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洞窟と竜!(緑箱)

今回は、赤、青、緑の3分割の最終話です。

「この子の名前は、ぴーちゃんにしよう」

「ぴぃぴ~」

30分間の休憩の間に、波野と白い犬はすっかり仲良くなったようだ。

10個ほど出しておいたもんぶらんは、全て無くなっていた。

全員が復帰してから、再度洞窟を進む。


「ぴ~ぴぴ~」

ぴーちゃんは、嬉しそうに我々を先導する。

この階層は一本道になっており、曲がりくねってはいるが分岐は無い。

多少の傾斜はあるものの、概ね平坦な作りなので歩きにくさは感じない。


しばらく歩くと、突然ぴーちゃんが立ち止まる。

洞窟の前方に、木が生えているのが見えた。

木といっても、葉っぱが一枚も無くいびつに枝を伸ばした枯れ木だ。

その枝は、やせ細った人間が手を伸ばし、通せんぼをして居るように見える。

強引に枝を折り取れば洞窟の先に進めそうだが、

常識的に考えると洞窟の中に木など生えようが無い。

こういうのを調べる時、ネットは便利だよな。

今までと同じように「妖怪 枯れ木」でぐぐる。


『妖怪 枯れ桜

寿命が来た桜が妖怪になったもの。

通りかかる動物を殺し、もう一度花を咲かせる為の養分にする』

「あれ、たぶんモンスター的なもんだよな」

脳筋の佐野もさすがにわかるか。みんなに検索結果を説明する。


「あまり近づきたくないな。火矢でも打ちこんでみるか」

「そうね。やってみる」

早速、波野が火矢を作り始める。

といっても、矢の先に布切れを巻き、油をしみこませるだけ。

ぴーちゃんは興味深そうに、波野の周りをくるくる回っている。

「火もってない?」

「その辺に松明が って、ここは無いのか」

第一、第二階層は松明がずらりと並んでいたが、この階層の灯りはヒカリゴケ。

火種にはならない。

「しょうがない、ちょっと待ってろ」

赤影さんが荷物からほくち箱を取りだそうとしたとき。

ぴーちゃんが、口からぽうっとろうそくくらいの火の玉を吐きだし、布切れに着火させる。

火は油に引火し、めらめらと布切れを燃やす。

「ぴーちゃん、すご~い」

予想はしていたが、やはりぴーちゃんはドラゴンの幼生らしいな。

「ぴぴ~」

ぴーちゃんは波野に褒められて、うれしそうに尻尾を振っている。

「さて、火が消えないうちに っと」

波野は弓に矢をつがえ、狙いを定めて、枯れ桜に向かって撃つ。

矢はきれいな放物線を描いて、枯れ桜の幹に突き刺さる。

たちまち、枯れ桜は火に包まれ、苦悶するかのように暴れ始めた。

枯れ桜は動き回ることはできないようで、しばらくその場で暴れていたが、

やがて動きを止め、消滅した。


「やっぱり、こいつ、ドラゴンの子供かぁ」

「親竜が先に居そうだな。VIP待遇しとかないと」

我々の思惑をよそに、ぴーちゃんは澄まし顔で「ごほうび」の

おねだりをしていた。


さらに10分ほど通路を進むと通路は行き止まり、大きな両面開きの扉があった。

「ぴぴぴ~」

ぴーちゃんは、しきりに扉をひっかき、早く中に入るよう、俺たちを急かす。

扉を開いて中を見ると、そこは直径20mくらいの丸い部屋。

銀貨が、砂丘のようにいくつもの小山を形成している。

「金」や刀、宝飾品といったアイテムが、銀貨の山に埋もれるように散見される。

