本気で合戦!
配下武将には、「忠誠度」というパラメータがある。
忠誠度が低いと、命令を無視したり、合戦中に『勧誘』に引っかかったりする。
この数値はPTを組んで一緒に行動する、業物や金を与える、長期間雇用し続ける、
合戦で成果を上げる。といった方法で上がる。
下がるのは、大ダメージで自動撤退させたときや、意に沿わぬ命令を出したとき。
登用直後の初期忠誠度は、一門や自領地出身だと初めから高い。
それ以外の場合はあまり高くないので、早めにケアしておく必要がある。
最近採用した4人のうち、三毛村さん、流水斎、舞蹴の3人は領地出身者なので初めから90を超える。
だが、かえでさんだけは少し低めの70台。
これでも、一緒に甲府に行ったので少しは上がっているのだ。
忠誠度上昇のため、甲府での働きという名目で、金を1枚与えておいた。
宿敵武田家の四天王とガチで戦って退路を切り開いたのだからな。
その結果、ボーナスで建築された施設が、「錬兵所(槍兵)」。
合戦に連れていける兵は、装備により
「歩兵」「槍兵」「騎馬兵」「弓兵」「鉄砲兵」「攻城兵」にわかれる。
「歩兵」は装備無しに近い状態。いわば農民兵。
錬兵所は、領地に1種類しか作れないが、当該兵種の能力を向上させる。
佐野の領地には、錬兵所(騎馬)があるし、鷹目のところは錬兵所(鉄砲)がある。
どれにしようか決めかねていたが、天のおつげとして槍兵メインにしよう。
槍兵は、防御力に優れ、地形を生かした行動が得意だが、移動力が遅いのが難。
こうして兵力を充実させていくと、ちょっと「使って」みたくなるのは、人の性。
久しぶりの「合戦」に参加してみることにした。
現在の兵士数は、3000弱。
すべてを投入して、本気で部隊を作り出す。
第一隊(中央)槍兵1000:俺、三毛村さん、流水斎
第二隊(左翼)槍兵 900:元太、中原、健太郎
第三隊(右翼)槍兵 800:相馬姉弟
第四隊(遊軍)騎馬 200:八野
久しぶりの合戦だ。
今回は兵士数制限3000の大規模合戦に出る。
合戦では、参加プレイヤの人数差があったり、参加人数が少ない場合は、NPC武将が手勢を率いて「参加」することになる。
両陣営は、およそ50人ずつ、合計100人が率いる部隊が参加しているはずだ。
このような合戦は、何か所も設定されているので、場所を選ばなければあぶれる事は無い。
今回は、仮想の合戦場。平地もあれば、丘陵や森も存在する。
ガチ主戦場に行くことを想定し、かなり前の方に部隊を配置。
佐野も、味方側でこの合戦に参加している。
【X月○日 第8大規模合戦 開始します】
合戦開始のメッセージと同時に、部隊は横列陣で進攻する。
槍兵なので、移動速度はさほど早いものではない。
兵力はこの合戦で投入できるほぼ上限値。
その整然たる進攻ぶりに、出会った小規模の部隊はあっさり逃げる。
我々は、森を横目に見ながら、粛々と敵陣に向かって進んでいく。
季節はすでに初冬。天気は晴れており、風もほとんど無い。
合戦開始から約10分。順調に侵攻していたが、
前方に、NPC武将、茂武山兄弟の旗が見えた。
兄弟2人で横列陣を組んでおり、ぱっと見、全体の兵数は4000を超える。
こちらと同じく、槍兵主体の部隊だ。
この兄弟、能力はそれほど高くないものの、2人で組んだ連携がプレイヤ泣かせ。
他にも、茂武谷、茂武野、茂武峠など、数多くのNPC武将がいる。
「どうする?三毛村さん」
「ちょうどいいですなぁ。予定通り行きましょう」
「よし、総員戦闘態勢!敵は前方、茂武山兄弟」
一回、言ってみたかった。
オゥ!という声が周囲から聞こえてくる。
かえでさんが手塩にかけた兵士たち。士気は高い。
