洞窟と竜!(青箱)
今回は、赤、青、緑の3分割、2話目です。
俺たちは、階段を降りて地下2階へと進んだ。
地下2階も1階と同じような石造りのダンジョン。
まるで、良くできた城の石垣のようにぴたりと石が合わさっている。
ところどころに魔法(?)の松明があるため、灯りの必要は無い。
階段を下りた先はT字路になっていて、左右に道が伸びている。
「まるで、VRMMORPGだな」
佐野がいまさらな感想を漏らす。
「右で良いよな?」「OK」
「待って。マッピングとかしなくていいの?」
「う~ん」波野の提案に、男3人が顔を見合わせる。
その必要性は認めているのだが、正直面倒くさい。
「白、地図をお願い」「承りました」
執事付であることをわすれていた。
右の道を進むと、しばらくしてから左に折れる。
折れた先に伸びた通路には、赤と白に塗り分けられた、50センチくらいの大きさの手足のある達磨が5匹居た。
彼らは手足をばたばたさせ、タップダンスのようなでたらめな踊りを踊っている。
妖怪、踊り達磨だ。本来は階段の「踊り場」に棲息している。
「おい、あいつら転がって、体当たりしてくるぞ」
よく知ってるな、赤影さん。
だるまたちは、我々に気が付くとごろりと横になる。
そして、こっちに向かって転がってきた。
だが、小さい、動きが直線、そもそも遅いの三拍子そろっているので、
簡単によけることができる。
道の行き止まりにぶちあたり、動きを止めただるま達。
俺は、そいつらに『投網』を放つ。
だるまたちは、変なところに網が引っかかったのか、起き上がれなくなって、
ごろごろしている。
佐野と黒髪執事が動けない達磨たちにとどめをさした。
彼らが消えた後には、「金」が2枚。
「おぉ!」みなの感嘆の声。
「金」は、合戦でそれなりの功績を上げないと入手できない。
配下武将の忠誠を最大にし、外交時に相手組織の好感度を大きく上げる、
究極の対NPC好感度上昇アイテム。
朝廷に献上すると、スキルガチャ券と交換してくれるという使い道もある。
「なかなか、良い報酬だな」赤影さんがうれしそうに言う。
現金な話ではあるが、良い報酬があると俄然やる気が出てくる。
さらに道を進むと左に曲がっており、曲がった先の通路の左手に、
1階の時のような扉があった。
地図を見た感じ、この階層は「回」の漢字のような作りになっているようだ。
真ん中にあるのが最後の部屋だろう。
赤影さんが扉を調べる。
今回は1階の時よりも時間がかかっている。
「開いたぞ。罠は無かったが、カギがかかっていた」
さっきから、ピッキング的な作業をしているのが気になったのだが、
そんな「システムアシスト」があるのだろうか??
警戒しながら、ゆっくりと部屋の扉を開ける。
部屋は今までと同じ石造りの正方形。
大きさから推測するに、隠し通路や隠し部屋は無さそうだ。
部屋の中にあるものは、3m四方の大きなテーブルがひとつ。
そして、人魚(仮)がテーブルの上に居た。
卑屈そうな目、デカい鼻の孔、土色の唇。
佐野でなくとも見ているだけでむかついてくる。
ヤツは、大きないびきをかきながら眠っていた。
よだれと鼻提灯が苛立ちを増大させる。
人魚(仮)のそばには、折りたたまれた紙切れが見える。
飛びかかろうとする佐野を押しとどめ、一旦扉を閉めた。
「階段は無さそうでしたね」
「うむ。あの紙切れが気になるな」「わたしも」
「あの人魚(仮)コロしてぇ」
相談の結果、赤影さんにこっそり紙切れを取ってきてもらう事になった。
赤影さんは少しだけ開けた扉の隙間から、器用に体をねじ込ませると、
足音をたてずに、するするとテーブルに近づいていく。
そして、紙切れを取り上げると、やはり無音で扉まで戻ってきた。
赤影さんが戻ってきてから、音を立てないよう、扉を閉める。
「ふぅ。ざっと見た限りでは、やっぱり階段や通路は無かった」
そういいながら、赤影さんは綺麗に折りたたまれた紙を広げ、
中に書かれていた文字を読み上げる。
■
やあ。
ようこそ、ダンジョンへ。
この人面魚はサービスだから、まず食べて落ち着いて欲しい。
うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、この顔を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、この部屋を立てたんだ。