ひときわ目立つ場所に、一本の西洋風の直剣が鞘ごと突き立っていた。

そして、中央に体長10mはある真っ白い毛をした小山のような生き物。

小山は、我々に気がつくとゆっくりと動き出し首をもたげる。

その姿は、まさに西洋のドラゴン。ぴーちゃんの親なのだろう。

子供の背丈ほどありそうな、真っ赤な瞳がぴーちゃんを見つけると少し細くなる。


「あれが、ぴーちゃんのパパ?」

「ぴぴ~」そうだ というように頷くぴーちゃん。

波野が腕にぴーちゃんを抱きしめ、黒髪執事と白髪執事を引き連れて、親竜のもとに行く。

「あなたの、お子さんが迷子になっていたので、連れてきました」

「ぴぴ~」ぴーちゃんが波野の腕から飛び出し、親竜の首筋に飛んでいく。

「心配していたぞ。よく帰ってきた。お前らには褒美をやろう」

親竜は、流暢な言葉で喋った後、大きく息を吸い込む。

背後でバタンと扉が閉じる音がした。

『逃げ足』スキルが発動し、視界の隅にカーソルが点灯する。

「お館さま!」白髪執事が波野を突き飛ばす。

次の瞬間、親竜の口から、轟音とともに炎が迸る。

近距離にいた2人の執事は、一瞬にして燃え尽き消滅した。

豪族(プレイヤ)や、豪族の配下武将は死なない。

大ダメージを受けると領地に自動帰還し、しばらく能力値半減になるだけだ。

彼ら2人の執事も今頃は波野の領地に転移しているだろう。


「え?え?」

混乱する波野。彼女は白髪執事のおかげで難を逃れた。

「波野!」赤影さんが波野をこっちに引きずってくる。

「クク、愚かな人間ども。うまい具合に引っかかったな。

有り金を全て差し出せば、見逃さんこともないぞ?我輩は、寛大だからな」

親竜は、ゆっくりと立ち上がりながら、蔑むような目つきで俺たちを見つめる。

「嘘、ぴーちゃん、嘘だと言って!」

波野の渾身の問いかけ。

ぴーちゃんは、冷めた目で波野を一瞥する。

そして、ぺっと唾を地面に吐き、口の片端だけを釣り上げて、

にたぁりと下衆い笑みを浮かべる。

そして、親竜の毛の中に、紛れ込むように隠れた。


ティラノサウルスは、敏捷性に優れる子供が獲物を追い込み、

噛み付きに優れる親の一撃でトドメを刺した という説がある。

もしかして、ドラゴンもその手合いなのか!?


「万事休す、か」

「俺たちに倒せるのか……」

「ぴーちゃん……」

打ちひしがれる3人。しかし、俺は違うことを考えていた。

「なぁ、みんな。どうせなら死んだ気で……」

咄嗟に考え出した作戦を皆に説明する。

皆の目に、生気が戻ってくる。



「有り金を出す気になったか?」

「いいや、断る」

「ふふ、燃え尽きろ!」

親竜が大きく息を吸い込み、業火を吐き出す。

だが、それよりも早く、我々は部屋の中に散開していた。

佐野は、一番目につくところにある西洋風の直剣を目指して走る。

我々3人は親竜の牽制のために、めぼしいお宝を漁る。

どうせ攻撃しても物理ダメージは通りそうにない。

それなら、「精神ダメージ」を与えることでこちらにヘイトを稼ぐ!

俺は銀貨の山を無視し、手当たり次第に刀を集める。

赤影さんは散らばった「金」をアイテム袋に入れ、

波野は高そうな宝飾品を集めている。

親竜に迷いが生じた。

その間に、佐野は直剣のところに駆け寄り、剣を確保する。

あれはきっと「エクスカリバー」とか「ドラゴンスレイヤー」的な武器で、

一気に逆転が出来るはずだ。

ここからは、俺たちのステージだぜ!