さらに、装備は波野直伝の改良型の槍に胴丸。兵数以外はこちらに分がある。
彼我の部隊は徐々に距離を詰めていく。
左翼の元太の部隊が足早く進み、ゆっくりと斜行陣を形成する。
そして、激突。兵の質で佐久間、数で茂武山。
だが、こちらが斜行陣へと陣形を変えたため、双方の陣形が接する部分は限定されており、茂武山は数の利を生かすことができていない。
それに気が付いたのか、茂武山は、早々に予備部隊を投入。
陣形を組み換え、双方が斜陣に変わっていく。
こうなってくると、兵力に劣るこちらは防戦一方。
茂武山は兵数の多さを利用し、こちらを包囲しようとする。
こちらの陣形は、左翼の元太は持ちこたえているが右翼の相馬姉弟が押されている。
そして、中央部は両翼の動きに翻弄されているように見える。
ゆっくりと陣形が変わっていき、最初の横列陣から90度回転した形になってきた。
我々の背後はなだらかな丘陵だ。そこには木々が生い茂り、森となっている。
だが、この合戦場に居るのは、我々の部隊だけではない。
我々と押し合う茂武山勢の後方はるか遠くを、敵の総本陣に向けて移動中の佐野配下の騎馬隊が通過していく。
きっと、敵の本陣に突撃をしにいくのだろう。
茂武山勢に緊張が走る。
しかし、佐野の部隊はこちらに見向きもしない。
かなり距離があるので気が付いてすらいないだろう。
我々への援軍ではない。戦場の些細な環境変化だ。
茂武山兄弟は、それを確認したのち、我々を攻め続けることに決めたようだ。
「さすが、三毛村さん。予定通りってとこかな」
「あとは、八野の頑張り次第~」
佐野の騎馬隊本隊が通り過ぎたあと、その後を追うように一群の騎馬隊が現れた。
風に翻る佐野家の旗。
その騎馬隊の装備は不ぞろいで、本隊に遅れた落ちこぼれの一団に見える。
敵将の意識が、楽観と期待でその一群を無視したとき、勝敗は決まった。
落ちこぼれの騎馬隊は、突如進行方向を変じて、
茂武山隊の背後をえぐるように駆け抜ける。
背後から急襲された茂武山隊に混乱が広がっていく。
こちらの陣形変化に誘導され、茂武山隊の後背は合戦場の中央。
お世辞にも、背後が安全とは言えない。
敵部隊が通りがかり、事のついでに襲ってきてもおかしくない。
茂武山隊の兵士たちは、今の状況が「背水の陣」であることに気が付いたようだ。
さっき通過したはずの騎馬隊3000という「水」に、恐怖を感じているだろう。
「お館さま、今だにゃ」
「全部隊、突撃!」
俺の合図で、赤い旗中央部隊に上がり、風にたなびく。
背後の森から健太郎と配下の兵士たちが、木々を派手に鳴らして登場し、大音量で叫びながら戦闘に参加する。
後ろからの急襲、前からの増援。
茂武山隊の士気が崩壊し、後ろから隊列が崩れていくのがわかる。
流水斎がヒヤッハーして敵陣に突撃し、それにつられるように兵士たちも活発化、
敵軍を押し始める。
もはや、戦闘ではなく、追撃と言った方が正しい。
呑気に歩いていたら、俺と三毛村さんはあっという間に「前線」から置いて行かれた。
「ほら、お館さま、勧誘しにいきましょ」
「忘れてた、急がねば」
■
今回の作戦は、俺の発案を三毛村さんが実際の戦術に落とし込んだもの。
銀河の英雄的な人の伝説を参考にした。
森を横目に横列陣で進攻。森の中は、予め忍者たちが伏兵の警戒と地勢の確認。
敵と遭遇した場合、斜陣に移行。
そのまま回頭し、敵の背面を主戦場に向ける。
一部の兵は、脱走兵を装って森に隠れ、忍者たちと連携して伏兵となる。
八野は、事前に佐野から借りておいた佐野の旗を使って偽装。
本隊とは少し離れて行動し、他部隊の通過とあわせて突っ込む。
どうせ狭い合戦場の中。遅かれ早かれ、いずれ他部隊が通過する。