じゃあ、頑張ってもらおうか
みんなの顔を見回す。
我々4人は、全員の心がひとつになったことを感じた。
「GO!」赤影さんと俺が、両側から扉を開く。
「うぉぉぉ!」
佐野が抜刀し、部屋の中に駆け込んでいった。
佐野が両断したテーブルをよけながら、部屋の中を探索する。
人魚(仮)が消えたとき、システムメッセージは流れなかった。
きっとまだ「何か」あるはず と思って、さっきから探し回っているのだが、
何も見当たらない。
「これは、あれだな。この扉と逆側に、隠し扉があると見た」
赤影さんの読みは鋭い。部屋から出て、扉の向かい側の壁を調べる。
「ねぇ、向こう側の通路は調べないの?」
赤影さんを待っているのもヒマなので、波野と一緒に逆側の通路に行ってみた。
逆側の通路は、予想通り左手に折れ、先の方で最初のT字路と思われる通路につながっている。
やはり「回」の字だった。
ひとつだけ予想外だったのは、通路に扉があったこと。
この階層の作りは、「口回」だったのだ。
「扉があったよ~」波野が能天気に叫ぶ。
扉を開けると、5m四方くらいの部屋。
奥には下へと向かう階段が見える。
階段の前には、銀色に光る、大人一抱えほどの大きさの液体。
それが、体を波打たせながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
振動を探知して周囲の様子を感じているのだろう。
これは妖怪ぬとぬと。西洋風にいうとはぐれメタル。
波野が矢を放つが、矢はぬとぬとを貫通し、地面に突き刺さる。
ぬとぬとがダメージを受けたような様子は無い。
「ふ~む。ちょっと試してみるか」
赤影さんが、懐から竹の水筒を出し、怪しげな黒い水を地面に撒く。
「なんですか?それ」
「トリカブトの毒」
さすが忍者だ。いろいろ持っているんだな。
ぬとぬとは、毒沼に入り込み、しばらく進んできたが、そのうち動かなくなった。
ぬとぬとが光の粒になって消えた後、手のひらサイズの木片が落ちていた。
拾ってみると「ひゃくてん」と書かれていた。
【おめでとうございます 第2階層クリアです】
今回現れたのは、青い宝箱。
中からは、「ショートソード+3」という名前の、ランク3脇差が出てきた。
「お、ランク3か」佐野が手に取る。
ランク3の業物は、我々のような中堅どころなら1,2本は持っているメイン武器クラス。
「これは、赤影さんかな」佐野が赤影さんに渡す。
「ほう、技+3か。珍しい。俺がもらってもいいかな?」
もちろん、みんな賛成。
業物のボーナスは、それを使っているときにしか適用されない。
波野は技術特化だが、戦闘を遠隔武器で行うために脇差の使いようがないのだ。
もちろん、生産時に脇差を使う事は出来ないので、同じことが言える。
やはり、このダンジョンはかなり実入りが良さそうだ。
この先に期待が集まってくる。
■
ダンジョンの第三階層。
階段から降りた先は、今までと雰囲気が変わった。
今までは石作りだったが、3階からは土壁の自然洞窟になっている。
ヒカリゴケが一面に生えていて、灯りに困らないのが助かる。
洞窟の高さや幅は、およそ3m弱。
「サイズ」的には今までの石造り階層と同じ設計で作られているんだろう。
しばらく道なりに歩いていると、前方に小さな白い生き物が見えた。
遠目で見た感じ、危険は無いように思える。
近づいて観察してみると、体長30センチくらいの、白くもふもふした長い毛の、子犬のような生き物。
だが、背中に翼らしきものがあり、あからさまに犬ではない。
「ぴぃぴぃぴ?」
白い犬は、俺たちを見つけると駆け寄ってきて、匂いを嗅ぎながら、
人懐っこくじゃれついてくる。
「かわいい~」
波野が抱き上げて頭をなでると、白い犬はうれしそうに波野の手に頬ずりする。
「ねぇ、何か食べ物ない?」
「もんぶらんならあるけど」
もんぶらんを与えてみると、最初は怪訝そうに匂いを嗅いでいたが、
しばらく嗅いでいると警戒を解いて、はむはむとおいしそうに食べ始めた。
ここまでのリアル経過時間はおよそ2時間半。
いい機会なので、ここらで、小休憩を入れることにした。
交代で離席し、リアルに戻って一息つく。
俺はコーヒーを飲んでから、熱いシャワーを軽く浴びた。
次回「洞窟と竜!(緑箱)」
「運営」それこそが本当の敵。