佐野は、鞘から一気に剣を引き抜く。

「あれ?この剣、折れてるんだけど」

「運営、ふざけんなぁ~~~!」

鞘から引き抜かれた細身の直剣は、真中あたりでぽっきり折れていた。

「一応、やるだけやってみるかぁ」

「危ない!」

親竜は、佐野の隙を見逃さず、攻撃を仕掛ける。

しっぽ攻撃(テイルウィップ)の直撃を受け、佐野は自動撤退(リタイア)になった。

その後、親竜は我々にも襲いかかり、最終的には全員が自動撤退(リタイア)になった。

システムメッセージが流れる。

【緊急クエスト 『ダンジョンを探れ!』 全員撤退により失敗】

こうして、俺たちのダンジョン探索は失敗に終わった。


ダンジョンの風景が薄れ、見慣れた自分の領地に飛ばされる。

やられるまで集めていた刀剣類は、既に俺の所有物となり、今も手の中にある。

このゲームでは、所有者の居ないアイテムは即座に拾った人間のものになる。

今回は、二段構えの作戦。

一段目の「ドラゴンスレイヤー作戦」は不発だったが、

二段目の「お宝だけでもゲット作戦」は大成功。

舐めてんじゃねぇぞ、運営(ドラゴン)さんよぉ。


波野の領地で再集合する。

クエストは失敗だったが、皆の表情に悔しさは無い。

「これは、佐久間が持った方が良いと思う」

佐野が、あの折れた剣を俺に渡してくれた。

『クルタナ 魅力+7 装飾品 慈悲を象徴する、切ることのできない剣』

なんと、竜の巣にあっただけあって、ランク7(国宝級)の業物だった。

武器で無く装飾品ってとこが予想外だったが。

「ありがとな、じゃ、こっちを代わりにやるよ」

俺が確保したのは刀剣類。ランク5の名刀も混ざっている。


俺たちは、鼻息荒くドヤ顔で今回の戦利品を自慢し合う。

俺はランク7の直剣が1本、「ひゃくてん」の木の札。

佐野はランク5から3の業物の刀を合計7本。

波野は高価そうな装飾品を6つと「ロングボウ+1」

赤影さんは「金」を50余枚と「ショートソード+3」 


「いや~大量だねぇ」赤影さんが勝ち誇った顔で語る。

「金」50枚ともなると、合戦での優秀功績賞5回分にあたる。

「ぴーちゃん、仇はとったわ」

波野は、王侯貴族のように、宝石たっぷりの装飾品に囲まれている。

リアルなら、あの宝石で人生が買えそうな大きさだ。

「♪~~」

佐野は、鼻歌交じりで大小とりどりの刀を見比べている。


途中で手に入れた「金」2枚は、波野に渡した。

配下武将を自動撤退させると忠誠度が下がるので、その回復用だ。

実際のところ、「金」を必要とするほどの大幅低下では無いのだが、

高額報酬に浮かれた我々の金銭感覚はマヒしている。


一旦失敗になると、ダンジョンの入り口は塞がれてしまうらしく、

鉄鉱山に穴の痕跡は見当たらなかった。


ネットでの情報では、領地で鉱山開発をしていれば、結構な確率でクエストは発生していた。

だが、鉱山を持っているのは生産系プレイヤだけであるのに加え、6時間という拘束時間の長さから、大半のプレイヤは、クエストが発生してもチャレンジせず、放棄していたらしい。

我々が匿名で情報を流したところ、生産系プレイヤがダンジョンPTを募集する姿が、平安京で見られるようになった。

6時間という、緊急クエストでは長めの時間設定はPT募集の時間も考慮してあったのだろう。

しかし、親竜はあまりにも強すぎ、そこで詰まっていた。


3ヶ月後、ようやく、ほえもんさん率いる剣豪PTが親竜を倒した。

その時には、既に目ぼしいアイテムは持ち去られており、

ほえもんさんは持ちきれないほどの大量の銀貨を手に入れ、

その大半を放棄して領地に帰ったそうな。

次回「とある領地の日誌!」

ほのぼの領地運営。

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