ちなみに、佐野とは特に打ち合わせはしていない。偽装用に旗を借りただけだ。
俺と三毛村さんが前線まで辿り着いた時、既に茂武山隊は潰走しており、
前線というより、決死の殿部隊が残って頑張っているだけだった。
兄弟は最後まで頑張っていたが、流水斎とかえでさん、元太の3人で身柄確保。
兵士を逃がすために自ら盾になるとは、茂武山兄弟な、情に厚い設定のようだ。
『勧誘』で多少の兵士を補充し、再編に取りかかる。
しかし、再編が終わる前に、周囲の警戒にあたっていた八野から急報が入った。
「お館さま、敵の騎馬部隊3000がこちらに迫ってきます」
「全部隊、森の中へ移動」
森の中へ部隊を隠す。
間一髪、敵方の豪族と思われる騎馬隊の先鋒が、
森のそばに差し掛かっていた。
敵の騎馬隊は、森の周りでうろうろとしている。
騎馬隊は平地でこそ威力を発揮するが、森では脚が止まり、その戦闘力は半減する。
既に、合戦開始からかなりの時間が経過している。
だが、眼前の敵部隊には戦闘を切り抜けた疲れが見えない。
まるで、合戦に来たばかりのようだ。
「お館さま、きっとあの豪族は、茂武山隊のおこぼれ狙いでしょうなぁ」
「やっかいなのに引っ掛かったな」
こちらは、完勝したとは言っても多少は被害もあるし、疲労がある。
温存されていた部隊との連戦はできれば避けたい。
「じゃぁ、無視しましょ」
我々は森の中を先に進むことにした。
相馬姉弟の部隊を残し、森を城に見立てて、相手を挑発、足止めに徹する。
騎馬隊は、丘陵や森等の変化地形に弱い。
どうせ、漁夫の利を狙っていたやつなので、騎馬隊を森に突っ込ませるような、
いちかばちかの戦法は取ってこないという読みの上だ。
もちろん、佐野にも教えておいた。
足を止めている騎馬隊なんぞ、活動している騎馬隊から見れば雑魚も同然。
佐野が来たら、相馬姉弟ならうまく連携してくれるだろう。
森の中の行軍は、多少手間取ったが、主戦場付近にまで到達した。
眼前では乱戦が広がっている。
残す合戦時間は30分を切った。
「魚鱗の陣、先鋒は元太どの 頼むにゃ」
「お任せあれ」
最近、元太に風格がでてきた。
乱戦における先鋒は非常に危険だが、任せて問題は無さそうだ。
槍兵で強固に陣形を組み、戦場を通過する。
元太と中原の先鋒部隊が敵を切り裂き、後続の本隊が防御を担当。
主戦場を貫通したとき、合戦時間が終了した。
【X月○日 第8大規模合戦 終了しました】
今回の報酬は、「金」3枚。
そこそこの成果を上げたと判定されたらしい。
槍兵は、攻撃力が高く無いので、撃破数を稼ぎにくい。
やっぱり成果が低くなるんだよなぁ。
その代わり、自慢の防御力で当方の損害は2ケタ。
むしろ、『勧誘』で逆に兵士が増えた。
ま、今回はどの程度戦えるかがわかったのが一番の成果。
なかなか、やれるじゃないか。わが軍は!
最後に、捕虜とした武将の対応だ。
茂武山兄弟は、典型的武将顔。
背丈はふつうだが、がっちりとした胸板で骨太の「漢」体型。
2人とも髭をぼうぼうと伸ばしていて、現代日本なら顔で捕まってもおかしくない。
違いと言えば、
兄はモミアゲが異常に発達し、もじゃもじゃしている。
弟は眉毛が異常に発達し、一本になってもじゃもじゃしている。
「この茂武山権造、采配に感服いたしました。是非、配下に加えてください」
「兄者共々、これからよろしくお願いします」
あれ?もう登用フラグがたってる。
「うむ、汝ら、二人がかりとはいえ、ワシとやりあうとは見所がある。
きっちりしごいてやるぞ!」
「「押忍!」」
流水斎が勝手に決めた。
こうして、配下武将たちの「漢」度が急上昇した。
次回はまだ未定です。




