン後施設建設を指示。
今日は、佐野とフリーエリアに行く約束をしている。
約束の時間まで相馬と元太を引き連れて、領地に繰り出そうとしていた。
ダダダダダダダダッ
平屋の館にあわただしい足音が響き渡る。
こういうとき、うちは玄関から近いから楽だね~。階段も無いしな。
「お館さま!一大事です!」部下Aがあわてて駆け込んできた。
「領地内の山道で、お忍びで旅行していた内親王が賊に襲われているようです!」
部下Aが叫ぶのと同時に、システムメッセージが流れる。
【緊急クエスト 『内親王を救え!』が発生しました。 制限時間 30:00】
あぁ、そういうことか。
このゲームでは、通常のクエストとは別に、完全ランダムで緊急クエストが発生する。
発生確率は非常に低く、時間制限まであるので、実に難易度が高い、幻のクエストだ。
急いで佐野にコールする。3コール目で佐野が出た。
「佐野!今動けるか?」
「ん、動けるけどどうした?約束まであと30分くらいあるけど」
「緊急クエストが出た。今すぐ来てくれ」
「マジか!?すぐ行く!」
5分後、佐野と合流。PTを組んで内親王が襲われている場所に急ぐ。
戦闘なら相馬の代わりに八野を連れて行きたいところだったが、
八野は巡回中で、戻すのに時間がかかるのであきらめた。
「お、やってるやってる」
15分くらい探し回ったところで、多くの人間が戦闘をしているのを見つけた。
内親王と思われる側は、10人ほどの武士が荷物を盾代わりに、円陣を組んでなんとか防御している。
攻める側は、野武士らしき一団が30人ほど。
このままほっておくとヤバそうだ。
「行け、元太!」「おう!父上」
「遅れるな、佐野家の武勇みせてやるぞ!」「おう!!」
不意を打った勢いを生かし、手近な野武士に太刀を叩きつける。
一撃で野武士は真っ二つになりながら、消滅していく。
返す刀をすり上げ、次の野武士を狙う。だが、刀で受け止められた。なかなか強いぞ!
その野武士は横合いから突っ込んできた元太に、腹を貫かれ絶命する。
一旦息をため、太刀を正眼に構える。
そして、勢いをつけて、全体重をかけた突きを放つ!
太刀は荷物を超えようとしていた野武士の横腹を貫通。
その勢いのまま、次の野武士もぶち抜くが、荷物に突き立ってしまった。
とっさに太刀を回収することを諦め、腰から刀を抜き、切りかかってきた野武士の刀を受け止める。
ガキッという金属音とともに、火花が散る!
佐野、強いな~。俺はヒマだったんで、佐野の視点を想像していた。
だって、野武士のステータス見たら、全員武力60超えてるんだもん。
俺武力40ダヨ?行ったら痛い目みるよ。
俺たちの参戦で、戦況は盛り返してきた。
だが、人数の多寡はいかんともしがたく、不意打ちの混乱から回復した野武士たちと一進一退の攻防を繰り広げている。
このままじゃ時間切れになるなぁ。
相馬えもーん、なんか策だしてぇ~。
「わかったよ、お館さま。ひ~な~わ~銃~」
その発想は無かった。
相馬は手早く発射準備を整えると、火縄銃を発射した。
轟音と共に、野武士の一人が胸板を打ち抜かれ絶命する。
野武士が混乱した機を逃さず、佐野たちが反撃にでる。
「退け、退け~い!」
生き残った野武士たちが逃げて行った。
【おめでとうございます『内親王を救え!』完遂です。経過時間 28:30】
いやぁ、難易度かなり高いクエストだな、これ。
相馬が銃刀法違反しなければ、やばかったかもしれん。
「大丈夫ですか?」
侍従や侍女、警護の武士は十人くらい生き残っていた。
「主らのおかげで助かった。と内親王様は言っておられる」
その中で一番偉そうな侍従が、内親王様の言葉を伝えてくれた。
といっても、目の前にいるんだから、筒抜けなんだけどな。
内親王は、一言でいえば「麿」だった。白粉まみれの顔、丸い眉毛。
白粉と眉墨が汗で流れ、お姫様を助けた! 的な感動ぶち壊し。
そんなところのリアリティは要らないんだよ!
「略式ではあるが、汝らの功績を称え、
佐野健介を、従八位上 隼人祐に任ずる。
佐久間律人を、従八位上 織部祐に任ずる」
【官位 織部祐に任命されました】
官位キタコレ。
「やった、やったぞ、佐久間!すげぇ報酬だぞ これ」
官位という特殊な身分を持っていると、いろいろと便宜を図ってもらえるようになるらしい。
京都という街限定ではあるが。
本来、官位はかなりの功績を積み、多額の寄付をしなければ手に入らない。
正式発売して、まだ1週間程度しかたっていない段階では、廃人ランカーでも持っているかどうか怪しい、超レアなものなのである。
侍従長の話は続く。
「佐久間殿、ここは貴殿の領地であるな。貴殿を見込んで、頼みがある。
内親王様の侍女の一人が、足を怪我してしまった。
傷は深い。旅を続けていけそうになく、おいていかざるを得ない。
良ければ、貴殿の伴侶として娶っていただけないだろうか?
侍女とはいえれっきとした公家の出だ。家柄も高く貴殿に損は無いと思う」
なんか、無理やりな展開だなぁ。どうせ「麿」なんだろ?
麿になんざ、需要はねぇよ。
「野々宮家3女、その と申します。
ふつつかものですが、末永く、よろしくお願いします」
連れてこられたのは、黒髪の美少女だった。もちろん、麿では無い。
大きめのぱっちりした目、白い肌、桜色の唇。心地よい声。
いや、所詮 作りもの、AIなんだぞ。心を動かされるなよ、俺。
「はい、自分なんかでよければ、喜んで」
即決していた。
こうして、俺に「嫁」ができた。
「領地の見回り、ご苦労様です。気を付けて行ってらしてくださいね」
そのちゃん、俺、今日も頑張るよ~。
こうして『永住希望』スレの住人がまた一人増えた。
次回「合戦に行こう!」
森部で、織田家VS斉藤家の合戦に陣借り参加!
ごめんね、犬千代(前田利家)は出ないんだ。